動物が同性間で行う性行動は、社会的関係を築いていくために役立っている可能性があるようです。

多くの動物で見られる同性間での性行動は、遺伝子を残すことや種の存続という観点から考えると、役立つものとは思えません。

しかし今回、スペインのグラナダ大学の生態学者ホセ・ゴメス博士ら研究チームが行った新しい研究で、同性間の性行動が数百の異なる動物種の中で、何度も独立して進化し、複雑な社会関係を築く上で貴重な役割を果たしている可能性が高いことを明らかにしました。

科学者たちは長い間、同性間の性行動が生殖や繁殖に直接寄与しないため、進化上どう説明するかに悩んできましたが、今回のその理由の一端に迫ることができたようです。

今回の研究は、2023年10月3日付けで『Nature Communications』に掲載されています。

目次

  • 1500種以上の動物が同性間で性行為をしている
  • 動物たちには同性間の性行動は必要なツールかもしれない

1500種以上の動物が同性間で性行為をしている

同性間の性行為は動物界にはかなり広く浸透しており、特に顕著なものとして霊長類が挙げられますが、他にもコウモリカモメカブトムシ、ヘビ、魚、ペンギンに至るまで、少なくとも1500種の動物で観察されており、これは、哺乳類の種の約5%にも及びます。

霊長類の中ではキツネザルをはじめ、あらゆる種類のサル、大型類人猿を含む、少なくとも 51 種で観察されています。

中でも有名な例の1つはとして、チンパンジー属のボノボに見られます。

性に狂うことで有名なこの大型類人猿は、一日中セックスをし、それをお互いの絆を築く方法として利用しているようです。ボノボのグループは、事実上セックスを中心に構築されていると言っても過言ではないほどです。

このような同性間の性行為は、かつては異常とみなされていましたが、現在はオス・メス、野生・飼育下を問わず、求愛、マウンティング、交尾などを含む同性間の行動が、多くの動物で見られることがデータから明らかになっています

そこで今回、ゴメス博士ら研究チームは、同性間の性行動がなぜ行なわれ、そして進化してきたのかについての理論を詳しく調査しました。

ボノボは一日中性行為をしていることで有名です
Credit:canva

同性間の性行動は有利に働くのか

通常生物の進化を考えた場合、その生物の生存や生殖において不要な要因や不利な要素はどんどん削ぎ落とされていくと考えられます。

そのため、現在多くの生物で同性間の性行動が見られることは、そこに何らかの進化上の利点が存在していることを示唆します。

ゴメス博士らの疑問は「生殖に貢献しない同性間の性行動が、進化する上で有利に働くのか?」ということです。

過去に行なわれた多くの研究では特定の種に焦点を当てていましたが、ゴメス博士らは、さまざまな哺乳類の間での同性間の性行動の出現を系統的に比較する新しいアプローチを取り入れました。

このアプローチにより、同性間の性行動が特定の系統や進化の段階で特に顕著になるのか、または広範な系統にわたってランダムに出現するのかなどの傾向を明らかにすることが可能となります。

その結果、同性間の性行動が社会的な関係の強化や維持に役立っている可能性が高いことが判明しました。

例えば、ボノボのメス同士では衝突後の和解を助けるため、バンドウイルカのオス同士では仲間関係の絆を強めるために同性間の性行動見られます。

今回の調査結果では、社会的活動が活発な哺乳類で、同性間の性行動が頻繁に観察されることが明らかになりました。

また、攻撃的な動物種の中でも、同性間の性行動が一般的に見られることがわかりました。これは同性間の性行動がその種のヒエラルキー内の順位を示すことや、争いを減少させる役割があるためと考えられます。

しかし、哺乳類の進化の中で、同性間の性行動は常に存在してきたものではなく、何度も出現したり消失したりしてきたようです。

それにも関わらず、最近の哺乳類の多くでこのような行動が観察されています。ただし、すべての哺乳類のグループで同じような頻度で見られるわけではありません。

ゴメス博士らは、今後もっと多くの動物で同性間の性行動を研究することで、結果はまた変わっていくかもしれないと語っています。また、今回の研究結果は仮説に過ぎず、他の説明が残っている可能性もあるともしています。

動物たちの同性間の性行動は平和に生きていくために必要なのかもしれません
Credit:canva

動物たちには同性間の性行動は必要なツールかもしれない

2019年に行なわれた研究では、かつて動物たちは現在のように特定の相手だけを選ばず、異性・同性関わらず全ての個体と性行動を行っていた可能性が示唆されていました。これは、性に関する明確な特徴が進化する前の行動として考えられます。

一方、ゴメス博士らの研究は、哺乳類の同性間の性行動が、先祖から共有されてきた特徴とは考えにくいという結果を示しています。

今回の研究では、同性間性行動に関する報告されている割合を、進化系統樹上に組み込み共通先祖に同性間性行動があったかどうかの確率を推測しています。

進化系統樹上に同性間性行動の割合を当てはめた図。青がオス同士、黄色がメス同士、紫は両性で見られる同性間行動
Credit:José M. Gómez et al.,Nature Communications(2023)

報告データにばらつきがあることから、研究者はこの方法では曖昧な結果しか得られない可能性を考えていましたが、分析結果を比較すると、同性間の性的行動が存在すると考えられる箇所は、存在しない箇所よりも新しいことがわかりました。

この結果は、多くのグループの古い先祖には、同性間の性的行動はおそらく存在しなかった可能性を示唆しています。

哺乳類の起源からヒト科の先祖までの変化を示す図では、同性間の性的行動の確率が、進化の大部分の歴史の中で低いままであり、古い時代のサルの起源から増加が始まり、類人猿の起源で大幅に高くなったことが示されています。

つまり動物たちは社会を平和に発展させていく中で、必要に迫られた時に同性間の性行動に及ぶのかもしれません。

ハーバード大学の霊長類学者のクリスティン・ウェッブ氏は今回の研究結果を見て、「社会的にピリピリした状況で、同性間の性行動はその緊張を和らげる効果があるようだ」と指摘しています。

また、「社会的な結びつきの強化、争いの解消、社会的なストレスを管理する方法として、同性間の性行動もまたその中で役立っているのかもしれない」とも述べています。

しかし、ゴメス博士ら研究チームは、動物の性行動の理論を人間の行動にそのまま適用することについては慎重であるべきだと強調しています。

動物の性行動を私たちの社会的な価値観や基準で評価することは、動物の性行動を正確に理解していくうえで障害になるかもしれません。

また、動物たちの間では同性間の性行動が社会的な関係の強化や維持に役立っていると考えられますが、人間に置き換えてみるとそうはいかないでしょう。

人間の場合、同性間の性行動は性的指向(特定の状況やパターン以外興奮しない)の問題となり、同性間の性行動を好む人は、基本的には同性以外を対象としなくなる傾向があります。

しかし動物たちが行う同性間の性行動については、性的指向やそれに伴う自身のアイデンティティ、性的指向のカテゴリ(同性愛コミュニティ)など性的な好みを示すものではありません。

そのため動物の行う同性間の性行動は、自然界で適応していくために何らかの意味を持つツールとして利用されている可能性があるのです。

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参考文献

Curiously, Mammals Keep Evolving Same-Sex Sexual Behavior https://www.sciencealert.com/theres-a-curious-pattern-of-same-sex-sexual-behavior-among-mammals

元論文

The evolution of same-sex sexual behaviour in mammals https://www.nature.com/articles/s41467-023-41290-x
進化系統樹で分析すると「同性間の性行動」は最近になって急増していた