井ノ原快彦、東山紀之

ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川による性加害が明らかになり、大きな問題となっている。この問題については、多くの議論が展開されているが、私は「日本のメディアの非常識」という観点から論じてみたい。

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■事務所の対応策

ジャニーズ事務所は、9月7日に記者会見し、性加害を認めて謝罪し、藤島ジュリー社長の辞任、後任に東山紀之の就任を明らかにした。10月2日に2回目の記者会見をし、社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更し、被害者の補償に専念すること、タレントのマネジメントと育成については、新たなエージェント会社を作り、その社名は公募することなどを発表した。

当初は社名の変更も渋っていたが、世論の批判も高まり、また所属タレントを広告に使わない企業が続出し、やっと重い腰を上げたという感じである。タレント出身の社長で経営がうまくいくか、被害者への補償を迅速かつ的確に行われるかなど、残された課題は多い。

2回目の会見では、指名を拒否すべき「NG記者」のリストまで司会者が用意していたことが判明し、それもまた問題になっている。


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■問題を厳しい目で見る海外メディア

被害の救済窓口には478人から被害の申し出があり、そのうち325人が補償を希望しているという。この数字には、世界のメディアも驚愕し、イギリスBBCなどは大々的に報じている。性加害、とりわけ未成年に対する性虐待は重大な犯罪であり、先進民主主義国では厳しく断罪される。政治家だと、即辞任である。

その世界の常識から見て、この犯罪を黙認してきた日本のメディアの責任は重い。今頃になって、テレビ局などが「反省の弁」を述べているが、何を今更といった感じである。

日本のマスコミは、国際水準からみて、非常識かつ異常である。ジャニーズ事務所所属のタレントを番組に出演させてもらえなくなることを恐れて、ジャニーズ事務所の恫喝にひれ伏したというほかはない。


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■テレビと新聞が合体

テレビ局が有名タレントの出演拒否を恐れて、不祥事に目をつぶるとしても、新聞は何をしていたのか。新聞は読む媒体であり、歌やダンスを視聴する道具ではない。どこかの新聞社一社でも、もっと早く性加害問題を取り上げていたら、被害者の数も減ったであろう。ジャニー喜多川による性加害は1950年代から2010年代半ばまで続いていたという。

日本のマスコミの特色は、テレビ局と新聞が系列毎に合体していることである。テレビ朝日朝日新聞、日本テレビ・読売新聞、TBS・毎日新聞、フジテレビ・産経新聞テレビ東京日経新聞という具合である。これでは、新聞がテレビ局に拘束されずに記事を書くことは不可能である。

欧米先進民主主義国では、両媒体は独立している。アメリカのニューヨークタイムズワシントンポスト、イギリスタイムズドイツのツァイト、フランスのルモンドなど、そうである。

ジャニーズ事務所性加害問題の背景には、この日本のマスコミの特異性がある。

新聞がジャニーズ事務所を批判する記事を書くと、その後は事務所から取材を拒否されるので、テレビ局との系列関係がなくても、批判できない雰囲気であったことも記しておきたい。

因みに、「系列」は日本的経営システムの特色として注目され、それが日本経済の発展に貢献したという議論が横行した時代があったが、今は、むしろ系列が日本経済の競争力を弱めているという指摘が多い。


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■マスコミ内の同調圧力

オリンピックのスポンサー企業については、「1業種・1社」というのが原則である。先の東京五輪について見ると、ノンアルコール飲料ならコカコーラ、モビリティーならTOYOTAなどとなっている。その他の社の製品は五輪では使えない。ところが、新聞については、読売新聞朝日新聞日経新聞毎日新聞産経新聞北海道新聞がスポンサーになっている。

本来は、報道機関の新聞がスポンサーになることは好ましいことではない。それは、五輪について自由な報道ができなくなるからである。海外では、その常識は維持されている。日本ではなぜその常識が守られなかったのか。それのみならず、談合のように、皆で揃ってスポンサーになっている。

贈収賄など、五輪の不祥事が明らかになったのは、五輪終了後であり、それも検察が動いたからだ。五輪とマスコミの関係にも厳しい検討が必要である。日本のマスコミには、問題が山積している。


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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「国内メディアの問題点」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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