Sareeeと中島安里紗が行った緊急会見での画像

 令和女子プロレス界の問題点が露呈した。今回はこれを取り上げていきたい。

 発端は、4日に実施された緊急会見で、“太陽神”Sareeeと“冷酷の悪魔”中島安里紗が、10日に新宿FACEで行われるSEAdLINNNGの大会での意気込みを語ったが、会見の冒頭、SEAdLINNNGの南月たいよう代表が、胃が痛い日々を過ごした(南月代表のSNSより)ことに触れた際のこと。

【動画】Sareeeと中島安里紗が行った緊急会見

「(Sareeeと中島の)対戦相手がホントに決まらなくて。どれだけ嫌われているんだと思って。SEAdLINNNGを8年やってきて、ここまで決まらない。みんなに断られたっていうのは初」(南月代表)だった。

 これを聞く限り、団体設立からの難易度ではトップクラスだったとの見解には、たんなる話題作り以上のリアリティを感じた。

 理由はいくつかあるのだろうが、ひとつにはSareeeと中島の貫くファイトスタイルがある。

「リングにハッピーなんてないッスよ。やり合い、殺し合いなので」

「時と場合もよるけど、自分もそうだと思います。ゴングが鳴ればリングに笑顔はいらないと思う」

 前者が中島、後者がSareeeが過去に放った言葉だが、そうなると、自然と両者の試合は、いわゆるハードヒットになっていく。「それが闘い」なのだから、そこには躊躇があるはずがない。

 実際、今年8月にあった両者の一騎打ちでは、令和女子プロレス史上に残る、文字通りの壮絶な試合がリング上で繰り広げられ、関係者の間でも「あれ以上はない」との声も上がった。それだけに、その両者が組むとなれば、対戦相手はもちろんハードヒットに付き合わざるを得ない。

 結局、紆余曲折の結果、今回の対戦相手は通称イトナベといわれる伊藤薫(伊藤道場)と渡辺智子(Marvelous)に決定。両者ともハードヒットが当たり前の全女(全日本女子プロレス)出身者に落ち着いた。

 ここまで書いて、令和の女子プロレス界にハードヒット問題が存在していることがわかった。それだけ昨今の女子プロレス界はアイドルレスラー全盛であり、露骨なハードヒットは御法度との雰囲気があるのだろう。もちろん誰であっても大怪我には遭いたくないが、プロレスコンタクトスポーツである限り怪我は避けられない。だからこそ、そうならないような「心・技・体」が必要になる。

LEGENDに引導を渡せるか

Sareeeと中島安里紗による神&悪魔タッグ結成が決まった場面(@SEAdLINNNG)

 ちなみにハードヒットな試合に関して中島は「今だからこそウチらがそう言われるかもしれないけど、昔の全女の映像とか見ていたらすごいですもん。なので(イトナベが相手なら)全くもって大丈夫だと思うし、しかもウチらがそういうプロレスをやることによって、伊藤さんや渡辺さんが『こいつらだったらプロレスを託せるよね』って思わせたいですね。思ってもらえるようにします」と話す。

 これに呼応するようにSareeeは「全女の時代に、私と中島安里紗がいたところで、別にハードヒットとかいわれてもいない。当たり前だし、みんながそれだし、今の時代だからこそ、そうやって言われるけど、伊藤さんと渡辺さんからしたら、なんとも思わないぐらいだと思います。でも、それを思わせてやりたいです」と意気込んだ。

 つまりSareeeと中島からすれば、「いつの時代も女子プロレスラーが柔(やわ)になってどーする?」と言いたいのだろう。

 ともあれ、相手がLEGENDといえども、令和女子プロレスの最前線に立っているのはSareeeであり中島だという自負がある。だからこそ二人は、譲れないものがあると口にする。

「(イトナベとは)パワーと体格差もありますけど、今の女子プロレスは私たちだから、申し訳ないけど、そこを相手にしていたらいけないと思う。そこをポンと超えて踏み台にしていければと思います」(Sareee)

「ウチら今がピーク、向こうはそうじゃないわけだから、互角でもいけない。ウチらが上じゃなきゃいけないと思っているので、しっかり試合で見せていきたいなと思います。古き良き女子プロレスの最新版みたいなものを見せたいなと」(中島)

 要約すると、世代交代をハッキリしたカタチで示すこと。つまりは引導を渡せるか。それが今回、Sareeeと中島に課せられた使命になる。というより、それがこれまであからさまに実現できなかったことにこそ、実は大きな問題が隠れているのではあるまいか。

 ところで世代交代マッチに挑むSareeeと中島に、実は対戦相手としては誰を想定していたのかを聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。

「このチームと闘いたいっていってくれる人なら誰でもよかったですけどね。(はじめは)『最強の相手を連れてきてくれ』って言いましたけど、ここまで誰もいないんだったら、誰でもいいから名乗りを上げろよって思いましたけどね」(Sareee)

「もう名乗りをあげた時点で、強かろうが弱かろうが“勇者”ですよね。だからもっとみんな来てくれたらいいのにって思っちゃいますけど」(中島)

 これは推測になるが、Sareeeと中島との対戦を断った選手それぞれにも事情はあっただろう。また、「Sareeeと中島だけがハードヒットではない」と内心は思っている選手だって少なからずいるはずなのに、会見から数日経っても、その部分を公にする選手は今のところ誰もいない。本当にそれでいいのか、と思う。思いがあるならそれは公にするべきだし、いかにその熱を周囲に伝えられるかにかかっている。

 いつの時代も、中島の口にした“勇者”の出現を誰もが望んでいる。だとしたら、そこにどんなリスクがあるというのか。

 そして“勇者”によってリング上で発せられたエネルギーこそが、次の時代を背負っていくトップランナーになるのは間違いない。

 いずれにせよ、露呈された令和女子プロレス界の問題点を守備よく改善できれば、ようやく盛り上がりを見せ始めた、昨今の女子プロレス人気は、さらに勢いづくのは明白。それを踏まえながら、今後も令和女子プロレス明るい未来を見守っていきたいと思う。

[文:Show大谷泰顕]

令和女子プロレスの課題が露呈 太陽神”Sareeeと“悪魔”中島のタッグ結成騒動があぶり出したもの