2020年に入って日本でも一大ブームとなったアジアBLドラマ。「SOTUS/ソータス」(16)や「2gether」(20)など、その先駆けとなったタイBLドラマはもちろん、台湾もますます良作のBLドラマを精力的に世に送り出している。リアルとオンラインで同時に台湾エンタメを楽しめる、初の台湾映像フェス「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」で10月13日(金)から28日(土)まで開催される無料の上映イベントは、「心に刺さる1本が台湾にある」というテーマのもと、いま注目されている台湾BLドラマ「奇蹟」「Stay By My Side」「正負之間~Plus & Minus」がセレクトされている。上映作品を軸にめくるめく台湾BLの世界を、映画文筆家の児玉美月がネタバレ含めて紹介していく。

【写真を見る】胸キュンのキスシーンたっぷりでベッドシーンまで!?正反対の2人の恋愛を描く「正負之間~Plus & Minus」

■カップルに永遠の愛があるのかを説いた「正負之間~Plus & Minus」

台湾BLドラマのなかでもひときわ重厚なドラマを描いているのが、弁護士事務所を舞台にした「正負之間~Plus & Minus」(22)だろう。劇中ではチェン・ゾーショウ(マックス・リン)と、彼に密かな想いを抱えるフー・リーゴン(ハオ・シー)の勤める弁護士事務所に、「離婚したい」と依頼してくるゲイカップルがクライアントとして登場する。台湾では2019年5月に「司法院釈字第748号解釈施行法」が施行され、アジアで初めて同性間の婚姻を法制化した国となった。日本と台湾はほぼ同時期に地方自治体レベルにおいてパートナーシップ制度を導入したものの、いまだ日本は婚姻の平等を達成できていない。結婚を望む同性カップルだけでなく、そうしてすでに離婚を望むカップルまでもが作品のなかで描かれるのは台湾の作品ならでは。

しかし婚姻の平等が法制度として果たされたとしても、すべての人々の認識が劇的に変容するわけではない。それはゾーショウの父親が、女性と結婚をして子どもを産むことこそ幸福なのであり、同性同士の結婚は認められないと、2人の交際に反対するエピソードにも現れている。

また、サブカップルとして人気バーテンダーの加藤勇気(キレイ・チェン)とクリーニング店の店主であるジエン・インゾー(マット・リー)の恋愛模様も同時に描かれる。インゾーには別れたパートナーとの子どもがおり、彼らを「スターパパ」と「脇役パパ」と名づけてごく自然に2人の父親を受け入れて「家族」を形成してゆく。

なにより「正負之間~Plus & Minus」が胸を締めつけてくるのは、ゾーショウとリーゴンは仕事柄、日々離婚案件に向き合っているために絶えず愛の終わりに立ち会わなければならず、それが自身の愛への懐疑につながってしまうところだろう。いま想い合っていたとしても、いつかは別れてしまうのではないか。永遠の愛を信じられるのか、2人に何度も試練が立ちはだかる。例えばおよそ30年もの月日の結婚生活を過ごしたのち、もう愛していないからという理由だけで離婚したいと申し出てくる女性の登場にもまた2人は揺さぶられるが、彼らは同時にそうした様々な愛の形態、カップルの関係の在り方を学んでゆく。

■「We Best Love」で描かれた台湾BLドラマきっての名場面

続いて紹介したいのは、台湾BLドラマのなかでも屈指の映像美を誇る「We Best Love 永遠の1位」(21)と、その続編にあたる「We Best Love 2位の反撃」(21)テレビ朝日系列のドラマ「何曜日に生まれたの」(23)に出演するなど、日本でも活動の幅を広げている俳優の楊宇騰YUことYUが初主演を飾ったことでも話題を呼んだ。ストーリーは幼いころから常に1位をとる天才肌のガオ・シードー(リン・ズーホン)と、万年2位に甘んじてしまうジョウ・シューイー(YU)の2人を軸にして進んでゆく。犬猿の仲として始まった2人は、しかしお互いのことを知りながら次第に惹かれ合う。1話目のオープニングから、青く染まったプールの中でのみずみずしいキスシーンが視聴者の心をグッとつかむ。「We Best Love 2位の反撃」で2人が学生から会社員として働き始め、大人になってからのラブシーンはさらにせつないものとなっている。かつてシードーがシューイーへしてしまったことを悔やみ、もう一度やり直させてほしいと遠くからでも、はっきりと視認できるほどの大粒の涙を溢しながら懇願し、ソファの上で2人がすれ違っていた時間を埋めるように触れ合うひと時は、台湾BLドラマ史上きっての名場面だと言えるだろう。

