ボストン・ポップスが20年ぶりに来日した。映画『スター・ウォーズ』などで知られる作曲家兼指揮者のジョン・ウィリアムズのあとを受けて、1995年ボストン・ポップスの指揮者に就任した、キース・ロックハートは、今回、ジョン・ウィリアムズを讃えるプログラムを日本の聴衆に披露する。

2023年10月6日(金)東京国際フォーラム ホールA公演での初日を前に、キース・ロックハートの合同取材会が行われた。

――今の心境を話していただけますか? 

とてもワクワクしています。この30年間、私自身、ボストン・ポップスと、あるいは日本のオーケストラ新日本フィルなど)を指揮するために、何度も日本に来ています。ボストン・ポップスとの来日は20年空いてしまいましたが、このように再び日本のお客さまの前で公演することができ、みなさまと再会することができて、とてもうれしく思っています。

20年前に最後に日本に来てからオーケストラのメンバーの半分以上が変わり、みんな日本に来ることをとても楽しみにしていました。

――今回の「ジョン・ウィリアムズ・トリビュート」はどんなプログラムですか?

7年前、ボストン・ポップスでジョンの85歳のバースデー・コンサートをひらきました。ご存じのように、ジョンは、ボストン・ポップスでの私の前任者であり、ボストン・ポップスが演奏する音楽の中心となる楽曲を生み出してきました。そのとき、ジョン自身のことをもっと知ってもらいたいと思いましたが、ジョンは謙虚な方で自分からは自分のことをあまり話さないので、我々がジョンにインタビューして、彼の人生、音楽との向き合い方、スピルバーグジョージ・ルーカスとのコラボレーションのコラボレーション、あるいは作品などについて語ってもらい、そのインタビュー映像のあとに我々が演奏するというプログラムを作りました。

――今回共演する服部百音さんと角野隼斗さんとは既にボストン・シンフォニー・ホールで共演されたそうですね。

ハヤトとモネとは、9月にボストンに来てもらって、今回演奏する作品を共演しました。ハヤトニューヨークに住んでいるので、彼とは5月にボストンで初めて会って、打ち合わせたりもしました。彼らとボストンでしっかりと合わせることができて、この日本公演を迎えられたのは、本当に良かったと思います。 

モネは、美しく、ソウルフルな演奏をします。彼女は、自分自身の表現を持っていて、とても感情がこもっています。ボストンで共演したときも、完全にオーケストラに溶け込んでいましたね。今回はジョン・ウィリアムズの曲だけでなく、彼女のお父様の作品も演奏していただきます。

ハヤトは凄い才能の持ち主。見事なテクニックを持っていて、クラシックジャズを合わせたセンスが素晴らしいと思います。彼はヴィルトゥオーゾ的(名人芸的)なテクニックを持っていますが、それをサラリとやるところが良いのです。

音楽に、ジャズの要素を取り入れた自由さもあります。今回演奏するガーシュウィンのピアノ協奏曲はクロスオーバー的な作品です。私は、今まで何度もジャズのピアニストと演奏したことがありますが、どのジャズ・ピアニストも、即興は良くても、テクニックで苦労します。その点、彼はテクニックに限界がなく、本当に素晴らしいのです。

また、彼がYoutuberで130万人ものフォロワーがいるというのも凄いですよね。

――もう一つのプログラム「スター・ウォーズ: ザ・ストーリー・イン・ミュージック」はどのような内容ですか?

2019年公開の「エピソードⅨ:スカイウォーカーの夜明け」で全エピソードが終わりましたがそのとき、すべてのエピソードを一つのコンサートにまとめることができないかと考えました。全9作で22時間、一人の作曲家が43年掛かって書き上げた、まさに偉業です。

実は、当時、うちには7歳と9歳の子どもがいて、彼らがYouTubeで、たとえば、ロシア革命の歴史を、アニメを使って6分で説明するという面白くてためになる動画を視聴していたのですが、それを見て、「スター・ウォーズ」を2時間でストーリーが伝えられるものができないかと考えたのでした。そこで、ウィスキーを2杯飲んで(笑)、9作分の脚本を読んで、自分で2時間分の台本を作り、そのあと、全部の音楽を聴いて、どの音楽を当てるかを考えました。

8月にタングルウッド音楽祭で初めて演奏したとき、聴衆のみなさんにとても喜んでもらえました。

――ボストン・ポップスを指揮するジョン・ウィリアムズから学んだことについてお話ししていただけますか?

ジョンが自分の作品を指揮するのを横で見て、自作への彼のアプローチの仕方を学ぶことができました。つまり、作曲家自身がどういうところを大事にして、こだわっているのかを目の前で見ることができて、参考にすることができたのです。ただし、コピーするのではなく、お手本にさせていただいています。作曲者自身がどういうことを思い描いて曲を書いていたのか、目の前で見ることができて良い経験となりました。

――ロックハートさんがボストン・ポップスの指揮者になられて28年経ちましたが、その間、ボストン・ポップスはどのように変化しましたか?

まず、私が初めてボストン・ポップスと来日したときはまだ30歳代でしたが、今は60歳代になってしまいました。これは大きな変化です(笑)。

ボストン・ポップスが、アメリカの”ポップス”の最先端を行き、進化を続けることができるのは、伝統的なオーケストラ音楽だけでなく、今流行りの、時代を反映したいろいろな音楽を採り入れてきたからだと思います。この20年間で、新しく若い演奏家が入り、彼らは、クラシック以外弾きたくないとは言ったりせず、より積極的にいろいろな作品を弾く柔軟性を持っています。

ボストン・ポップスはクラシックとそのほかの音楽の橋渡しをしてきましたし、新しいコラボレーションにも挑戦してきました。近年は、映画を上映しながら、音楽の部分をオーケストラで生演奏する、シネマ・コンサートにも取り組んでいます。

――ありがとうございました。

ボストン・ポップスon the Tour 2023』は、10月6日(金)~8日(日)東京国際フォーラム ホールA、その後、10月12日(木)13日(金)に大阪・フェスティバルホールにて開催。各公演のプログラム等詳細は公式サイトにて確認してほしい。

取材・文=山田治生 撮影=池上夢貢