北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)では最近、公開処刑が相次いでいる。

8月30日、国家財産扱いされている牛を2100頭盗み、売り払っていたとして、農場の幹部とレストランの責任者、保衛部(秘密警察)の検問所担当者ら9人が、2万5000人もの市民が見守る中で銃殺された。

それから1カ月も経たず、同じ恵山飛行場で、今度は医薬品を横流ししたとして管理責任者が公開処刑された。経済難の中で多発する、国家財産の横領を抑止する目的があると思われるが、市民からは疑問の声が上がっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

公開処刑されたのは、両江道人民委員会(道庁)の民防衛部の4号倉庫で医薬品を管理していた40代の男性だ。この倉庫には労農赤衛軍、教導隊、赤い青年近衛隊などの準軍事組織向けの武器や燃料、資材、車両、そして医薬品などの物資が保管されている。

現地の住民たちには、当日の12時までに現場に集合せよとの指示が伝えられたが、集まったのは当局関係者や専業主婦だけで、前回よりもかなり数が少なく、農場や市場は通常通り運営されていた。

裁判を行った両江道人民裁判所は、男性が昨年から、倉庫に保管されていた大量の戦時用医薬品を密かに市場に横流ししていたと罪状を明らかにし、その場で死刑を言い渡し、即時執行された。

しかし、現場に集まった市民は判決内容に疑問を呈している。

「戦時物資はひとりが横流しできるほどいい加減な管理はされていない。裁判所は被告がひとりで2万本以上のペニシリンを盗み出したとしたが、そんなことできるのか。それで(市民は)判決を信用していない」(情報筋)

現地の別の情報筋も、市民から上がっている疑問の声をこのように伝えた。

「4号倉庫は、まもなく使用期限を迎える医薬品を、地域の病院に移動させ、新しいものを受け取る形で運営されているが、その過程で明らかになったペニシリンの不足分(の責任)を、(処刑された)ひとりに背負わせたのではないか。こんなやり方はおかしい」

処刑された男性以外にも、ペニシリン横流しに関わった者かがいたが、処罰を逃れるために男性ひとりに罪をなすりつけたのかもしれない。あるいは捜査でこの男性以外の犯人を見つけられなかったなど、様々な理由が考えられる。このようなことは、北朝鮮ではさほど珍しいことでもない。

北朝鮮では秋になり発熱、咳などの症状を訴える人が増えている。それに伴いペニシリンの需要も増えているが、もともと医薬品は不足している。そのため横流しなどに対して警告をするため、敢えて公開処刑を断行したと情報筋は見ている。

北朝鮮は、国際社会からの批判を気にして一時期、公開処刑を行っていなかったが、最近はまたもや国内の経済的混乱が続く中で、公開処刑を乱発している。北朝鮮にも法があり、多くの場合、犯罪は法の定めに従って処罰される。

しかし歴代の指導者は、社会が混乱すると犯罪を抑止したり民心の統制を強めたりするために、超法規的な形を含む公開処刑の執行を命じてきたと見られている。

韓国デイリーNKは北朝鮮当局が制作した、韓流コンテンツを視聴したなどとして公開批判される人々の映像を入手した(デイリーNK)