故人の金銭や土地建物を受け継ぐ権利である「相続権」。民法で定められた相続権を有する人を「法定相続人」と呼び、優先順位に沿って決められます。しかし「この場合は、誰にが相続人なんだろう?」と迷うケースも。たとえば、内縁の妻との間に子どもがいる場合は……みていきましょう。

非嫡出子、相続人行方不明、養子縁組…相続人範囲の注意点

民法で相続人と定められている範囲は、より詳細に決められています。相続権の有無を正しく知るためにも、相続人の範囲を把握しましょう。

内縁の妻との間に子どもがいる場合

法的に婚姻関係を結んでいない配偶者のことを『内縁の妻』や『内縁の夫』といいます。その間に生まれた子どもは非嫡出子です。非嫡出子は、母との親子関係は出産した事実によって成立しますが、父との親子関係は、父が子どもを『認知』してはじめて成立します。したがって、父に認知されていれば非嫡出子も嫡出子同様に相続権が認められます。

内縁の妻・夫は戸籍に入っていないため相続権が認められません。一方認知されている非嫡出子は、被相続人との親子関係が戸籍で確認できるため、相続権を得られるのです。

一方、認知されていない非嫡出子は、相続人になれません。たとえ生前に「この家はこの子に譲る」というように口約束をしていても、認知されていなければ効力がない点に注意しましょう。

相続人が行方不明の場合

遺産相続の話し合いは相続人全員がそろっていなければ始められません。しかし中には相続人が行方不明で話し合いの場に参加できる状況ではないこともあります。このときに行うのが『不在者財産管理人の選任』または『失踪宣告』です。いずれも家庭裁判所に申し立てて手続きを行います。

不在者財産管理人とは、行方不明者の代わりにその人の財産を管理する人のことです。家庭裁判所の許可があれば遺産分割協議に参加することができます。

一方、失踪宣告をされると行方不明者は死亡したとみなされるため、相続人が変わります。行方不明者が死亡したとされる日が被相続人の死亡前なら、相続権は代襲されます。たとえば行方不明者が子どもであれば、被相続人の孫が代襲相続し相続人となります。

被相続人の死亡後に行方不明者が亡くなったとされる場合、行方不明者は相続権を持ちます。ただし死亡したものとして扱われるため、行方不明者の相続人が相続します。

養子縁組の場合

血縁がなくても『養子縁組』によって法的に親子関係が認められていれば、養子には相続権があります。実子と同じように扱われるため、第1順位の法定相続人になれるのです。

養子にはさまざまなケースがあります。たとえば被相続人との養子縁組により被相続人の養子となった状態はもちろん、配偶者の実子を被相続人の養子としている場合も相続権の対象です。

また配偶者との結婚前に配偶者との養子縁組により配偶者の養子となっている人がいるとします。被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子になったときも、相続権が発生するケースです。

相続欠格と相続人廃除を知ろう

民法のルールでは相続人になれる人であっても、相当の理由があれば相続欠格や相続人廃除で相続人から外せます。相続欠格や相続人廃除とはどのような性質を持つのでしょうか?

相続欠格とは

『相続欠格』は違法行為の制裁として相続権をはく奪することです。民法891条に定められている下記の相続欠格事由に当てはまるとき、特別な手続きなしで相続財産を引き継げなくなります。

  • 被相続人や相続人を死亡させるか、または死亡させようとしたために刑罰を受けている
  • 被相続人が殺害されたことを知っていたにもかかわらず、告発または告訴しなかった
  • 詐欺や脅迫によって被相続人による遺言の作成・撤回・取り消し・変更などを妨害したり促したりした
  • 被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した

以上の通り、被相続人や相続人に被害を与えたり、遺言書の内容を変更したりすることで、被相続人から遺産を引き継ぐ権利を失うのです。

相続人廃除とは

違法行為の制裁として手続きなしに実施できる相続欠格に対し『相続人廃除』は被相続人の意思で推定相続人の相続権を喪失させる手続きです。ただし正当な理由のない廃除はできません。

廃除の効力が発揮されるには、民法892条の廃除原因に当てはまり、裁判所の審査を受ける必要があります。廃除原因は、被相続人への虐待や重大な侮辱・その他の著しい非行です。

ただし廃除できるのは、最低限引き継げる遺留分が定められている相続人に限定されます。そもそも遺留分のない兄弟姉妹は廃除の対象外です。

被相続人の意思で相続権を奪う手続きのため、被相続人は家庭裁判所へ請求しいつでも廃除を取り消せます。一方廃除された相続人からの取り消しは不可能です。

相続人がいない場合はどうなるのか

亡くなった人に配偶者や子ども・父母・兄弟姉妹などの法定相続人がいない場合、遺産はどのように扱われるのでしょうか?法定相続人が存在しないときの手続きを解説します。

相続財産清算人の選任を行う

故人が保有していた財産は、法定相続人がいれば遺言書や民法のルールにのっとって引き継がれます。一方相続する人がいないときは『相続財産清算人』を選任し、管理を任せます。

選任には利害関係者や検察官による家庭裁判所への申し立てが必要です。利害関係者は下記に挙げるような関係の人です。

  • 故人にお金を貸している人や故人の住居の家主などの債権者
  • 遺言で遺産の受取人として指定されている特定受遺者
  • 故人と同一生計で暮らし療養看護していた特別縁故者

誰が相続財産清算人に就任するかはケースにより異なります。親族から選ばれることもあれば専門家が選ばれることもあるのです。選任された相続財産清算人が、相続の手続きを進めます。

最終的には国庫に帰属する

相続人のいない遺産は国庫へ帰属しますが、すぐに国庫に入るわけではありません。

はじめに、相続財産清算人が選任された旨と相続人を捜索する旨の公告が、6カ月以上の期間で行われます。

相続財産清算人はこれと並行して、債権者や受遺者がいれば申し出るよう2カ月以上の期間で公告を行います。債権の弁済や遺贈を受けるなら、この期間に申し出ます。期間中に申し出があれば、公告期間終了後に弁済されます。

相続人を捜索する旨の公告の期間が終わるまでに相続人が現れないときには、『相続人不存在』となることが確定します。特別縁故者はここから3カ月以内に財産分与を申し立てます。

これらの過程をへて最終的に残っている遺産が国庫へ帰属するという流れです。

相続人の範囲・相続割合は事前に知っておくと安心

相続人は民法で定められている法定相続人が基本とされています。配偶者の他、子ども・父母や祖父母などの直系尊属・兄弟姉妹です。

配偶者が最優先されますが、その他の相続人には順位や相続割合が決まっています。ただし被相続人が有効な遺言書を残している場合には、その内容が優先されるのが原則です。

相続人の範囲や相続割合などについてあらかじめ知っていれば、相続発生時にあわてず対応できるでしょう。

※画像はイメージです/PIXTA