会社の成長に必要不可欠な“権利”や“ノウハウ”といった「知的財産」は、適切に活用することでGAFAMのような世界的な企業とも渡り合っていける可能性を秘めています。そこで今回、『「見えない資産」が利益を生む GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス』著者の鈴木健二郎氏が、特許を上手く活用して成長を続ける米企業「Sonos」を例に、知財を活用した経営戦略の重要性を解説します。

知財の活用が企業の急成長につながる

GAFAM以外にも、世界には、知財をミックスで活用することによって急成長を実現している企業がたくさんあります。複数の知財による集合体を「知財ポートフォリオ」と言います。知財ポートフォリオの構成要素には、キャラクター・アート(著作)、サービス名称(商標)、技術・ノウハウ(特許・実用新案)、音楽・映像(著作)、デザイン(意匠)などが含まれます。

そうしたポートフォリオを軸に、事業戦略だけでなくデジタル戦略や法務戦略、マーケティング戦略、あるいは資金調達戦略まで組み込んでこそ、知財ミックスが実現できます。

※  知財ミックス……企業や個人レベルで蓄積してきた技術やアイデアなどの多様な知財を多方面に張り巡らし、時代を先読みして持続可能な価値に変える仕組み。

スピーカー市場で頭角を現している「Sonos(ソノス)」は、主力のスマートスピーカーだけで約500件もの特許を取得していると言われています。日本だけでも100件以上あります。そのようにして世界中で支持を拡大しながら、グーグルアマゾンとも肩を並べられる企業へと成長しています。

※ Sonos……米国の家電機器企業。独自開発・製造したスマートスピーカーが有名。

同社は、知財を活かした成長戦略を実現しています。過去にはグーグルアマゾンを特許侵害で訴えたり、自社のスピーカーを使うように交渉したりするなど、戦略的な事業展開を行っています。このように特許をはじめとする知財は、適切に活用することによって強力な武器となるのです。

とくにスタートアップの場合は、何らかの知財に特化した戦略を立案し、愚直に実行していくことで、大きく成長できる可能性があります。それは既存企業の新規事業においても同様で、特許をはじめとする知財活用を軸に、事業を戦略的に推進することが効果的と言えるでしょう。

知財のメリット・デメリットとは

いわゆる製造業の企業が、従来のビジネスモデルで新商品を開発するとなると、何度も試行錯誤しながら開発に励まなければなりません。その間、人件費や材料費がかかるのはもちろん、在庫も持たなければなりませんし、場所の制約もあるでしょう。

一方、知財は物理的な制約のない資産です。それだけに柔軟に活用できます。現代であれば世界中の情報を収集し、アイデアへと昇華させることも可能です。また、それを国内外で活用してビジネスにつなげることもできるでしょう。

海外の企業は、世界中で情報を交換し、データを送り合いながらアイデアを研ぎ澄ませています。そこから、成長に欠かせないいくつもの知財が生まれることもあるのです。必ずしもモノを送る必要がないため、輸送費や関税を気にすることなく、事業の種を育てていけるのです。

物理的な制約がないからこそ、どんどんアイデアを出し、広げていくことが大事です。工夫次第では青天井にビジネスを拡大できます。まだ、こうした発想で知財を捉えている人は少ないと思います。しかしこれが、世界との差となっているのです。

その一方で、アイデアは物理的に腐ることはありませんが、時代とともに陳腐化するリスクがあります。だからこそ、スピーディに活用して、事業化に向けて常に動かしていくことが重要です。

その間に、参入障壁を築いておくために積極的に出願・権利化し、特許を取得していくことが得策である場合もあります。

ただし、特許は持っているだけでお金がかかりますし、先述の通り特許の仕組みは時間が掛かりますので、権利化しておくことのメリットとデメリットは常に冷静に見極めながら制度を利用することをお勧めします。

データのような知財も取り扱いに注意が必要であるため、流出等を未然に防ぐためにも、専門的な知識を入れながら迅速に取り組んでいくことが大切です。

知財ミックスを実践する「オプティム」

そうした発想で知財ミックスを実践している日本企業も存在しています。例えば、AI・IoT・Robotサービスを提供しているオプティムは、事業戦略の中に知財を含めながら、同社のコンセプトを支える知財の出願や権利化を積極的に行っています。

そのようにして知財ポートフォリオを構築し、急成長を実現しており、各業界とITを融合させながら、さらなる規模の拡大を目指しています。

鈴木 健二郎

株式会社テックコンシリエ代表取締役

知財ビジネスプロデューサー

(※写真はイメージです/PIXTA)