賃金水準が横ばいを続けるなか、自力で給与アップをめざせる方法の1つである「転職」。人によっては転職で年収が2倍、3倍になったというケースもあるようです。しかし実際には、転職者の4割超が給与ダウンの憂き目にあっており、なかには「3割減」という人も。転職に踏み切る理由や、転職前後の給与事情について、詳しくみていきましょう。

転職後の不満、第1位は「賃金」

日本企業の人事制度の特徴だった終身雇用制度はもはや終わりを告げ、いま、多くのサラリーマンにとって「転職」は当たり前の選択肢になっています。

「うちの会社は大丈夫だろうか」という将来への不安や、給与や労働条件、社内の人間関係への不満といったネガティブな理由、または個人の市場価値を高めるためにといったポジティブな理由など、サラリーマンが転職に踏み切る背景はさまざまです。

厚生労働省の調査によれば、離職の理由については「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」という意見が28.2%でもっとも多く、2番目以降には「満足のいく仕事内容でなかったから」(26.0%)、「賃金が低かったから」(23.8%)が続きます。

一方で、転職先を決めた理由で多いのが「仕事内容・職種に満足がいくから」というもので41.0%。「自分の技能・能力が活かせるから」36.0%、「賃金以外の労働条件がいいから」26.0%と、「転勤が少なく、通勤が便利だから」が20.8%と続きます。「賃金が高いから」という理由を挙げた人は15.1%で、意外にも5番目。

転職後の職場の満足度について、53.4%が「満足」と答えていることからもわかるように、転職によって不満を解消している人が多いようです。一方、11.4%の人は「不満足」と回答。その要因をみてみると「賃金」(27.1%)、「労働時間・休日・休暇」(16.3%)、「人間関係」(14.2%)といった項目が上位に並びます。

離職理由としては3番目に位置していた「賃金」が、転職後の不満の原因としては1番目。「仕事内容が合っている」「スキルが活かせる」といった理由で賃金を度外視して転職に踏み切った結果、「これだけしかもらえないの……」と後悔している人が多いようです。

実際のところ、転職を経て給与が「減少した」という人は40.1%に上ります。その減少幅について深堀りすると、11.7%が「1割未満の減少」、18.1%が「1~3割未満」、10.9%が「3割以上」。仮に「給与3割減」となれば、どんなに労働条件が整っていようとも不満を抱くのは仕方ないのかもしれません。

50代の転職者…10人に1人が「給与3割減」

とくに給与減の影響を大きく受けているのは、50代の転職者。転職で「給与が減った」とする人の割合を年代別に比べてみると、20~40代は3割台であるのに対して50代では5割前後となり、給与の減少幅が「3割」に上ったという人の割合も、50代前半がもっとも高くなっています。

【年齢別「転職で給与減」の割合】

20~24歳:33.2%/7.3%

25~29歳:33.0%/10.4%

30~34歳:32.8%/12.7%

35~39歳:37.7%/13.0%

40~44歳:37.4%/9.9%

45~49歳:32.5%/7.5%

50~54歳:53.2%/18.2%

55~59歳:49.9%/11.8%

出所:厚生労働省令和2年 転職者実態調査』より

※数値左:転職者全体に対する「給与減」の割合、右:転職者全体に対する「給与3割減」の割合

サラリーマンにとって50代といえば、それまでの会社員人生でも給与がもっとも高くなる時期です。

たとえば大卒・男性サラリーマン(正社員)の給与水準をみていくと、20代前半の大学卒業直後に月収23万5,800円、残業代・ボーナスを含む推定年収が348万円ほどだった給与水準は、年齢を重ねるとともに上昇し、ピーク時の50代後半では、月収52万5,700円、推定年収は857万円に達します。

30年超にわたる会社員生活を経て、20代のころ2倍以上の給与を手にするようになった50代サラリーマン。このタイミングで転職に踏み切る10人に1人が、「給与3割減」を覚悟しなければならないのです。単純計算では、年収857万円→599万円。大卒・正社員でいえば30代前半と同等の水準です。

50代といえば定年も目前。老後に向けた資産形成にも、ラストスパートを仕掛けたいタイミングだという人が大半のはずです。そこで年収250万円減となれば、「あと数年我慢すればよかった」と後悔する人も多いでしょう。

サラリーマンとしての集大成となる50代の時期、若いころから挑戦したかった職種の求人をみつければ、「自分の力を試してみたい」と考えるかもしれません。しかし、50代の転職には相応の経験やスキルが求められますし、まったくの異業種への挑戦となれば大幅な給与減も覚悟しておく必要があります。

定年に向けて現在の職場で守りに入るのか、はたまた「給与減もやむなし」と新たなチャレンジに踏み切るのかは、お財布との相談の末、慎重に判断したいところです。

(※写真はイメージです/PIXTA)