X(旧Twitter)では7月から、投稿の閲覧数(インプレッション数)などに対して報酬が支払われる「クリエイター広告収益分配プログラム(以下、分配プログラム)」が開始された。(※収益化の条件あり)その結果、有名人への目に余るような内容のリプライ、トレンドワードを羅列しただけの内容など、インプレッション数を稼ぐための投稿が増加。
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収益目当ての投稿が増え、Xに対する不信感が高まった方も多いかもしれない。実際問題、分配プログラムはXにどのような変化をもたらしたのだろうか。ITジャーナリストの篠原修司氏に話を聞いた。
悪質な投稿だけではない? 分配プログラムがXにもたらした変化
――分配プログラムが開始されたことで、収益目的の投稿が増えている印象があります。篠原さんから見てもそのような印象を受けますか?
篠原修司(以下、篠原):確かにインプレッションを稼ぐためのポスト(投稿)が増えているように感じます。
――具体的にはどのような投稿ですか?
篠原:悪質なものとしては、フォロワーの多いアカウントやバズっているポストに対して、ブルーバッジをつけた認証ユーザーによるスパムが行われるようになりました。特に国内で目立つのは、海外ユーザーらしきアカウントから日本語のポストに対して英語でリプライする行為です。
――以前、お笑いタレントの有吉弘行さんも「コメント欄は謎の外国人で荒れています。」と投稿していましたね。
篠原:そうですね。有吉さんは非常にフォロワーが多いため、英語でのリプライに辟易していたのかもしれません。
――スパム的な投稿が増えたこと以外の変化はありましたか?
篠原:インプレッションを稼ぐために様々な工夫をしているユーザーが増えた印象です。特に変化を感じることは短編漫画のポストです。これまでは添付できる画像の最大枚数である4枚を1度にポストする人が多かった。いまは惹きのある画像を1枚、そのポストにツリーとして漫画の続きや本編をポストするといった手法がメインになりつつあります。
――よりインプレッション数を稼ぐための創意工夫が見られている。
篠原:ほかにも、認証ユーザーでもポストを細かく投稿する人がいます。認証ユーザーは長文投稿ができるのですが、140文字で細かくポストしたほうがインプレッションも増えるし、読みやすさも向上するからだと考えられます。
・Xで稼ぐことが難しいワケ
――投稿内容の質の低下だけではなく、投稿者の創意工夫も見られています。分配プログラムのメリットとしてどのようなことが挙げられますか?
篠原:もともとファンを多く持つユーザーが認証ユーザーになることで、Xである程度お金を稼げるようになったことは大きいです。今後こういった広告収益を目当てにした新たなクリエイターの増加が期待できます。
――クリエイターが増えることは歓迎すべきことだと思います。ただ、それによりインプレッション稼ぎを繰り返すユーザーが増えるといった懸念点もある気がします。
篠原:収益化をするためには、毎月約1000円支払って認証ユーザーになる必要があります。ただ、有名人にインプレッション稼ぎのリプライを送っているユーザーなどは、Xで十分なお金を稼ぐことは難しいです。というのも、分配プログラムは一定数のインプレッション数が収益化の基準になっていますが、その基準の最低ラインでは有料プランの費用を賄うことはできません。
――そういったことなら、上記のようなユーザーは徐々に減っていくかもしれませんね。ちなみに黒字にするためにはどの程度のインプレッション数が必要になるのですか?篠原:その辺は詳しく公開されていません。また、収益は単純にインプレッション数だけで決められているわけではないようなのです。
・イーロン・マスクが目指すものとは
――イーロン・マスク氏による買収以降、Xは仕様を大きく変化させています。マスク氏は今度Xをどうしていきたいのでしょうか?
篠原:マスク氏がどのような未来を思い描いているのかは本人にしかわかりませんが、業界では「“スーパーアプリ”を目指す」と見られています。“スーパーアプリ”とはTwitterのようなソーシャルネットワーキングサービスに加え、メッセージの送受信、電子決済、通販など、さまざまなサービスをひとつのアプリで体験できるアプリのことです。日本のアプリで言えば“LINE”のイメージに近いと思います。
―― 分配プログラムもその一歩のための一つと。
篠原:はい。マスク氏は中国の『WeChat』を高く評価しています。WeChatはメッセージのやり取りはもちろん、タクシーの予約や税金の申請など多岐にわたるサービスをこのアプリひとつで完結可能です。マスク氏は最終的にはそこを目指していると思います。
――とはいえ、今後インプレッション稼ぎの投稿が増加すればXのユーザー離れに拍車をかける可能性は高いです。やはり、分配プログラムにはテコ入れの必要性を感じます。
篠原:恐らく大胆な対応は講じないと考えます。機械的に対応できることであれば対策する可能性はあるでしょう。しかし、どのポストがインプレッション稼ぎのリプライなのか、その判断を完璧にするには人間の目を通す必要があります。それはコストがかかるため、そのような手法を取るとは考えにくいです。
――そうなると、ユーザー離れが心配ですね。
篠原:それがそうとは言い切れないんです。公式発表によるとXの月間アクティブユーザー数は過去最高の5億5500万人に到達しました。また、収益化可能なアクティブユーザーもX買収時は2億2900万人だったのに対して、現在は2億4500万人に増えているそうです。しばらくはXの人気は落ちることなく、むしろXは大きく成長してさらなる変化を見せるかもしれません。
・SNSの勢力図は変わらない
――Xをはじめ、TikTokやInstagramなど、様々 SNSがユーザーを取り合っています。今後 SNS の勢力図はどのように変化すると思いますか?
篠原:あまり大きくは変化しないと考えられます。ニュースではBlueskyやMisskey(ミスキー)などがXからの脱出先として取り上げられることが多くなりました。ただ、Xの持つ拡散力が衰えない限りは乗り換える人はそう多くは現れないでしょう。
――目まぐるしい勢力図の変化が見られましたが、しばらくは冷戦状態が続くと。
篠原:いまの大きな変化は、Threadsのアクティブユーザー数が4400万人から800万人に減少したことです。Xユーザーから大きな期待を受けて登場したThreadsですが、Xの壁は高かったという結果が数字として現れています。
――Threadsはかなり厳しい状況にありますね。
篠原:そうですね。Xの人気が落ちてくれば新たなサービスが生まれる余地もありますが、それまでは既存のSNSの勢力図は緩やかにしか変化していかないでしょう。
(参考:https://edition.cnn.com/2023/08/03/tech/threads-user-count-falls/index.html)
(文・取材=望月悠木)
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