「退職金」「貯蓄」「年金」の三本柱で「老後は安泰!」と余裕をみせる高齢者が、なぜか「老後破産」に陥ってしまう事例は少なくないといいます。「長生きリスク」に備えるために、現役時代からどんなことを心がけておけばよいのでしょうか。詳しくみていきます。

東京の中小企業サラリーマン…定年時に受け取る退職金額

サラリーマンはいつか、定年退職の日を迎えます。毎月の給与が途絶えることに、多くの人が不安を抱くはずですが、そこで頼りになるのが退職金です。

東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』によれば、およそ7割の企業が「退職金制度あり」と回答(「退職一時金」「退職年金」「退職一時金と退職年金の併用」の合計)しています。実際に手にする退職金の金額についてみていくと、大学卒・会社都合の退職の場合、勤続年数10年で退職金149万円、20年で414万円、30年で754万円、そして定年退職であれば1,091万円と、1,000万円を超えるようです。

また同調査で「退職一時金の受給のための最低勤続年数」をみると、「3年」としている企業が最多の51.5%。続いて「1年」18.0%、「2年」11.2%と続きます。また、退職一時金制度を導入している企業のうち、38%が特別加算制度を導入しています。うち8割が「功労加算」を導入し、2割が「役付加算」を取り入れています。

そしてもう1つ、定年退職後を生活を支えてくれるのが、年金です。

平均的な給与をもらっていた中小企業のサラリーマンが、将来どれほどの年金を手にできるか考えてみましょう。大卒・中小企業勤務のサラリーマンの年収は、以下のとおり。この水準の給与をもらい続け、60歳で引退したとすると、現時点での国民年金の満額支給額月6万6,250円と、厚生年金を合わせて月17万円ほどとなります。

東京都中小企業「大学卒」の年収】 20~24歳:3,594,525円 25~29歳:4,517,709円 30~34歳:5,254,758円 35~39歳:6,347,547円 40~44歳:6,679,156円 45~49歳:7,482,077円 50~54歳:7,866,692円 55~59歳:8,014,391円 出所:東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』

厚生労働省の調査によると、厚生年金受給者の年金額は平均月14万5,665円で、65歳男性に限定すると16万9,006円。大卒の中小企業勤務のサラリーマンであれば、全国平均よりも多い年金を手にできる計算です。

「退職金・貯蓄・年金で老後は安心」が一転する3つのパターン

1,000万円の退職金を受け取り、年金は月17万円。「これだけあれば、老後は安心」と感じる人も多いかもしれません。実際、内閣府令和5年版高齢社会白書』をみると「経済的な暮らし向きについて心配がない」とする65歳以上の高齢者の割合は68.5%。余裕の源泉となるのは貯蓄額です。

総務省統計局『家計調査 貯蓄・負債編』(2022年)によると、60代の貯蓄額は平均2,458万円、70代も平均2,411万円に達しています。老後を見据えてコツコツと資産形成を行ってきたことで、老後の安心を手に入れているのです。

【貯蓄と負債の推移】 ~29歳:貯蓄439万円/負債717万円 30~39歳:貯蓄858万円/負債1,562万円 40~49歳:貯蓄1,160万円/負債1,226万円 50~59歳:貯蓄1,828万円/負債620万円 60~69歳:貯蓄2,458万円/負債207万円 70歳~:貯蓄2,411万円/負債90万円 出所:総務省統計局『家計調査 貯蓄・負債編』(2022年)

統計をみる限り、大半の高齢者が経済的な不安を抱えることなく暮らしているといえそうです。しかし、老後破産の件数は年々増加していることもまた事実。日本弁護士連合会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』によれば、破産債務者全体で60歳以上の人が占める割合は25%にも上っています。

それでは、「老後は安泰」のはずだった高齢者は、どんな理由で破産に陥ってしまうのでしょうか。

老後破産の理由①「収入減」に対応できなかった

老後破産に陥ってしまう理由として、まずは「収入減への準備不足」が挙げられます。収入源が年金のみとなる老後は、現役時代に比べて当然収入が減少します。本来であれば、収入減に合わせて家計もダウンサイズしなければなりませんが、一度高めた生活水準を落とすのは至難の業。現役時代と同じライフスタイルを継続した結果、家計が火の車に陥るというケースは珍しくないのです。

老後破産の理由②「医療費・介護費」

そして、老後に増えがちな出費が「医療費・介護費」。年齢を重ねれば健康リスクは高まり、入院・通院の機会が増える人が多いでしょう。高額療養費制度もあるため負担額はそれほどではないとはいえ、現役時代に比べれば出費は増え、家計を圧迫します。これも、老後破産の原因の1つになります。

老後破産の理由③引退後も返済が続く「住宅ローン」

近年、晩婚化の影響もあって住宅購入年齢が上昇しており、住宅ローンの完済年齢は平均70代というのが現状です。年金暮らしをしながらローンを返済していくのは想像以上に大変であり、さらに完済しないうちに修繕などが必要となるケースも。結果、家計が耐えられず老後破産に陥るケースが増加しているといいます。

また退職金で住宅ローンを完済し、返済地獄からは抜け出せた一方、貯蓄が減って不安を抱えることになるパターンも。直近の物価上昇もあり、公的年金だけでは最低限の暮らしを維持することすら難しくなっています。年金だけでは足りない生活費は貯蓄を取り崩して補填することになりますから、肝心の貯蓄が十分でなければ、老後は一気に不安定になり、最悪、老後破産に陥ってしまうのです。

「退職金」「貯蓄」「年金」……三本柱で老後は安泰のはずが、想定外のことで家計が破綻。

そんな最悪の結末を迎えることのないよう、現役時代から①~③のリスクに備えておくことが重要です。

①の収入減への対応は、収入が安定している50代のうちから、徐々に生活水準を落としていくという対策が考えられます。具体的には、住居の見直しや自動車の売却など、「固定費」を削っていくような対策が有効でしょう。また②については、健康を維持するために質の良い食事と睡眠、適度な運動を習慣化しておくことがポイントです。

また③の住宅ローンは、上のように退職金で一括返済して貯蓄を減らすのは大きなリスクが伴いますから、40~50代のうちに「繰上返済」も組み合わせ、年金生活突入前に完済できるようなプランを検討する必要がありそうです。

ただ、仮に「老後30年を見据えて」と準備をしていたとしても、「何歳まで生きるのか」は誰にも予想することができません。100歳を超えても元気!という人も少なくありませんから、お金にも長生きをしてもらう、つまり「資産寿命」を延ばすために資産運用の経験と知識を蓄積しておくことが、重要になるかもしれません。

(※写真はイメージです/PIXTA)