ヤクザとまじめな学生が異なる世界を越境してゆく「奇蹟」

台湾で「一番ドラマ化してほしい小説」に選ばれ、「We Best Love」など人気BLドラマの脚本家として知られるリン・ペイユーの著作を、自ら脚本、プロデュースを担当した「奇蹟」。2023年8月に日本と台湾での同時配信が始まった注目の台湾BLドラマだ。物語が始まると画面に2023年3月と表示され、バイ・ゾンイー(タロ・リン)とアイ・ディー(ルイス・ジャン)の2人が少年院から出所する。ディーはチェン・イー(ナット・チェン)に連れられて車でその場を立ち去り、ゾンイーは渡された住所へと向かおうとする。すると時間軸は一気に2018年11月へと飛び、医者を志す高校生だったゾンイーは路上に倒れていたファン・ジョールイ(カイ・シュー)に血まみれの刃物をつかまされてしまうシーンへと突入する。そうして殺人の証拠として脅迫された彼は、その日から自宅にヤクザジョールイを匿うことに…。と、1話目から目まぐるしい場面転換によって、その後の展開が気になる作品になっている。社会から外れたヤクザとまじめな学生の2人が互いにどう異なる世界を越境してゆくのか、今後から目が離せない。

■ホラーも甘いラブシーンも楽しめる「Stay By My Side」

「We Best Love」のように反発し合う2人がやがて恋仲になってゆくというプロットは学園もののBLドラマでは定番だといえるが、その系譜に連なるのが「Stay By My Side」(23)。このドラマはオリジナルBLドラマ企画「VBLシリーズ」(Vidol Boys Love)の学園系、スーツ系、ヒーリング系、AI系の4部作のうち、第1部の学園系にあたる。

宗廟育ちのグー・ブーシア(ホン・ウェイジョー)は、姉が霊符の角を不注意で焼いてしまったことから幽霊たちの声が聞こえるようになってしまう。彼はもともと幽霊が苦手だったが、新しいルームメイトであるジャン・チー(ヤン・イーシュエン)に偶然しがみついたところ、なぜか彼に触れていれば幽霊の声が聞こえなくなることに気づく。そうしてブーシアは幽霊の声から逃れるために、それを隠してチーに接近してゆく。天真爛漫で明るい彼は、チーの体の上に散らばったスナック菓子を無邪気に口で食べてゆくなど、時に大胆な行動でクールに見えるチーの心を振り回す。一方、ほかに目的があるとは露知らないチーは自分に近づいてきた彼の時々見せる怖がる表情にほっておけなくなる。チーがさりげなくバイクの小さなフロントミラーに映ったブーシアを愛しそうに一瞥する姿など、「Stay By My Side」は距離を縮める2人を細やかに描いてゆく。陽光が降り注ぐなか、タオルで目隠ししたブーシアにチーがキスするシーンなど、ホラー要素があるとはいえ、甘いラブシーン満載なのもこのシリーズの魅力の一つになっている。

■台湾BLドラマを観れば台湾、日本の「いま」が見えてくる

日本ではBL映画『チェリまほ THE MOVIE 〜30 歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい〜』(22)の劇場公開に際して、作者の豊田悠が原作使用料の一部を結婚の平等の実現を目指す団体である「Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」に寄付したことを公表した。こうしたアクションがメッセージを発信するように、BL文化もまたこの社会に実際に生きている性的マイノリティの人権や権利と決して無関係ではないという意識は近年ますます強まっている。台湾はキリスト教関連の保守団体を中心に苛烈なバックラッシュに遭いながらも「LGBTフレンドリー」として世界的に認知され、ジェンダーやセクシュアリティに関わるイシューにおいて日本やほかのアジア諸国を牽引している。

2023年8月に日本でも公開になった台湾クィア映画『僕と幽霊が家族になった件』(公開中)は「Stay By My Side」と同じく幽霊を扱うコメディ作品だが、事故死してしまい同性パートナーとの結婚が果たせなかったゲイの幽霊が「それまでは“いま”を楽しむだけしかなかったのに、同性婚が可能になってからは“生涯を共にする”という選択肢が生まれた」と語る。その言葉通り、同性間における婚姻の法制度化はそうして同性カップルに新たな可能性と選択肢を与える。婚姻制度そのものに対する是非はあれど、同性間の婚姻を認めない法制度は同性カップルを異性カップルと区別し、差別が社会において厳然としてあることを発信してしまう。台湾BLドラマを観る醍醐味とは、まずそうした社会的土壌のなかで観られるところにもある。それは創造的果実となり、ドラマが終わったあとも描かれた2人の「その先」まで、私たちに夢想させてくれるものにほかならない。

文/児玉美月

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