第1回一帯一路国際協力サミットフォーラムに出席した各国首脳
第1回一帯一路国際協力サミットフォーラムに出席した各国首脳

9月に行われたG20サミットで、インドとアメリカによる「インド・中東・ヨーロッパ経済回廊(IMEC)」構想が発表された。中国が提唱する一帯一路構想に対抗する狙いがあると見られ、米中を双璧とする世界の分断がますます激化する可能性もある。そんななか、今後の世界平和のあり方について、中国人ジャーナリストの周来友氏が提言する。

【写真】ホワイトハウスを訪れたインドのモディ首相

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2013年、中国の習近平政権が提唱した巨大経済圏構想「一帯一路構想」には、現在までに約140カ国が協定を結んでいます。今後、経済成長が見込まれる東南アジアアフリカを一帯一路構想に取り込み、経済新興国への影響力を拡大していきたい中国ですが、こうした中国の動きに警戒感をあらわにする周辺国も少なくありません。中国を抜いて世界一の人口大国となり、GDPランキングにおいても急速なスピードで上位に駆け上がってきているインドもそのひとつです。

6月、インドのモディ首相をホワイトハウスに迎えたバイデン大統領とその夫人
6月、インドのモディ首相をホワイトハウスに迎えたバイデン大統領とその夫人

これまでBRICSの一員として中国とも経済的に連携してきたインドですが、近年にはアメリカとの結びつきも強めています。IMECもそのひとつです。IMECはインドから中東を経由し、ヨーロッパへと至る多国間鉄道・港湾構想で、すでに欧州連合(EU)、インドサウジアラビアUAE、アメリカ、フランスドイツイタリアが覚書に調印しています。ちなみにアメリカはアフリカ地域における一帯一路構想の影響力に対抗するため、「アンゴラコンゴザンビア」を鉄道で結ぶ「ロビト回廊」構想も発表しています。

「グローバルサウス」に属する国々が、中国と米印のどちらをより重要なパートナーとして選択するのか、注目が集まっています。

■変化する世界の勢力均衡

中国は中東地域での影響力を確実に強めています。今年3月、これまでイスラム教の宗派対立を主な原因として断絶関係にあったサウジアラビアイランは、中国の仲介によって国交正常化で合意に至りました。このことは、アメリカの影響力が低下する中東地域で、中国の影響力が強まっていることを象徴する出来事となりました。サウジアラビアイランとの関係強化を模索していたインドは、中国の仲介には複雑な思いを抱いたことでしょう。

世界でもトップクラスの石油・天然ガスの埋蔵量を誇るイランは、すでに中国が進める一帯一路構想への参画を表明しています。反米という価値観も一致する両国は今後、関係強化が一層進み、中国の中東での影響力もさらに強まっていくことが予想されます。

また、これまでアメリカとの関係が良好だったサウジアラビアも、近年は人権問題などでアメリカとの関係不和が指摘されており、中国はテクノロジー国家を目指すサウジアラビアに最新技術の提供などを約束し、一帯一路構想への参画を呼び掛けています。ただ、前述のようにサウジアラビアIMECの覚書においてはアメリカと名を連ねています。

■両構想に「二股」をかける国々も

一帯一路とIMECの両構想にとって重要なルートとなる東南アジア・中東・アフリカの多くの国々は、歴史的に大国によって植民地にされたり、代理戦争の戦場となったりしてきました。

現在、経済成長が著しいベトナムは、今後大きな経済発展が期待されていますが、かつてはフランス植民地となり、独立後もアメリカとの間でベトナム戦争が勃発しました。さらに、その後は中国との間でも中越戦争を経験しています。近年では、南シナ海の領有権を巡り、反中感情の高まりも伝えられています。大国との戦争を幾度となく経験してきたベトナムは、経済分野では貿易輸出相手国の1位はアメリカ、そして2位は中国と、かつて砲弾を交えた大国との関係を深め経済成長を大きく進めているのです。

米中両陣営が新興国に対し、「どちらにつくのか」と選択を迫る場面は今後も増えていくことが予想されます。しかし、過去の歴史から学び、サウジアラビアベトナムのように、大国の間でいかに中立的に立ち回り、双方との関係から利益を得るかという考えが新興国で広がれば、それは新しい勢力均衡へと繋がるのではないかと筆者は期待しています。

人間関係において、不倫や浮気はタブーですが、国家間の外交は今後、どんどん二股、三股交際をしていくことが世界平和につながるのではないでしょうか。冷戦終結後も続いてきた二者択一の時代は終わりを迎えるべきです。

●周来友 
ジャーナリスト。中国浙江省紹興市生まれ。1987年に私費留学生として来日し、司法通訳人を経て現職。翻訳・通訳派遣会社も経営している

構成/廣瀬大介 写真/米ホワイトハウス 露クレムリン

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