学校教師や塾講師による、教え子への盗撮や性暴力のニュースは後を絶たない。

勤務していた小学校で、担任を受け持っていたクラスの女子児童に対してその着替えを盗撮したほか、担任だったかつての教え子(当時10代)へ性的暴行を加えようとした男の公判が現在、東京地裁(今井理裁判長)で続いている。(ライター・高橋ユキ

●「レイプなんてしていません。交際していました」

昨年(2022)2月に逮捕された際、被告人のK(逮捕当時46)は、都内の小学校で教師をしていた。

その前年、被告人が勤務していた校⻑から「体を触られた児童がいる」と相談を受けた警視庁が、被告人の自宅を捜索したところ、女児の写真や動画が保存されたスマートフォンが見つかり、児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕起訴された。

警視庁は捜査の過程で被告人の自宅からパソコンを押収し解析。新たな写真や動画から、10代女性Aさんに対して性的暴行を加えようとしていたことが裏付けられ、準強姦未遂罪でも起訴。児童ポルノ禁止法違反と併合して審理が進められることとなった。「準強姦未遂罪」は2017年の刑法改正前の罪名であり、この事件は、2017年よりも前に起こった事件だ。公訴時効が1カ月に迫る中での逮捕だった。 

東京地裁では今年(2023年)7月から、Aさんに対する準強姦未遂事件についての審理が続いていた。

罪状認否で被告人は「私はAさんをレイプなんてしていません。当時Aさんとは交際をしていました」と否認。弁護人も「抗拒不能に乗じて無理やりAさんの意志に反して性行為をしようとしたことはない」と無罪を主張した。

だが証人尋問でAさんが明かした被害の実態は、到底“交際”とは思えぬ内容だった。被告人は教師という立場に乗じ、内申点やAさんの弟の存在を持ち出し、Aさんを長期にわたり服従させていたのだ。

●5年生になり、性的接触を求めるように

Aさんの証言によれば、被告人はAさんが小学3年生のころに小学校に赴任した。その頃から「怒鳴ったりするので怖い先生だと思っていた」という。そして5年生になり、被告人がAさんのクラスの担任を受け持つことになってから、性的接触を求められるようになった。

被告人はクラス内で席替えがあっても、Aさんの席を変えることはなかった。Aさんは被告人の膝の上に乗せられ、体を触られるようになったという。

気持ち悪いな、嫌だなと思っていました。嫌だと思ってからは、自分から乗りに行くことはなかったんですが、必ず『おいで』って呼ばれるんで……断ることはできなかった。お父さん、お母さんにも心配かけたくなかったので相談できなかった」(Aさんの証言)

これはAさんの思い込みではない。別の期日に証人出廷した元同級生も「常に膝の上にいる感じ。席も常に先生の近くだった」と証言している。

そんな日々が続く5年生の後期、他の生徒がいない教室で、被告人からキスを求められるようになったとAさんは振り返った。証言台の前で証言するAさんの周囲には衝立が立てられ、その姿は傍聴席には見えず、声だけが法廷に小さく響く。

「移動の授業の際に、忘れ物をしたとか、トイレとか言って抜け出してくれ……と言われて、戻ると先生だけ教室にいて、こう……抱きしめられる感じで……。『早く戻らなくちゃ』と言うとキスされました」

先生がファーストキスの相手となったことは「とても嫌でした」と言うAさんに、その後も被告人は同様の行為を続けたという。

●中学受験前には「嫌がる素振りを見せると内申点を下げる」

「『好き?と言ったら、好きと言って』と言われるのでそのようにしていました。好きって言わなきゃいけないと思っていたんで、好きって言い返してました。怖くて、何されるか分からなくて……。最初の方は『ちょっとやめてください』って言う頻度も多かったんですが、もう、どんなに抵抗してもやられてしまうので……」

こう語りながらAさんは声を詰まらせる。検察側の冒頭陳述によれば、被告人はその後行為をエスカレートさせ、Aさんが6年生の頃には下半身を触らせたり口淫をさせるといった行為を繰り返し、それを撮影していたほか、Aさんが小学校6年生の1月、宿泊を伴う行事の際、被告人から部屋に呼び出されると全裸になるよう命じられ、下半身を押し付けられたともいう。

