2度のアカデミー賞に輝く名優デンゼル・ワシントンが、世の悪を完全抹消する闇の仕事請負人“イコライザー”として暗躍する姿を描いた「イコライザー」シリーズの最新作『イコライザー THE FINAL』(10月6日公開)。第1作からシリーズを手掛けてきたアントワン・フークア監督は「今回で最終章となることは、この作品に関わる人たち全員で決めた、ごく自然な選択でした」と、アクション映画ファンから惜しまれながら完結を迎えるシリーズへの想いを明かす。

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■「映画のなかでは悪い奴らに正義の鉄槌が下る」

「デンゼルの役者としての様々な側面をこのシリーズを通して掘り下げることができたと思います。もちろん彼にはいつも驚かされてばかりですので、きっとまだまだ引きだしはあると思います。ですが私の知る限り、デンゼルはロバート・マッコールという役柄にすべてを注ぎ込んでくれた。そして私自身も、いまの時点で出すことができるすべてのものを、この作品に注げたと思っています」。

デンゼル演じる元CIAエージェントのロバート・マッコールが、そのスキルを駆使しながら抑圧された人々のために悪を成敗する姿を描いてきた「イコライザー」シリーズ。第1作となった『イコライザー』(14)ではホームセンターの従業員として働くマッコールが、少女を救うためにロシアン・マフィアを壊滅。続く『イコライザー2』(18)ではタクシードライバーに転職し、CIA時代の同僚が惨殺された事件の真相をたどりながら、悪に転じたもう1人のイコライザーと対決した。

そして最新作では、舞台をボストンからイタリアへと移す。シチリアでのある事件をきっかけに肉体的にも精神的にも限界を迎えたマッコールがたどり着いたのは、南イタリアの静かな田舎町。優しい人々に救われた彼はその町を安住の地と心に誓い、イコライザーのスイッチともいうべき腕時計を外し、穏やかに新たな人生を送ろうとしていた。ところがイタリア全土を恐怖に陥れる危険が町に迫り、マッコールは強大な悪と対峙することになる。

「一言で言えば、これは正義についての映画です」とフークア監督は力強く語る。「映画を観ている方々が、エンタテインメントというものを通してその正義を手に入れるような作品だといえるでしょう。悲しいことに現実世界では、そのような正義を得られないことがしばしばあります。だからこそ映画のなかでは、悪い奴らには正義の鉄槌が下される。それを観る楽しみがあるのではないでしょうか」。

ロバート・マッコールが帰ってくる可能性は…?

これまでもマッコールが19秒で敵を抹消するなど、ハードな暴力描写が話題を呼んできた本シリーズ。今作では抹消にかかる時間が9秒へと短縮され、さらに激しい暴力シーンが描かれる。それを示すように、日本公開前の映画倫理委員会(映倫)の審査では、「刺激の強い殺傷出血の描写」を理由にシリーズ初の「R15+(15歳未満の鑑賞不可)」指定を受けることとなった。

フークア監督は本作における暴力描写へのこだわりについて説明していく。「マッコールのバイオレンスが、正しい理由のために使われているのかどうか?今作ではその問いをギリギリのところまで攻めようと考えました。彼は裏切られ、孤独で、自分の居場所さえも失った状態にある。それでも彼はほかの人を助けようとするのか。感情面で彼がいまどのような境地にあるのかを伝えるために、より暴力的で荒々しいものにしなければならなかったのです」。

そして、アクション映画らしさよりもホラー映画のようなバイオレンス描写に注力した理由についても言及。「悪人というものは相手を痛めつけたり恐怖心を煽ったりすることが好きです。しかし、もし彼らが逆に恐怖心を与えられる側になったらどうなるのか。自分たちよりヤバいモンスター、つまりロバート・マッコールに出会ったとしたら。彼の出現によって、悪人たちがどういう状況に置かれているのかを表現したかった。人々を怖がらせ、恐怖に陥れてきた彼らが恐怖にさらされる。そうした雰囲気を目指しました」。

マッコール役を演じたデンゼルとフークア監督は20年以上の盟友。初めてタッグを組んだ『トレーニング デイ』(01)で、デンゼルはアカデミー賞主演男優賞を受賞。フークア監督も一躍人気監督の仲間入りを果たす。その後『イコライザー』で13年ぶりにタッグを組み、『マグニフィセント・セブン』(16)と『イコライザー2』を経て今回で5作目のタッグとなる。

「彼は常に進化し、変化をし続けている。だからこそデンゼルには“映画スター”というありきたりな表現は相応しくはないと思います。彼は紛れもなく、真の役者だからです」。フークア監督は、俳優としての円熟期に突入してもなお新たな挑戦をつづけるデンゼルを称える。そして改めて、デンゼルとの密なコラボレーションによって成功し、自身にとっても代表作となった本シリーズとの別れを惜しむ。

「今回の作品はロバート・マッコールにお別れをするうえで、これ以上にないほどすてきなラブレターになったのではないかと思います。ですが、もしまた脚本家のリチャード・ウェンクがすばらしい脚本を携えて僕らのところに来て、『もう一本やりましょう』と言ってきたら…。いまはまだどうするか決められませんね」と、いつかロバート・マッコールが戻ってくることに含みを持たせた。

構成・文/久保田 和馬

ロバート・マッコールの最後の戦いが描かれる『イコライザー THE FINAL』