ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の5歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 発達に課題があり、集団行動が苦手な子の親御さんの中には、子どもの運動会を前に不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。今回は、アマミさんが一般的な小学校の運動会とは雰囲気が違う、特別支援学校の運動会について解説します。

手厚く配慮してもらった幼稚園時代

 障害があったり、発達に課題があったりする子の親御さんにとって、子どもの運動会は、緊張する行事の一つではないかと思います。他の親御さんやお子さんたちの目を気にして、「みんなと同じようにできるか」「悪目立ちしてしまわないか」「かんしゃくをおこして迷惑をかけてしまわないか」などの心配事が尽きなくなるからです。

 私にとっても息子の運動会は、何日も前からドキドキしたりソワソワしたりする一大行事です。

 しかし、幼稚園時代の息子は、園の先生から非常に手厚く接していただき、環境に恵まれていました。おかげで、ゆっくりながらも成長を確認できる尊い機会として、毎年の運動会を経験することができたのです。

 運動会の際は、周囲の保護者や先生、園児の皆さんが息子を温かく見守ってくれました。走る競技では、息子が走りやすい順番になるように、園の先生が順番を組んでくださったほか、障害のある子や発達の遅れが気になる子を支援する「加配」の先生には、息子にマンツーマンで対応していただきました。

 また、息子と同じクラスの子どもたちは、息子を友達の一人として接し、リレーでは一緒に手をつないで走ってくれるなど、一緒に種目を成功させるべく配慮してくれたのが印象的でした。

 息子が年長のときには、クラスの名前が書かれたプラカードを持って列の先頭を歩くという大役を任せていただきました。

 他の保護者の皆さんも、他の子と同じようにはできないながらも頑張る息子の姿に、「頑張っていたね」と笑顔で私に声を掛けて、居心地の良い雰囲気をつくってくださったため、幼稚園時代の運動会は、私と息子にとってかけがえのない思い出となりました。

 しかし、そうは言っても息子が完全に他のお子さんたちの中に違和感なく溶け込んでいられたわけではありません。遠くから見ても、「あ! あそこにいる!」とすぐに分かるくらい、息子は目立っていたと思います。

 私がそれを気にしていたかどうかではなく、客観的に見た事実として、息子は集団の中で異色な存在だったと思います。

個性豊かな特別支援学校の運動会

 月日がたち、小学生になった息子は特別支援学校に入学しました。

 初めて特別支援学校の運動会に参加したとき、私はこれまでの息子の育児ではあり得なかった新鮮な体験をしました。それは、「集団の中で息子を見失う」ということです。

 特別支援学校に在籍する子どもの人数は、普通の小学校より少ないはずです。しかし、子どもたちがそれぞれ違う動きでその場の雰囲気を楽しんでいたため、息子の存在が集団の中に完全に埋もれてしまっていたのです。先生の人数も多く、生徒の中に混じって対応していたため、息子の担任の先生を探すのも一苦労でした。

 幼稚園時代、加配の先生を見つければ自然と息子が見つかり、探そうとしなくても違う動きをしていることでパッと息子が見つかることが当たり前だった私には、少々衝撃的でした。

 そして、改めて思ったのです。この学校には、誰もが共通とする「普通」はないのだと。みんなそれぞれ自分の「普通」を生きているから、「他の子と同じ」も「悪目立ち」も存在しません。

 しかし、不思議と秩序がないわけではなく、それぞれのお子さんに合った配慮をしながら先生たちが上手に導き、種目を成立させており、集団としてまとまっていました。その絶妙な兼ね合いに、私は感心したのです。

運動会で進路選択に納得

 幼稚園の運動会のような経験も、息子と私にとってはかけがえのない思い出です。「定型発達」といわれるお子さんたちと一緒に1つの競技をつくり上げ、たくさんの優しさの中で経験したことは、息子の財産になったと思います。

 しかし、特別支援学校の運動会にはそれとはまた別の良さがありました。みんなが無理して合わせることなく、それぞれの個性を大爆発して伸び伸びと楽しそうにしている姿は、とても魅力的でした。親としても、引け目を感じることなどまったくありません。

 息子のように重い知的障害があると、たとえ本人の発達が後退したわけではなくても、発達の速度が他のお子さんと違い過ぎて、年齢が上がるほどできることの差が大きくなってしまうものです。

 幼稚園に通っていたときは良かったけれど、もし小学生になっても同じように定型発達のお子さんたちと一緒に集団競技に参加させようとしていたら、だんだん無理が出てきていたかもしれません。

 未就学児のときは、幼稚園のほか、障害のある子の発達を支援する施設である「療育」にも通い、就学を機に特別支援学校へ。

 息子のこの進路選択の流れは、彼の発達状況を考えるとちょうどよかったのかなと思います。

 今年、特別支援学校小学部の3年生になった息子は、運動会でどんな姿を見せてくれるのか。今から楽しみにしています。

ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ

生徒が自由に動く特別支援学校の運動会(べっこうあめアマミさん作)