ベスト8進出か、プール戦敗退か。勝つか、負けるかですべてが決まる。トライ数もボーナスポイントも他会場の結果も関係ない。日本代表か、アルゼンチン代表か。10月8日(日)・ナントで1点でも多くスコアしたチームが『ラグビーワールドカップ(RWC)2023』プールDを突破するのだ。

もにここまで2勝1敗である。日本は12-34、アルゼンチンは10-27でイングランドには敗れたが、チリ戦は日本が42-12、アルゼンチンが59-5でボーナスポイントを得て完勝した。サモアには日本は28-22、アルゼンチンは19-10とヒヤリとさせられながらも白星を獲得した。勝点は同じ9。日本が82得点68失点9トライ、アルゼンチンは88得点42失点10トライ。ほぼ同じような数字が並ぶが、ディフェンスの堅さでアルゼンチンが上回る。

アルゼンチンブレイクダウンの出足が鋭い。ゴール前に迫れば、FWがフィジカルを生かして近場を攻め込んでいく。相手が近場を固めれば、WTBエミリアノ・ボフェリ&マテオ・カレーラス、FBフアンクルス・マリアらトライゲッターへ展開する。相手ボールであってもサポートが少しでも遅れれば、ボールを確保。ターンオーバーからのカウンターを狙ったり、PGで3点を加点する。

セットピースも強い。ラインアウトからドライビングモールをぐいぐい押し込んでいく。スクラムでペナルティを奪えば、距離が長かろうが、迷わずショットを選択。WTBエミリアノ・ボフェリやSOニコラス・サンチェスというキックの名手たちはハーフウェイライン手前からも果敢にPGを狙ってくる。

実績も十分だ。前回大会で初めてベスト8入りした日本に対して、アルゼンチンは8強2回、4強2回、最高位は3位である。2020年『ザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)』でニュージーランド代表から25-15と歴史的初勝利を成し遂げた。その後オールブラックスに3連敗を喫したが、昨夏の『TRC』では25-18で2勝目をマークした。

姫野和樹(右から2人目) (C)JRFU

日本代表も昨秋国立競技場での『リポビタンDチャレンジカップ2022』でNZに肉薄した。前半から3トライを畳み掛けられるも、37分SO山沢拓也のドリブルトライで反撃開始。前半の内にもう1本返すと、56分にはLOワーナー・ディアンズがキックチャージから独走トライ。66分にLOプロディー・レタリックが退場となり、79分にFL姫野和樹がねじ込んだ。しかし、NZが最後PGを決めて31-38。大逆転劇に向けて、チャンスは広がったが、大金星は指の間からするりとこぼれ落ちた。

アルゼンチンオールブラックスに勝利したことがあり、日本は惜敗どまりだった。しかも、アルゼンチンは2勝。この差はとてつもなく大きい。

ここまでアルゼンチンの強さばかり並べてきたが、付け入る隙がないわけではない。アルゼンチンはもともとペナルティが多く、ハイタックルへの厳罰化でカードを受ける危険性をはらんでいる。そして何より、日本代表がベストゲームを展開すれば、決して勝てない相手ではない。

ご存じ通り『RWC2015』で日本は南アフリカ相手に34-32でブライトンの奇跡をやってのけ、『RWC2019』でもアイルランドを向こうに回し18-12の静岡ショックを演じた。南アもアイルランドもV候補だが、アルゼンチンは第2グループである。世界ランキングを見ても、アルゼンチンは9位、日本は12位だ。日本にとってアルゼンチンは格上だが、手の届かない相手ではいない。

レメキ ロマノ ラヴァ (C)JRFU

問題は日本がベストゲームから遠ざかっている点にある。9月9日の初戦・チリ戦では後半にいいパフォーマンスを披露したが、相手は初出場の国。LOアマト・ファカタヴァが2トライ、SO松田力也が6本中6本のコンバージョンキックを決める活躍を見せたが、内容的には及第点といったところか。

続く9月17日イングランド戦は善戦したのは後半15分まで。開始早々WTBセミシ・マシレワの負傷交代もFBレメキ ロマノ ラヴァが好フォロー。54分松田のPGで12-13に迫るも、2分後の自陣深くでの相手のアタックでパスが頭に当たり、ノッコンかとセルフジャッジで一瞬足が止まったアンラッキーなトライから突き離されて、結局12-34に終わった。

9月28日サモア戦も後半20分からの勝負の時間帯で雲行きが怪しくなった。先発予定だった流大が急遽メンバーから外れたが、SH齋藤直人が見事なゲームコントロール。攻めてはFLリーチマイケル&ピーター・ラブスカフニ、NO8姫野和樹のバックローが揃い踏となるトライを決めれば、松田のショットはこの日も好調。守ってはフィジカルを前面に押し出すサモアアタックを最後まで規律を保って防いでいた。47分相手がレッドカードを受け、数的有利の中56分松田がとどめのPGを決めて25-8。勝負ありと思われたが、ラスト20分にサモアの猛攻にさらされた。モールで前へ前へ押され、ラックから素早い連続攻撃を徹底されると徐々に後手に回り2トライを献上。それでも最後は28-22でゲームを切ったのだった。