さらにAさんが中学受験することを報告すると被告人は「キスを嫌がる素振りを見せると内申点を下げる」とAさんに告げたのだそうだ。

卒業してからも被告人とは縁を切れなかった。“誘い”を断ると、被告人は「弟がどうなってもいいのか」と言ってきたこともあるという。Aさんの卒業後、被告人はAさんの弟のクラス担任を受け持っていたからだ。被告人は小学校にAさんを呼び出し性的虐待やその撮影を続けた。そしてAさんが中学2年生の頃、準強姦未遂事件の被害に遭う。

だがAさんは、中学1年の頃にも、被告人による同様の行為があったと証言した。被告人は当時の様子を撮影しており、その撮影データを示しながら検察官が尋ねるとAさんは「この時は痛くて泣いていました。私の記憶では(挿入しようとする行為は)ありました。(拒否する態度を見せても)終わることはなかった」と述べている。

●〈Aの大切なもの、たくさん奪ってしまったね〉

こうした関係は、被告人の求めにより続けていた交換日記がAさんの母に見つかったことで終わりを迎えた。だが、その後も被告人はAさんにLINEを送っている。こんな文面もあったという。

〈やっぱりたくさん傷つけたからか〉〈Aの大切なもの、たくさん奪ってしまったね〉

ところが、当時こんなLINEをした当の被告人は、9月の被告人質問で驚きの証言を繰り出した。まず被告人が言うには、Aさんとは“6年生になる前に両思いになり、交際していた”のだという。

「その頃、彼女から好意を抱いてもらっていると感じるようになりました。なんとなくそばにいることが増え、笑顔が増えた……。彼女は僕に先生としてより、男性として好意を示してくれたので、とても嬉しく感じました。今考えるととても問題だと思いますが、当時は舞い上がり『好きだ』と答えました」(被告人質問での証言)

つまり、当時30代の教師と、小学5年生の教え子の女児が真剣に交際していた……という言い分だ。さらに性的接触についても「挿入はしていない」と繰り返していた。「つねに彼女が拒否していた。嫌われることはしたくない。嫌われるようなことは一切していません」と、Aさんを尊重していたと被告人は言う。

起訴事実についても、性暴力ではないと強調。「逮捕時に強姦だと言われて、挿入したこともないし、無理矢理したこともない。とてもおかしいし、何が起きているかわからない!」と、背中を丸めて車椅子に座る弱々しい姿とは裏腹に、はっきりとした大きな声で語っていた。

動画の中には、被告人からの行為により泣いているAさんが映っていたようだが「彼女は泣くことがよくあった。このときも私の行為が嫌で、とかではなく悩み事で泣いていた」とAさんの心中を被告人なりに解釈していた。

かつて送ったLINEについても〈傷つけた〉〈大切なものを奪った〉とは書いているが「嫌がることをしたとは書いていません」と、再び被告人なりの意味合いを説明。

あくまでも被告人としてはAさんを“交際相手”として尊重していたという主張に終始していたが、最後に裁判長が聞いた。

裁判長「あなたとしてはAさんが小学校6年生になる直前から交際していたんですよね。周りの同僚や、Aさんの親に交際を伝えたことはありますか?」
被告人「ないです」
裁判長「なぜ?」
被告人「一般的に見て、好ましくないことと分かっていたからです」
裁判長「なぜ好ましくないんでしょうか?」
被告人「彼女に与える、精神的、肉体的影響……」

7月の証人尋問でAさんは「先生に似た体格の人を見ると怖くなります」と、今も恐怖が続いていると明かしていた。また男性との交際についても「怖いので、うまく……相手とそういうこと、できなかったということありました」と、泣いている様子で語り、最後にこう言った。

「もう二度と会いたくない。消えてほしい。許せない」

次回の公判では論告弁論が行われる見込みだ。

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