低賃金で話題になることが多い「非正規社員」。なかには、目の前の生活もままならず「生活保護」を申請する人もいます。厚生労働省によると、生活保護受給者数は2022(令和4)年3月時点で203万6,045人。しかし、生活が苦しくてもそう簡単には申請が認められないという現実もあります。本記事では、Hさんの事例とともに、生活保護制度の現状について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

「生活保護制度」とは?

生活保護制度は、日本国憲法第25条の理念を根拠とし、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を促す制度です。生活保護法では、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する人へ対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行うとされています。

生活保護を受けられる人は、申請者の収入と厚生労働大臣が定める基準(最低生活費)を比較し、収入が最低生活費に満たない場合に、その差額が保護費として支給されます。

年金や手当などの社会保障給付を受けることができる場合、まずはそれらを優先して活用し、親族等から援助を受けることができる場合は、その援助を受けることを求めています。

また、生活保護は8種類の扶助から構成されており、生活を営むうえで必要な費用に対して扶助が支給され、それぞれ最低生活を充たす具体的な支給範囲が定められています。そのうえでさらに、必要に応じて扶助が併給されることもあります。

扶助の種類

生活を営むうえで必要な費用

生活扶助

日常に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)

住宅扶助

家賃、地代、住宅補修等に必要な費用

教育扶助

義務教育に必要な学用品、教材代等の費用

介護扶助

介護サービスに必要な費用

医療扶助

医療サービスに必要な費用

出産扶助

出産に必要な費用

生業扶助

就労に必要な技能習得等にかかる費用

葬祭扶助

葬祭に必要な費用

[図表]生活保護の種類

※母子加算等、特定の世帯には加算がある

手取り月6万円のHさんの現状は本当に厳しいのか?

51歳のHさんは高校卒業後、製造業の会社に就職しました。しかしながら、直属の上司にパワーハラスメントを受け、20歳で退職。当時、会社や身内に相談したものの、ハラスメントと認められず、泣き寝入りした経緯があります。

20歳以降、転職を繰り返すも長続きせず、精神的に落ち込んでしまい、うつ状態になりました。それと同時に、高齢の両親に介護が必要となったため、うつを抱えながらも非正規雇用として働かざるを得なくなりました。派遣などを繰り返す仕事では、思うような収入を得ることが難しく、月収の平均は8万円程度、国民年金保険料等を差し引くと、手元に残るのは、約6万円です。

両親の公的年金額は自営業だったため、夫婦合わせて月額は約9万円。3人の手取り額の合計は約15万円とすると、3人の生活費、両親の介護医療費等を賄うには厳しい金額となっています。

生活保護受給を相談に行ったが…門前払いの結果に

Hさんが、生活保護の受給を考え行政に相談に行ったところ、「認められない」と下記のような返答をされました。

生活保護は、原則、世帯を単位として判断されます。世帯の全員が支給を受けるためには、資産・能力・そのほかあらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを前提としています。例として、不動産、自動車、預貯金等のうち、直ちに活用できる資産がある場合、売却等し生活費に充てること。就労できない場合を除いて、就労が可能な人は、その能力に応じて働き、生活費を得てください」

Hさんには築50年を超える2DKの貸家に住んでおり、預貯金はありません。ですが、両親の送迎をするための中古の軽自動車があり、Hさん自身、就労可能であると判断されたため、生活保護は認められませんでした。

社会保険に加入していないので、傷病手当金はありません。修繕してもらえないボロ家に今後も住み続けるしかありません。うつ病と診断されても医療費が払えないため、継続通院することもできずにいます……。両親の介護も重なり、もう本当に限界です」Hさんは悲痛な思いを吐露します。

東京都で3人世帯(90歳・87歳・51歳)での生活保護費が約20万円(東京都1級地-1)とすると、Hさんの給与と両親の年金の合計額15万円は、生活保護費より少ないのです。

Hさんは、まず、自身の病気を治すために病院で診察を受け、必要に応じて障害年金の請求を視野に考えます。また、両親との生活について、1人で抱え込まないように、行政に再度生活保護の申請を含め、相談できる窓口を利用することをお勧めします。

<参考>

生活保護制度の現状について

厚生労働省「生活保護制度」より

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)