会心のゲームがなくても『RWC』で2勝1敗の結果を残すことができるのは、日本に地力が付いてきたことにほかならない。だが次戦の相手・アルゼンチンは持っているものをすべて出さないと勝てない相手である。FWは攻守に奮闘しているが、後半勝負どころでのディフェンスのほころびが気になる。サモア戦を分析したアルゼンチンモールやラック周りから勝機を見出してくるだろう。また日本が苦手とするキックチェイスはアルゼンチンが得意するところだ。

そうした不安視する声を、ディフェス担当のジョアン・ミッチェルACは「(サモア戦の)終盤でラック周辺で攻撃を仕掛けてきて、サモアが勢いを付けた。ひとり目のディフェンスのタックルに修正が必要だが、それは簡単なこと。試合の大半を私たちが支配していた」と一蹴する。

課題はディフェスだけではない。何より待たれるのがスピーディにパスを展開するジャパンラグビーの実現である。WTB松島幸太朗もFBレメキもゲインメーターを稼いでいるが、バックスリーのトライはチリ戦でのWTBジョネ・ナイカブラの1本にとどまる。アルゼンチン戦に向けて、松島は「チームが勝てればそれでいい」としながらも、「トライはひとつくらいとりたいかな」と本音を覗かせた。待望されるのは、バックスリーのトライラッシュだ。

ジャック・コーネルセン (C)JRFU

天国と地獄、明暗が分かれるアルゼンチン戦を前に選手たちはこのように意気込みを語った。
姫野主将「サモアのフィジカルに後半やられてしまった部分もあるので、次のアルゼンチン戦ではそのムラをなくしていきたい。大一番になると思うので、いつも通り自分たちのやることにフォーカスして準備したい」

LO/FLジャック・コーネルセン「セットプレーがかなり重要になる。相手の強みはセットプレーを起点としたものなので、そこで相手に圧をかけ、勢いを与えないこと。相手がやりたようなゲームを展開させないことが大事。アタックのチャンスが訪れた時は、自由にプレーしてジャパンラグビーを展開し、相手を退かせたい」

ディアンズ「すごいパッションのある、フィジカルなチームなのでタフな試合になると思う。ディフェンスして、ターンオーバーをさせ、日本のラグビーをすれば大丈夫だと思う。LOとしてスクラムの仕事はいっぱいあるが、この『RWC』で集中しているのは、タイトファイブだけではなく、FLも入れてフロントローの姿勢をキープすること。プレッシャーをかけられる時に、重心を下げないことで自分たちのいいタイミングでヒットができると思う」

松田「いつも通り自分たちがやってきたことを出すだけだと思っている。それをやるために冷静に、まずは楽しむということを第一に考えてやりたい。チームが勝つことを一番に考えているので絶対勝ち、ベスト8に行くこと。
この舞台で10番として試合に出て、チームに貢献するということを2019年が終わった後から強く思ってやってきた。それがいい形で今、セットアップできていると感じている。3試合終わって全勝したわけではないし、サモア戦も苦しい展開になったが、しっかり勝ち切ることができたというのは自分自身も、チームにもいい自信になって次のアルゼンチン戦に臨めると思う。自分たちがやってきたことをしっかり出せれば、どこの国にも負けない。自分たちの準備に対する姿勢であったり、ラグビーに対する理解度は世界でもいいものを持っていると思うので、それを結果で証明したいと思う」

松島アルゼンチンもかなりプレッシャーをかけてくると思うので、そこを受けずに自分たちからプレッシャーをかけていきたいと思うし、ベスト8というよりもまずは目の前のアルゼンチン戦へ向けて、もっと精度を高くしてやっていきたい」

松田力也 (C)JRFU

日本×アルゼンチンの通算対戦成績はアルゼンチンが5勝1敗と大きく勝ち越している。直近のゲームは2016年11月・秩父宮ラグビー場での『リポビタンDチャレンジカップ』。ジョセフHCの初陣となったゲームである。今大会もアルゼンチンのメンバーに入っているSOサンチェスが2トライ5ゴール3ペナルティゴールで29点叩き出し、WTBマティアス・モロニも2トライをマークするなど54-20の完敗を喫したのだった。

果たして、日本が2大会連続ベスト8を決めるのか、アルゼンチンが2大会ぶり5度目となる決勝トーナメント進出を遂げるのか。『RWC2023』フランス大会・日本代表×アルゼンチン代表は10月8日(日)・ナントにてキックオフ。試合の模様は日本テレビ系にて生中継。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

松島幸太朗