外資系企業の働き方は日本企業と大きく異なります。終身雇用年功序列といった慣習はなく、実力・成果主義といっていいでしょう。それらがモチベーションにつながることもありますが、成果を上げられなければ解雇されることも……。本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP代表の代表の三藤桂子氏が、Sさんの事例とともに、現役時代に高収入だった人が老後破産に陥ってしまうケースについて解説します。

憧れの企業に就職、仕事に打ち込んだ現役時代

Sさんは海外に憧れ、学生時代から何度か海外留学をしたこともあり、就いた職業は外資系航空会社。若いころはCAとしてフライトし、いろんな国に行っていました。

また、CAとしてスキルアップのため、いくつかの航空会社に転職を重ね、1年の半分はフライトも含め、海外で過ごすこともあり、不規則ではありますが、好きな仕事ができて充実した生活を過ごしていました。

40代では後進の指導が多くなりましたが、人事評価は企業内でもナンバー3といわれたこともあり、管理職として年収は1,000万円を超えました。

そんなSさんでしたが、50歳のときに突如CAを解雇され、セカンドライフを考えざるを得なくなります。

外資系企業と日本企業の違い

日本企業は働き方改革が追い風となって、多様な働き方ができるようになりました。かつての終身雇用年功序列といった働き方から、実力・成果主義など、一般的に外資系企業に多い働き方へ移行する企業も増えつつあります。

しかしながら、中小企業が大半である日本では、未だ日本の雇用慣行が色濃く残っているのが実状です。

終身雇用とはご存じのとおり、同一企業で正社員として入社した労働者が、定年、もしくは業績悪化等により企業倒産が発生しないかぎり雇用され続けるという、日本の雇用慣行をいいます。雇用の安定と人材育成を重視する制度といえるでしょう。

終身雇用制度は長く企業に居続け、安定した雇用を実現することができますが、若い世代の人にとっては、正当な人事評価がされないこともあり、モチベーションが保てないなど、デメリットがあります。また、企業にとっても、人件費がかさみ、新規採用しづらいなど、新たな人材確保が厳しくなる可能性につながります。

年功序列とは、年齢や勤続年数に応じて、役職・賃金を上昇させる人事制度のことをいいます。長く企業にいることで賃金が上がっていくので、長年の功績・功労の意味もあるのです。

現在の日本では働き方の多様化により終身雇用は影を潜め、転職しながらキャリアアップする人が増えています。さらには長時間労働の是正、仕事と家庭の両立が求められ、オン・オフがはっきりしている外資系企業の成果主義制度を採用する企業が増えてきました。

スキルをもって働く人にとって、長く同一企業にいることを望んでいる人は少数派かもしれません。なぜなら若い人でも成果を出せば、給与を含め、高く評価されるため、ほかで高く評価してくれる企業があれば「転職」という選択をすればよいからです。若い世代や入社間もない人にとって、成果主義はモチベーションが上がる制度でしょう。

ただし、成果がなければ、即解雇ということもありえます。

憧れの職業の落とし穴

Sさんは、30代まではCAとして働いてきました。その後50歳になるまでは、ほかの企業からそれまでの企業よりもいい条件を提示されるたびに、転職を繰り返します。Sさんにとって転職の条件となるのは、もちろん賃金も重要ですが、それだけでなく、長くCAとして海外に行き続けられるかどうかを重視していました。

40歳ごろからは、管理職となり、後進の指導をしながらCAとしてフライトを続けていました。しかし、原因は不明ですが、次第に腰が痛む日が増えていきます。腰痛を患っていることが原因とははっきりしませんが、海外本社の都合により50歳で解雇。Sさんは愕然としました。まだ50歳という若さでセカンドライフへの突入を余儀なくされたのです。

これまでSさんは不規則な生活ということもあり、結婚には縁がなく独身です。老後のことはニュースで老後2,000万円問題を耳にして、独身の自分は1,500万円程度もあれば余裕で過ごせるだろうと、楽観的に考えていました。

Sさんが50歳で解雇された際、解雇に伴う補償を含め貯蓄額は2,000万円。単身者の老後資金としては余裕の金額かもしれませんが、Sさんの生活スタイルでは60歳で老後破産が確実です。

現役時代、Sさんが自宅にいたのは1年で1/2程度。もともと家事が苦手で、購入したワンルームマンションには片付けられていないブランド品などで溢れかえっていました。

Sさんは華やかな性格もあり、ブランド品が大好きで、フライトの度に時間ができると洋服、バック、靴、化粧品などを購入していました。

いずれは日本に帰ってくることを想定して都内に購入したワンルームマンションは、解雇された際、2,000万円あった貯金から、住宅ローンを繰り上げ返済すると手元には100万円程度しか残らなかったのです。

金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和4年調査結果によると、50歳代単身世帯の金融資産保有額の平均は1,775万円、金融資産を保有していない世帯を含む平均は1,067万円となっています。

現役世代の年収が1,000万円を超えていたにもかかわらず、平均にも到底およばない貯蓄額に加え、追い打ちをかけるような、老後の公的年金の見込額に驚愕します。

Sさんが65歳から受給できる公的年額を試算してみました。現在、解雇により無職。国民年金に加入しています。現状のまま65歳時の年金額は次のとおりです。

老齢基礎年金:79万5,000円(2023年度満額)×370ヵ月÷480月=61万2,812円

老齢厚生年金:50万円×5.481/1,000×250月=68万5,125

合計129万7,937円(月10万8,161円)

Sさんは海外留学時に国民年金の任意加入をしなかったため、金額に反映されない期間があります。

「これでどう生きていけというの……」

老後破産にならないために

幸いSさんは50歳、これからの過ごし方で老後破産は回避できます。英語のスキルを活かし、再就職することで、老後の年金を増やすことができます。購入した高級マンションは住み続けるのかどうか、売却も視野に検討することも必要です。

外資系企業に限らず、成果主義により、評価されたことでの対価を自分のご褒美と使ってしまい、貯蓄ができていない人も多くいます。若いうちから、資産形成し、日常生活の見直しをします。その上で、嗜好品(趣味等含む)にかかる支出とのバランスを考えてはいかがでしょうか。

<参考>

家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和4年調査結果

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)