年収1,000万円超の高級取りとして名高い医師だが、過酷すぎる労働環境がある事実は、長らく問題視されてきた。しかし、医療業界のリアルはそれだけに収まらない。無給医の現状も度々取り上げられるようになっている。

「合理的な理由があるため、給与を支給しない」

無給医とは文字のまま、何らかの理由により病院から給与を支払われていない医師のことを指す。2018年10月にNHKがその実態を報道して以降、医師の労働問題が多くのメディアで取り上げられた。

厚生労働省は2019年6月、『大学病院で診療に従事する教員等以外の医師・歯科医師に対する処遇に関する調査結果』と題した報告書を発表した(2020年2月7日一部更新)。調査対象は、全国の公私立大学附属病院(99大学、108附属病院)で働く教員等以外の医師と歯科医師(常勤・非常勤、卒後年度を問わず対象)、計31,801名。下記がその報告書の内容である。

① 給与を支給している者・・・24,733名(78%)、104大学病院

② 合理的な理由があるため、労務管理の専門家への相談・確認も踏まえ、給与を支給していない者・・・4,249名(13%)、72大学病院

③ 合理的な理由があるため、給与を支給していなかったが、労務管理の専門家への相談・確認も踏まえ、今後、給与を支給するとした者(※)・・・2,015名(6%)、44大学病院

④ 合理的な理由がなく給与を支給していなかったため、労務管理の専門家への相談・確認も踏まえ、遡及も含め給与を支給するとした者・・・804名(3%)、29大学病院

※ 労務管理の専門家への相談・確認も踏まえ、研修や研究を目的として診療に従事することから、給与を支給することについての同意がなく、かつ実際にも給与が支払われていなかったが、今後取扱いを改めるとした者

実に全体の22%もの対象者が、給与の支給状況に問題があった。この事実だけでも目を見張るものがあるが、報告書ではさらに驚きの理由が続く。

「給与を支給していなかった」驚きの理由

②として、大学が回答した主な理由

1.自己研鑽(最新の医療情報の収集、診療技術の向上等)・自己研究(自身の臨床研究推進等)等の目的で診療に従事している。

2.大学病院とは別に本務先のある医師で、本務先の業務命令により研修として診療に従事しているため、大学病院での診療従事分も含めて、本務先から給与が支給されている

③として、大学が回答した主な理由

1.自己研鑽・自己研究等の目的で診療に従事しているものの、給与を支給することが適当であると判断した。

④として、大学が回答した主な理由

(a) 自己研鑽・自己研究等の目的、又は、大学院の研修の一部という目的で、診療に従事していたが、労働者的実態が強いことなどから、給与を支給することが適当であると判断した。・・・482名、16大学病院

(b) 労働条件勤務日を超えて診療に従事していた、あるいは、労働上限時間や研修範囲を超えて診療に従事していた。・・・203名、5大学病院

(c) 診療科等における労働時間の管理・把握が不十分であることや労務管理に関する書類等の事務手続上の不備があった。・・・119名、10大学病院

④として、回答した大学の給与の遡及状況

1.遡及して給与を支給している。・・・18大学病院

2.遡及して給与の支給を開始しているが、まだ完了していない。・・・3大学病院

3.遡及して給与の支給する方向で支払い時期等について検討中。・・・8大学病院

「自己研鑽」なんて今どきやりがい搾取もいいところだ!といきなり声をあげたくなるところに、「労働条件勤務日を超えて診療」「事務手続上の不備」などの文言が続く。「合理的な理由があるため、給与を支給していなかった」としているが、専門家へ相談して給与の支給を決定したのなら、そもそも何一つ合理的ではなかったということではないか? 理解に苦しむところだ。

なお、この報告書の結果は、各大学が自ら点検し明らかにしたもの、つまり内部調査だ(労務管理の専門家へ相談・確認を行うことを要件としているが)。大学教員である医師と歯科医師、そして初期研修医は調査対象に含まれていない。もっと酷い給与支給状況、労働環境、雇用形態を想像できる余地は多分にある。

また、給与未払いに付随して、長時間労働の問題も根深い。たくさん働いても、お金が貰えるわけでもない、一方で責任だけは増えていく。そのような「低賃金・重労働」医師たちを、世間が認識し始めた。

勤務医と開業医では年収が倍以上も変わるが…

ここで気になることが1点。大学教授の給料だ。無給で働く同業者がいるなか、トップの人間は一体いくら貰っているのか?  

実は、開業医や市中病院の医師と比べ、大学病院で働く教授の給料は高くない。厚生労働省令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、准教授で860万円、教授でも1,070万円ほどと報告されている。もちろん、執筆や講演など、外部での収入もあるだろうし、「これだけでも十分高いじゃないか」と感じる人もいるだろうが。

白い巨塔』でも見られるように、過去、教授という立場は絶大な権力があった。大学病院での給与のみならず、副業でも荒稼ぎし、関連病院にまで幅をきかせられる人事力によって、ヒエラルキーの頂点に居座っていたという。しかし、上記に述べたような問題から若手の医局離れも進み、院内ピラミッドの形態は変化してきている。「教授がゴール」ではなくなってきたわけだ。

その分、開業した医師は強い。手取りも労働時間も自由に決めることができる。専門科によっても差があるが、平均的な年収はなんと勤務医の倍以上、3,000万円を超えるという。さらに、美容外科などの自由診療の場合は億を超える年収になることもざらだ。開業する医師が増えるのは、自明のことといえる。

もちろん開業医にも、初期費用の問題や、儲からないリスクがあるのも事実だ。コンサルに開業までの作業を一任した結果、高い機器を買わされ、クリニックも患者が集まらず大赤字…という例は、医療業界で働く労働者なら聞いたことがあるかもしれない。莫大な利益に伴うとんでもない税金をどうやって節税するのか、という問題もあるだろう。無給医とは一線を画す問題ではあるが。

ちなみに2019年7月、昨今の問題を受け、全国医師ユニオンと日本労働弁護団は、長時間労働に苦しむ医師や、無給医向けのホットラインを開設した。そのなかには、「月給1万円」との連絡もあったという。医師たちの劣悪な状況が改善される日は来るのだろうか? お世話になる一患者として、他人事ではいられない。

※写真はイメージです/PIXTA)