不動産市場の不振が続き、いよいよ「バブル崩壊」に対する懸念が高まっている中国。「不動産価格は常に右肩上がり」という一種の神話が崩れ去り、投資マインドが冷え込む国民に、当局はどのような対策を打ち出しているのか。東洋証券上海駐在員事務所の奥山要一郎所長が解説します。

「バブル崩壊」がささやかれる中国不動産市場の実態

2年前に訪れた河南省三門峡。黄河が流れるこの街で、建設途中で放置されたマンションを見かけた。

「デベロッパーが逃げたんだよ」

チャーターした車のドライバーがつぶやく。「我々の血と汗を返せ」などと書かれた抗議の垂れ幕が風になびいていた。「爤尾楼(ランウェイロウ)」と呼ばれる未完成ビル。その最前線はあまりにも寂れていた。恒大問題が大きく取り沙汰される直前のことである。

中国の不動産市場が曲がり角を迎えている。これまでの成長神話に陰りが見え、市民の購入マインドも低下中だ。

中国住宅市場の内訳

まずは住宅市場の数字を見てみよう。2023年1~7月期では、住宅開発投資額が前年同期比7.6%減、新規着工面積が同25.0%減、販売面積が同4.3%減といずれも不振。

一方、販売額は同0.7%増とわずかながらプラス成長だった。竣工面積も同20.8%増と好調に見えるが、背景には「保交楼」という不動産の引き渡し保証政策がある。

これは、デベロッパーの資金難で建設が中断していた物件について政府が完成と引き渡しを支援するもの。要は、「早く作りなさい」とハッパをかけられて再開したプロジェクト分が加算されている。

一方、住宅在庫面積は同19.5%増と芳しくない状況だ。

追い込まれた当局の「秘策」とは

この状況に対して、当局もただ手をこまねいているわけではない。論点は多いが、ポイントは大きく分けて、①保交楼政策の継続、②「認房不認貸」の導入、③市民の投資マインドの改善、になるだろう。

保交楼政策の継続

①の保交楼は、未完成物件の不動産ローンの返済停止運動が社会問題化したことを受け、22年8月に実質スタート。政策性銀行が2,000億元規模の特別貸出を行い建設再開を後押ししてきた。

住宅当局によると、同政策から1年が経ち、資金支援を受けたプロジェクトの再開率は100%近く、引き渡し物件数は165万戸超(全体の60%超)という。

中国人民銀行(中央銀行)は8月17日付の報告で、保交楼政策を24年5月末まで継続すると表明。来年前半までは建設再開・引き渡しが不動産市場の優先課題となる。

当局の秘策②、③…要は「需要を喚起して市場の好転を待つ」

「認房不認貸」の導入

②の認房不認貸は、一種の住み替え促進策と言える。「過去に住宅ローンを組んでいた場合でも、現時点で自分名義の不動産を持っていなければ、1軒目の住宅ローン頭金比率や優遇金利が適用される」という建付け。

中国では投機防止策として複数の物件購入時に金利負担などを重くするケースがあり、現状ではたとえ住み替えでも2軒目購入とカウントされコストが高く付いてしまう。それを今後は、住み替えならば初回購入とみなし、ハードルを下げましょうというもの。

より広く新しい物件への引っ越し需要を喚起するのが大きな狙いだ。

市民の投資マインドの改善

③の投資マインドは、景気改善や市況好転を待つしかないのが正直なところ。中国人民銀行による都市部預金者アンケート調査(23年4~6月期)では、不動産価格の見通しは「下落」が「上昇」を上回っている。

「向こう3ヵ月間で支出を増やす項目」という設問(複数選択)に対して「不動産」と答えた者は16.2%に過ぎず、20年以降で2番目に低い水準。市民のマインド改善はやや時間を要しそうだ。

まとめると、保交楼政策を優先させて市民の不安を払しょくし、住み替え促進策で需要を喚起し、とにかく市況が好転するのを待つ――とでもなろう。今後の展開は読みにくいものの、各指標が揃ってプラスに転じるのは来年以降にずれ込みそうだ。

以上の見通しは、足元統計やマクロ的観点、政策動向から論じただけだ。各企業の状況および戦略はさまざまなので、今後も紆余曲折があり、突発的な事態が起きることもあるだろう。

ただ、「不動産価格は常に右肩上がり」という一種の神話が一旦終了することは衆目の一致するところ。野蛮的成長から理性的発展へ。次なる発展ステージへの模索が続く。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)