プロ野球のレギュラーシーズンも残りわずか。プレーオフの予想も始まるところですが、一方で悲しい話題も出てくる時期です。そう、戦力外通告。だいたい私の誕生日の前後に発表が始まるので、野球好きになってからは気分よく誕生日を迎えられることがありまえん。

ということで、今回は「戦力外通告」について考えたいと思います。

先日、戦力外となり引退を発表していたヤクルト荒木貴裕選手が引退試合に臨みました。その神宮球場での試合ではヒットを放つことはできませんでしたが、最後は背番号の数だけ胴上げされるなど、とても素敵なシーンでした。

荒木さんは練習の鬼でした。キャッチングがうまく、ファーストの守備についたらピッチャーと呼吸を合わせて牽制でアウトにしたり、試合終盤に守備固めで出てくるときは安心感がありました。派手ではないかもしれませんが、荒木さんみたいな選手が"息が長い"のも事実です。チームのためにさまざまな役割を担い、チームに貢献してくれました。いつかは指導者として戻ってくることを期待しています。

同じように現役引退となった日本ハム谷内亮太選手は、「やちくん」と呼ばれてヤクルト時代(2013年~2018年)も愛された選手でした。最後の試合では尊敬する宮本慎也さんが駆けつけ、花を添えました。また、アイディアマンの新庄剛監督の気遣いもあり、イニングごとに守備位置を5回も変え、結果的に5つのポジションを守り、ユーティリティープレーヤーらしい有終の美を飾りました。

そして最後は"メジャー流"で、守備に就かせてから交代を告げ、満員のファンの拍手に送られながらグランドを去りました。派手な選手とは言えないかもしれないけど、みんなに愛された谷内選手にふさわしい、本当に幸せなシーンでした。

毎年、この2人のように引退を決める選手がいます。若手が活躍すると嬉しい気持ちになりますが、それはチームを去る選手がいるということ。新陳代謝はチームにとって必要なことですから、仕方ないとはわかっていても、思い入れがあるベテラン選手が引退するのは寂しいものです。

27歳の山本も、どうぞよろしくお願いいたします。
27歳の山本も、どうぞよろしくお願いいたします。

幼い頃は大好きな選手がチームを去ることがとても悲しかった。でも、自分の年齢がその選手たちに近づいていくと、野球選手を引退しても人生が終わるわけではないということに気がつきます。

引退後にコーチなどになって、チームに残れるのはほんのひと握りで、野球の世界から離れて一般企業に勤める方も数多くいらっしゃいます。昔は引退した選手が何をしているのか把握することは難しく、「あの選手は今どうしているのか」と気になっても、それを知る術は限られていました。

昨年、元ヤクルト鵜久森淳志さんと久古健太郎さんとトークショーを行なったのですが、お2人は現在、社会人として大きな会社にお勤めです。共通しているのは、SNSを積極的に活用されていること。そう、現在はSNSのおかげで、チームを去ったり、引退したりした選手たちの動向がわかるようになってきています。みなさんの元気な姿を見るたびに「よかった」とうれしくなります。

日本では引退する選手に「お疲れさま」と声をかけますが、アメリカでは「おめでとう」と言うそうです。確かに"第二の人生の始まり"ですし、「おめでとう」という言葉はいかにもアメリカらしい素敵なかけ声だなって思います。

引退が決まって引退試合ができる幸せな選手もいますが、そうではない選手もいます。鵜久森さんはトライアウトを何度も受け、最後のほうは自分でも「ダメだとわかっていた」とのことですが、「家族にユニフォーム姿を見せられてよかった」と振り返っていました。

野球選手が人生の第一章だとしたら、引退は第二章の始まり。今年もプロ野球を去る選手がいます。みなさんの第二の人生が幸多きものになりますように、心から祈って筆を置きたいと思います。

それではまた。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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戦力外通告について語った山本キャスター