2023年8月末に各省庁の概算要求が出そろい、2024年度に向けた予算・税改正の動きが始まりました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の安井義浩氏が、2024年度税制改正要望を分析し、保険・年金に関する税制改正要望について解説します。

1.2024年度予算と税制改正の動きが始まる

8月末までに各省庁の概算要求が提出され、2024年度に向けた予算や税制改正の動きが始まったところである。

例年と同じく、全体からすればほんの一部分ではあるが、保険・年金あるいはそれに近い金融商品に関する税制改正要望がどんなものかについてみてみる。

2.2024年度税制改正要望

1|各業界団体の要望事項

主に保険、年金とその周辺の要望事項を列挙すると以下のようなものである。

生命保険協会>

生命保険料控除の拡充

現在の制度では、平成23年12月までの契約は生命保険所得税5万円、地方税3.5万円、個人年金保険もそれぞれ同額(合計控除額所得税10万円、地方税7万円)、平成24年以降契約は、介護保険に重点が置かれたため分離して、一般、介護、個人年金それぞれで所得税4万円、地方税2.8万円、(合計控除額所得税12万円、地方税7万円)となっている。

通常はこれらの枠組みで金額限度を拡充するような要望が行われていたが、今回は例年とは少し変わっていて、さらに「扶養するこどもの有無」でも区分し、一般についてはこどもの教育費用に直結した重要性があることから、所得控除額を、介護・個人年金より大きい6万円(地方税4.2万円)とすることを要望している。

介護、個人年金は昨年同様、それぞれ、所得税5万円地方税3.5万円を要望し、合計では所得控除限度額16万円(地方税7万円)とすることを要望している。

〇企業年金保険関係

特別法人税の廃止・少なくとも課税停止期間の延長、を要望している。昨年、課税停止期間が3年延長(2025年度末まで)されたので、今年は大きな動きは期待しにくいが、いくつかの業界から引き続き撤廃要望がある。

また確定拠出年金・確定給付年金ともに、現在よりもさらに要件を緩和する方向で、いくつか要望している。

相続税関係

死亡保険金の非課税限度額は現在、「法定相続人数×500万円」であるが、さらに「配偶者分500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算することを求めている。(これも例年と同様)

<日本損害保険協会>

〇火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実を要望している。

自然災害の激甚化・頻発化の中で、昨年度から、火災保険事業の安定的な運営の観点制度そのものの検証や見直しを自ら進め、次年度以降の見直しを要望することを予告していた。

今回も具体的な(数値的な)要望は明らかにされていないが、適用区分や無税積立枠の拡大につき適切な見直しを行うよう求めている。

〇地震保険料控除

従来あった損害保険料控除制度が、2007年より地震保険料のみを対象とするよう改正され、現在の控除限度額は所得税5万円、地方税2.5万円である。

近年の地震リスクがより大きなものに見直される中で、地震保険料そのものの水準は、2017、2019,2021と引き上げられてきた。

それに対する地震保険料控除制度の方もさらに制度として充実させるよう、検討を要望している(昨年と同じ)。

〇企業年金関係

特別法人税の撤廃(生命保険協会と同じ)

<全国銀行協会>

確定拠出年金制度に関連して、特別法人税の撤廃、制度のさらなる普及のための利便性の向上や優遇措置などを要望している。

なお、これらは別途、厚生労働省の担当部署に対し、「確定拠出年金制度に関する改善要望」として要望している。

また金融資産への課税の簡素化、中立化の観点から、金融商品課税の一体化を要望している。昨年要望していたNISA(少額投資非課税制度)の恒久化は達成されたので、次にその利便性の向上に向けたいくつかの手当を要望している。

経団連

産業全般あらゆる分野の要望が盛り込まれている中で、金融・保険・年金の周辺では、「個人の資産形成への支援」という項目で、金融所得課税の一体化、生命保険料控除制度の拡充、特別法人税の撤廃、確定拠出年金制度の拡充など、各業界の要望を取り入れたものになっている。

NISAについては昨年抜本的な拡充・恒久化がおこなわれたので、その円滑な実施のための措置を要望している。

また損保の火災保険等の異常危険準備金制度の充実も「住宅・土地・都市税制」のひとつとして取り上げている。

<信託協会>

信託協会は信託、年金、金融制度全般、不動産などの分野について要望をまとめている。うち年金については特別法人税の撤廃を要望している。

また、確定拠出年金の利便性をより向上させるような税制優遇範囲の拡大や手続きの簡素化につき、いくつか要望している。

また金融制度のなかでは、金融所得課税の一体化1や、NISAの利便性向上にむけた要望を出している。

1 金融商品ごとに異なる課税方式の統一や、損益通算範囲の拡大(例えば、株式損失と利子所得の相殺とか)のことを指す。

2|各省庁の要望

そもそも様々な業界がこの時期に税制改正要望をまとめるのは、今後予算・税制の検討が政府、省庁、最終的には国会にむけて検討が進められるのに、時期を合わせているためである。

ではその各省庁において、概算要求とともに、税制改正要望事項はどうなっているのか、をみる。

例年に比べて、保険年金関係の要望は少ないように見受けられるが、以下の通りである。

金融庁

保険・年金関連では、昨年、「資産所得倍増プラン」関連として、NISAの抜本的改革(積立期間、毎年の投資枠、積立限度額、つみたてNASAの対象年齢など)がなされ2024年1月からの実施を待つ状況であるが、利便性向上のためのデジタル化・簡素化要望が出されている。他には、金融所得課税の一体化などを要望している。

また上記の生保業界の要望を受けて生命保険料控除拡充と相続税関係の事項を要望している。(なお、特別法人税の撤廃については、今回は要望されていない。)

厚生労働省

健康・医療、福祉・子育て、雇用、生活衛生などの幅広い分野の要望項目が挙げられている。今回は年金分野の要望はあげられていない。

3.今後の動きについて

各省庁から財務省に要望が出されたあと、その要望に沿って財源と対費用効果について折衝がなされ、政府あるいは与党の税制調査会で議論がなされていくことになる。

実質的には12月中旬の与党税制改正大綱の発表の中で、ほぼ細部まで確定し、あとはそれを法律に反映させて、年明けの国会で予算案全体の中で正式に決まる。

(写真はイメージです/PIXTA)