MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、熱狂的な人気を誇る豊田徹也の長編漫画の実写映画化、闇の請負人、イコライザーの最後の活躍を描く最終章、イタリアとの国境にある小さな村を舞台にした大人の寓話の、人々のつながりを描く3本。

【写真を見る】夫の突然の失踪に戸惑いながらもかなえは、銭湯を切り盛りしようとする(『アンダーカレント』)

■様々な想いが怒涛のように押し寄せる…『アンダーカレント』(公開中)

国内外で高く評価された豊田徹也のカルト的人気漫画を実写映画化。『愛がなんだ』(19)、『ちひろさん』(23)など、ままならない日々をサバイブする人々を通じて“生きる“をリアリティ豊かに描いてきた今泉力哉監督による本作は、どこか不穏な匂いが漂うヒューマンドラマ。息が苦しくなるようなやるせなさに囚われながらも、かすかに差し込む一筋の希望の光に胸が熱くなるエモーショナルな感動の物語だ。

夫の悟が失踪してしまい呆然自失となっていた妻のかなえは、突然やってきた謎多き男である堀の力も借りながら、家業の銭湯を切り盛りしつつ少しずつ日常生活を取り戻していく。それでもなお無自覚な鬱屈を抱える主人公のかなえ役を真木よう子が熱演。堀役の井浦新との繊細かつ魂がぶつかりあうような演技のキャッチボールから目が離せない。また脇を固める悟役の永山瑛太、探偵の山崎役のリリー・フランキーらの怪演も作品に重層的な深みを与えている。なぜ堀は現れ、なぜ悟はいなくなったのか…?かなえ、掘、悟それぞれの心の奥底=アンダーカレントに閉じ込められていた気持ちが明らかになった時、様々な想いが怒涛のように押し寄せる珠玉の一作!(ライター・足立美由紀)

■目にも止まらぬ早業から目が離せない…『イコライザー THE FINAL』(公開中)

銃もナイフも持たず、瞬時に正義の裁きを下す元CIA工作員、通称イコライザー。オスカー俳優デンゼル・ワシントンの当たり役となった、この主人公の活躍を描く人気アクションシリーズが、いよいよ完結する。マフィアの本場イタリアで、虐げられた人々のために立ち上がる主人公に、どんな結末が待ち受けるのか!? 

武器は不要、手近にあるものだけで敵を倒してしまうイコライザーのスキルは健在。アクションのキレは前2作以上で、目にも止まらぬ早業から目が離せない。デンゼルの個性を活かしつつ、シリーズを通じてヒューマンなドラマを紡いできたアントワーン・フークア監督のきめ細かな人物描写も光る。エモくて痛快なイコライザーの花道を見届けよ!(映画ライター・有馬楽)

■1カットごとすべてが絵画のような映像美…『栗の森のものがたり』(公開中)

遠い世界を旅して来たような、そんな後味に魅せられる。これが長編監督デビュー作とは信じられない、1984年スロヴェニア生まれの新鋭グレゴル・ボジッチが、豊穣で奥深く、唯一無二の確固たる世界観に観る者を誘う。1950年代のイタリアユーゴスラビア国境(つまり西欧と東欧の境目)の広大な森を舞台に、頑固で人好きのしない年老いた棺桶職人マリオ(マッシモ・デ・フランビッチ)と、栗拾いをする若い女性マルタ(イヴァナ・ロスチ)の彷徨が映しだされる。

これは現実か夢か、はたまた過去の記憶か幻覚か。死にゆく妻に辛辣に当たるマリオ、戦地から帰らぬ夫を待つマルタ、この世にポツンと取り残された2人の悲しみや諦め切れない渇望が時折フッと浮かび上がる―まるで彼らの心の穴に我々も落ちてしまうかのように。正直、一度観ただけでは正確に物語を把握するのは難しい。だが、それでも観飽きない。侘しく哀感漂う中にも濃厚に立ちこめる詩情、1カットごとすべてが絵画のような映像美、その光と影の揺らぎに小さくハッとさせられ続ける。時空も生死も超えて不意に接続した不思議な世界にたゆたう、心地よさと不安を色濃く味わわせる本作は、もはや古典的名作のような風格漂う一作だ。(映画ライター・折田千鶴子)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

心の奥底にある気持ちを描きだす『アンダーカレント』/[c]豊田徹也/講談社 [c]2023「アンダーカレント」製作委員会