千葉県木更津駐屯地に配備された陸上自衛隊V-22オスプレイ」。機体後部を見るとアメリカ軍の「オスプレイ」にはない丸い皿らしきものとフレームがあります。日本独自の仕様、役割は何なのでしょうか。

カラーリング以外にも違いがあった日米の「オスプレイ」

千葉県木更津市にある陸上自衛隊木更津駐屯地で2023年10月1日(日)、「第49回木更津航空祭」が開催されました。今回の目玉は、何といっても一般公開された陸上自衛隊仕様のV-22ティルトローター輸送機でしょう。

オスプレイ」の愛称で知られる同機は、運用部隊である「輸送航空隊」の新編並びに陸上自衛隊への機体納入がともにコロナ禍真っ只中の2020年に行われ、さらに2021年と2022年に開催予定であった同駐屯地の航空祭についても、新型コロナの影響によって中止、関係者のみでの実施で終わったことから、今回のお披露目が一般公開としては初となりました

航空祭では日の丸を付けたV-22オスプレイ」が駐屯地上空を飛び回ったほか、会場の一角では地上展示にも供されていました。

筆者もOBの1人として見学に行ってきましたが、それら陸自仕様の「オスプレイ」、よく見ると塗装以外にもいろいろアメリカ軍仕様の機体(MV-22およびCV-22)と異なる点が見受けられました。とくに大きな相違点と言えるのが、背中のコブとその右わきにある黒いフレーム。これらはいったい何なのか、調べてみました。

まず黒くて細長いフレームはHFアンテナです。HFとは「High Frequency」の略で、短波と呼ばれる電波のことをいいます。

これは、長距離通信を行うため短波の特性を活かして通信を行う装置です。電波は基本的に、まっすぐにしか飛びません。地球は丸いため、水平線の向こう側にいる相手には原則として電波を届かせることができませんが、短波は電離層で反射する特性を持つため、まっすぐ飛んで行った先の電離層で反射することで、水平線の向こうにいる相手に電波を送ることが出来ます。

この特性を行かすことで長距離通信を行えるのですが、欠点として電波が届かない不感地帯が発生し、相手と交信が行えない場合があります。とはいえ、遠距離でも通信が確保できるため昔から使われており、陸上自衛隊もいまだに多用していることから、同様のアンテナは様々な航空機に装備されています。

背中に付けた大きなコブは?

続いて丸い方、コブのようなものは衛星通信アンテナ「SATCOM」になります。大気圏外にある「スーパーバード」や「きらめき」などといった通信衛星を利用して交信するためのもので、陸上自衛隊が保有する航空機では、CH-47JA「チヌーク」輸送ヘリコプターの海外派遣仕様機や、同じく「チヌーク」の沖縄仕様機、LR-2指揮連絡機、EC-225LP要人輸送用ヘリコプターなどにも同様の衛星通信装置が搭載されています。

なお、これら従来の陸上自衛隊の航空機に搭載されている衛星通信用アンテナドーム)と比べると明らかに大きいため、もしかしたら海上自衛隊P-1哨戒機航空自衛隊C-130H輸送機などに搭載されているのと同様のアンテナかもしれません。

この衛星通信装置があれば、たとえ洋上や海外などの遠隔地で、駐屯地や基地など拠点になる場所から離れて活動していても、確実に通信が可能です。HFアンテナと違って不感地帯は発生せず、通信衛星を使うため、東京の防衛省を始めとして日本本土の駐屯地や基地と連絡を取ることができます。また略語や暗号を使用しないと交信内容が傍受されるHFと違い、通信内容の秘匿も可能です。

こう聞くと、衛星通信アンテナさえあればHFアンテナは必要ないように思えます。なぜ2種類のアンテナを用意したのでしょうか。これについては、もし有事が発生した場合、仮に宇宙にある通信衛星が破壊されても交信できるようにしているものと考えられます。

ちなみに、衛星通信用のアンテナは実はアメリカ軍の「オスプレイ」にも装備されています。陸上自衛隊の「オスプレイ」とは形が違うため判別しにくいものの、アメリカ軍機も衛星通信は可能です。

まだまだある通信用アンテナ こんなに必要?

これら2つのアンテナ陸上自衛隊仕様のV-22オスプレイ」の特徴ですが、それ以外にも機体には通信用アンテナがいくつも設置されています。たとえば前出の「SATCOM」アンテナの前側にある小さな角状の突起物は航空管制用のVHF/UHFアンテナです。

また、さらに海兵隊のMV-22には装備されていないアンテナとして、垂直尾翼の前縁上部、衝突防止灯(アンチコリジョンライト)前にあるフィン状のものがあります。これは、アメリカ空軍のCV-22も初期では付いていませんでしたが、後期生産型からは搭載するようになっています。このフィンですが、話によると無線機のアンテナだそうです。それが自衛隊V-22にも搭載されているということは、陸上自衛隊の保有する広帯域多目的無線機用のアンテナではないかと筆者(斎藤大乗:元自衛官ライター/僧侶)は考えます。

なぜ、ここまで数多くのアンテナが用意されているのか、ここからは筆者の推察になるのですが、おそらく航空管制用はパイロットのみで、広帯域多目的無線機用は、同乗者も使用可能だと思われます。

広帯域多目的無線機は、「コータム」の通称で知られる陸上自衛隊の野外通信システムのひとつです。これは航空科に限らず、陸上自衛隊のあらゆる部隊に広く配備されています。ということは、陸上自衛隊の「オスプレイ」で空輸される第1空挺団(日本唯一の落下傘降下部隊)や水陸機動団(日本版海兵隊と揶揄される水陸両用部隊)も装備していることから、彼ら(被空輸部隊)が団本部を始めとした友軍部隊と交信するために装備しているのではないでしょうか。

このように複数用意することで、パイロットと被空輸部隊が別々の場所(部隊)と同時並行で個別に交信することが可能です。また別々であれば混信を防ぐことにもつながります。そういった観点から、これだけさまざまな通信装置を搭載しているものと思われます。

陸上自衛隊で本格運用が始まったV-22オスプレイ」。ただ、木更津駐屯地への配備はあくまでも暫定です。当初の配備先であった佐賀空港隣接の新駐屯地が、開設遅延で配備できなかったことから、代わりに木更津駐屯地に留め置いている状況なのです。

地元自治体である木更津市などは、2020年7月から5年以内を目標に、その後は他基地へ移転するという内容で受け入れを認めたため、それらを鑑みると2025年ごろには同地から移駐する計画です。

もしかしたら木更津航空祭でV-22オスプレイ」が飛行展示するのは、あと数えるほどしかないかもしれないので、首都圏在住で一度見てみたいと思っている人は、来年、再来年には航空祭に足を運んでおいた方が良いかもしれません。

2023年10月1日に開催された木更津航空祭で飛行展示を行う陸上自衛隊のV-22「オスプレイ」。機体後部、いわゆるテール部分にアメリカ海兵隊や空軍が使う「オスプレイ」に見られないもの(赤と青の矢印)がある(乗りものニュース編集部撮影)。