間もなく完全退役する予定の74式戦車には90式戦車10式戦車にはない装備がいくつも見られます。そのひとつが砲塔側面の大きな「箱」。これはどのような役割を担っているのでしょうか。

光を発する大きな「箱」

富士山の麓、静岡県小山町にある富士駐屯地で2023年9月30日(土)、陸上自衛隊富士学校の開設69周年を記念する式典が実施されました。

富士学校は、教育訓練などを行うために陸上自衛隊が保有する主要装備を幅広く取り揃えています。そのため、戦車も最古参の74式戦車から、数的主力である90式戦車、いちばん新しく、かつ高性能な10式戦車の3種類を保有しています。

ただ、陸上自衛隊では、今年(2023年)度末をもって74式戦車を全車退役させる計画のため、前出した3種類の戦車がそろい踏みで式典に参加するのは今年が最後になりました。

74式、90式、10式、これら3種類の戦車を眺めてみると、最も古い74式戦車にだけ砲塔側面に大きな「箱」を取り付けていることに気が付くでしょう。しかも、整列した74式戦車をよく見ると、車体によって、この箱を装備するものと装備しないものの両方が存在することがわかります。いったい、この箱は何なのでしょうか。

この箱は「投光器」すなわちライトです。陸上自衛隊が毎年実施している富士総合火力演習では、夜間演習において74式戦車のライトで的を照らして射撃するといったことを過去実施していました。

また、この投光器は内部に赤外線フィルターがあり、白色光と赤外線の切り替えも可能です。

とはいえ、数km先の目標を照らせるほどなので、その光量は凄まじく、すぐ近くで光を浴びると露出部の肌が火傷してしまうとのこと。なお、戦車部隊では教育の際に、白色投光の実施中は絶対に投光部を直視しないよう厳重に指導されるといいます。

赤外線は非可視光、すなわち目に見えない光のため、夜間戦闘などの際に用いるものといいます。目に見えないため、敵は照らされていることに気が付きにくい一方で、こちらは照射した赤外線を可視化する装置によって目標を捉え、精密射撃が可能です。

74式戦車とともに消えゆく旧式装置

74式戦車のような赤外線を照射するタイプの暗視装置は「アクティブ式」と呼ばれ、第2次世界大戦末期から1960年代後半までの戦車で用いられてきました。しかし、この方式はあくまでも敵が赤外線暗視装置を持っていないことが前提です。もし仮に、敵も同じようなアクティブ式の暗視装置を持っていた場合、敵は赤外線を照射せずに、こちらの照射位置を認識できてしまう欠点を含有しています。

こうした問題から、アクティブ式の赤外線暗視装置に代わって主流になったのが、エンジン排熱や人の体温など、目標が発する僅かな赤外線を増幅して映像化するタイプの赤外線暗視装置です。このタイプは自ら赤外線を照射するわけではないため、「パッシブ式」と呼ばれます。

ほかにも、星や月などの微かな明かりを増幅して映像化する「スターライトスコープ」と呼ばれる微光増幅式の暗視装置も登場したことで、90式戦車10式戦車などでは74式戦車のような大型の投光器は装備しなくなりました。よって、74式戦車が全車退役すると、このようなアクティブ式の暗視装置陸上自衛隊の戦闘車両から姿を消すと思われます。

なお、74式戦車でも全車がこのような大型の投光器を装備しないのは、前述のとおり、数両の内の1両が赤外線を投光すれば、その反射でほかの車両も目標を捉えられるからだそう。そのため砲塔に投光器を装備していない車両でも、受像部は搭載しています。

前述したように、2023年度いっぱいで完全退役する予定の74式戦車ファイナルイヤーということで、この後も各地の駐屯地記念行事などで披露が予定されています。タイミングが合えば、投光器有り無し両方の車体を見比べることができるかもしれません。

74式戦車の砲塔向かって右側、赤い矢印で指し示したのが投光器(乗りものニュース編集部撮影)。