マッチングアプリで知り合った就職活動中の女子大学生や、女性会社員らに睡眠作用のある薬物を飲ませて性的暴行を加えたとして、準強制性交等や住居侵入などの罪に問われているリクルート関連会社の元社員・丸田憲司朗被告人(33)に対する判決公判が9月4日に東京地裁で開かれ、野村賢裁判長は懲役25年を言い渡した(求刑懲役28年)。

被告人は2020年11月に逮捕されたのち、再逮捕が続き、最終的には10人の女性に対する準強制性交等、住居侵入、準強姦、準強制性交等未遂、準強制わいせつで起訴されていた。(ライター・高橋ユキ

●“頼れる先輩”を装って犯行に及んでいた

手口は共通している。隙を見て被害者の飲食物に睡眠薬を混入させたうえ、抗拒不能となった被害者に対し、性交やわいせつ行為に及んでいた。さらに犯行時の様子を動画撮影しており、このとき被害者らの身分証も記録していた。

就職活動中の女子大学生とは就活マッチングアプリで知り合い「そろそろ本格的な就活対策しようか」「課題手伝おうか?」などと声をかけ、資料作成のアドバイスを行うなど“頼れる先輩”を装いながら犯行を重ねていた。

初公判が開かれたのは2021年8月。判決まで2年もの月日を要した。被告人は最近までその多くの公訴事実について認否を留保、または否認していた。

被害者らの供述調書は存在するが、検察官が証拠請求した調書を弁護側が不同意とするため、被害者らが実際に法廷に出て証言するという証人尋問が主に続いていた。そして尋問が終わったころに突然、住居侵入を除いた全てを認めたのだった。

2月の被告人質問では、公訴事実を突然認めたことについて「記憶が曖昧で、明確な答えをしていなかったが、心が痛み、罪を受け入れようという形になった。知人夫妻に娘が生まれ、愛しながら育てる様子を嬉しく思うと同時に、大事に育てられた人を傷つけてしまったんだなという思い……受け入れてお詫びしたいと思うようになった」と、心境の変化があったと述べた。

●検察官「そんな難しい質問ですか?」

そして就職活動の自己分析さながらに、犯行に至った理由を分析した。

曰く被告人は「幼少期の母親のネグレクト」や「精神科で処方された薬の影響」などから女性への不信感と異常な性欲に悩まされていたというのだが、当時付き合っていた女性と性交時に睡眠薬を服用した際に「心理的な抗不安作用や女性不信が解消されたように感じ、とても貴重な手段だと思った」ことから、犯行に及んでいったという。

「自分も相手も……、解放的な気持ちになる……」(2月の被告人質問での発言)

そう述べる被告人に対して、検察官は「女性不信がどうして睡眠薬を飲ませわいせつ行為をすることに繋がるのか」と尋ねたが「相手も開放的になって……解放される状況に繋がっていく……催眠作用で解放的になる……」と、就職活動のアドバイスをしていたとは思えぬほどの小声で答えており、語尾は聞こえなかった。

検察官「つまり相手も解放的な気持ちになるというのは、あなたの要求に比較的応じてくれそうな状況になるってことですかね? そういう状況を、睡眠薬が作ってくれると?」
被告人「……」
検察官「もっと端的に聞くと、睡眠薬を飲んだ状況でないと断られるようなことでも、睡眠薬を飲んでいれば、感覚が鈍くなりボディタッチや性的接触に応じてくれると、そういうことを言いたいんですか?」
被告人「……」
検察官「そんな難しい質問ですか?」

検察官が質問を重ねるが、被告人の言う“女性不信”と犯行の結びつきは判然としないままだった。

また、被害者らの証人尋問が終わってから、公訴事実を突然認めたことについても質問が及ぶと、被告人は“彼女たちの口から聞いてみたかった”から否認を続けていたと釈明した。

検察官「弁護人から被害者の調書は差し入れてもらって読んでいたんですよね。なぜ尋問前に、公訴事実を認められなかったんですか?」
被告人「……実際、彼女たちの口から聞いてみたいと思ったからです」
検察官「どうして?」
被告人「………」

●法廷で読み上げられた被害者たちの悲痛な声

判決に先立つ5月の公判では、被害者らの意見陳述が行われた(代理人弁護士による代読)。被害を知った後の心情や、被告人と会った日に突然眠気に襲われたことなどが語られていた。

ひとりの被害者はこう述べた。

「被告人と知り合って半年の、二度目の食事の時、バーで被告人から勧められた大きな綿飴の乗ったカクテルを飲み干すように言われ、飲み干したあと、いきなり記憶を失った。20時前なのに意識は朦朧となり、タクシーの後部座席にいたことは覚えているが、次に記憶があるのはどこかの駅のホームにいたところで、そこでもまた意識を失った。

次はよく使う駅の前、次は電車の座席に座っていた……自宅に帰れなくなり、友人に迎えにきてもらい泊めてもらった。(中略)

一杯しか飲んでいないのにいきなり記憶を無くした。睡眠薬の混入を疑い、警察に行くか悩んだ。被告人には不信感を抱いていた。3年前の被告人の逮捕報道を目にして、心臓が大きく鼓動し、冷や汗が出て手が震えた。

手口が似ているのでその日に警視庁に電話した……どうして被告人と会ってしまったのかと自分を責め、取調べの時、自分の被害動画を見せられて死にたくなった。被告人の自宅に行ったことすら覚えていない。精神的に不安定になり、精神科に通院している。PTSDと診断された」

被害者らは、知らぬ間に睡眠薬を服用させられ、意識がもうろうとする中で被害に遭った。被告人の逮捕後にその事実を知り、今も苦しんでいる。

●判決を不服として、被告人は控訴

9月の判決で東京地裁は、被告人による10人の被害者に対する犯行があったと認定した。グレーのスーツに白いワイシャツ、マスク姿で証言台の前に座る被告人に対して野村賢裁判長は「犯行状況は動画や静止画で撮影されており、いずれも被害者の尊厳を無視し、自らの性欲のはけ口とした非道な犯行」と指摘し、こう続けた。

「被害者らは捜査機関にその被害を知らされ、実態を認識し、日々恐怖を感じ、身近な人に打ち明けることができずに過ごすなど多大な精神的苦痛を受け、日常生活でも大きな支障が生じている。ところが被告人から慰謝の措置はなんら講じられておらず、苦痛は増大している。被害者らが被害で被っている苦痛を踏まえても強い処罰感情を抱くのは当然。

3年6ヶ月もの間、思いとどまることなく10件の事件を起こした。被害者を思う意識や規範意識が鈍麻しており常習性が顕著である。きわめて厳しい非難が向けられなければならない」

被告人は最終意見陳述で「改めて被害者が深く傷ついていることがわかった。胸と心が苦しくなる。とても罪深い、一生罪を償っていきたい」と述べていたが、地裁の判決を不服として控訴している。

就活中の女子大生らに薬物を飲ませて暴行し「懲役25年」 男のつたない弁明と被害者の悲痛な声