アメリカ同時多発テロ事件は、軍事侵攻のみならず平時におけるテロ攻撃も脅威であると再認識させられた出来事のひとつでしょう。事件を受け、日本の自衛隊に見られた変化には何があるでしょうか。

世界を震撼させた大規模テロ事件

2001(平成13)年9月11日、アメリカ東部を飛行する4機の民間旅客機ハイジャックされ、このうち2機がニューヨークにある世界貿易センタービル、1機がバージニア州にある国防総省(ペンタゴン)に突入するという前代未聞のテロ事件が発生しました。死者約3000人、負傷者約2万5000人という未曽有の被害をもたらした「アメリカ同時多発テロ事件」です。

この事件の余波は、意外な形で日本の防衛体制にも影響を及ぼすことになりました。たとえば、事件発生から間もない9月21日神奈川県にあるアメリカ海軍横須賀基地に配備されていた空母「キティホーク」が出港する際、テロ攻撃を警戒して海上自衛隊護衛艦が随伴し、「キティホーク」を護衛する態勢をとったのです。

ただし、この際の根拠法は防衛庁設置法(当時)に規定されている「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」で、実際には武器使用を伴う護衛を行うことはできませんでした。要するに、「護衛に見せかけた航行」だったわけです。

それでも、アメリカ海軍の力の象徴ともいうべき空母を、海上自衛隊の艦艇が「護衛」したという事実は、日米同盟の実効性を内外に広くアピールすることができたといえるでしょう。またその後、アメリカおよび北大西洋条約機構(NATO)各国が実施したアフガニスタンにおける軍事作戦を支援するため、海上自衛隊では補給艦を中心とする艦艇をインド洋に派遣し、各国の海軍艦艇への洋上補給を長年にわたり実施しました。

「守り方」が変わった自衛隊施設

アメリカ同時多発テロ事件によって、法律面にも大きな変化をもたらしました。その中でも代表的なものが、「自衛隊の施設の警護のための武器の使用」です。従来、自衛隊の施設の中で武器を使用して警護を行うことができたのは、武器庫など特定の部分に限定されていました。そのため、施設の大半は武器使用を伴わない形での警備ができるのみだったのです。

これは、自衛隊の施設に誰かが侵入してきたとしても、施設の破壊は容易ではなく、時間も要することから、警察による対応で事足りると考えられていたためです。ところがアメリカ同時多発テロでは、民間旅客機を使って、平時に民間人が軍事施設などに大規模な攻撃を仕掛けることが可能であると判明しました。そこで、そうした場合なども考慮して自衛隊法が改正され、平時から自衛官による武器を使用する形での施設警護が可能になったのです。

また、自衛隊の施設や在日米軍の施設などに対するテロ攻撃が発生するおそれがある場合に、自衛隊の部隊を出動させてこれを警護させることができる「自衛隊の施設等の警護出動」という規定も、自衛隊法の中に新設されました。これにより、平時から大規模テロの発生が差し迫っているような場合にかけて、自衛隊の施設をしっかり警護できるようになったというわけです。

現在でも、他国からの軍事侵攻のみならず、平時におけるテロ攻撃も日本の安全保障上の重大な脅威となっています。アメリカ同時多発テロという大事件を受けて、日本の安全保障法制は新たな時代を迎えたといえるでしょう。

原子力空母「ジョージ・ワシントン」への置き換えが決まり、横須賀基地を後にするアメリカ海軍の「キティ―ホーク」。2008年5月(画像:アメリカ国防総省)。