秋は暑さが和らぐため、過ごしやすい季節と言えます。一方、旬の食べ物が多いことや、夏よりも食欲が増しやすいことなどから、つい食べ過ぎてしまい、体重が増加してしまうケースも珍しくありません。

 そもそも、秋に食欲が増すのはなぜなのでしょうか。食べ過ぎを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。広島ステーションクリニック(広島市東区)理事長で医師の石田清隆さんに聞きました。

食欲を抑える「セロトニン」の分泌が減る可能性

Q.秋になると食欲が増すことがあるようですが、なぜなのでしょうか。考えられる原因について、教えてください。

石田さん「秋に食欲が増すのは、諸説あります。そこで、代表的な5つの説についてご紹介します」

【過ごしやすい気候が関係している説】
夏はうだるような暑さが続くため、夏バテで食欲不振や疲労を感じる人は多いと思います。一方、秋になると急に涼しくなり過ごしやすくなるため、夏に低下していた食欲が徐々に回復してきます。そのため、秋は他の季節に比べて、食欲が増したと感じやすくなります。

セロトニンの分泌が低下する説】
脳内で作られる神経伝達物質「セロトニン」は、食欲を抑える作用があり、その分泌量は日照時間に比例するといわれています。秋は、夏より日照時間が短くなることでセロトニンの分泌が減り、食欲が増すと考えられています。

基礎代謝が上昇する説】
秋は夏より気温が低下するため、体は体温を維持しようとし、基礎代謝が上がります。その際、エネルギーを必要とするために食欲が増すといわれています。

【おいしい農作物の収穫が増える説】
「実りの秋」といわれるように、秋は米のほか、梨やブドウ、芋などのおいしい農作物がたくさん収穫され、私たちの食卓に並びます。そのため、食欲が増すという説です。

【冬に備えて栄養を備蓄する説】
冬になると、食材が少なくなります。厳しい冬を乗り越えるため、たくさん食べて、栄養やエネルギーを体に蓄えようという動物としての本能が、冬眠をする熊と同じように人間にも残っているため、秋に食欲が増すという説があります。

これらの諸説を知っておくと、食欲をコントロールしやすくなるため、覚えておくとよいでしょう。

Q.では、秋に食べ過ぎを防ぐには、どのような対策が有効なのでしょうか。

石田さん「そもそも食べ過ぎの原因としては、先述の諸説のほかに、『ストレス』『糖質の過剰摂取』『睡眠不足』『栄養不足』『ホルモンバランスの変化』などが挙げられます。

ストレスを感じると、脳内で『コルチゾール』『ノルアドレナリン』『ドーパミン』といった、食欲促進作用があるホルモンの分泌が増え、過食につながります。

糖質の多い食事を取ると、血糖値が急激に上昇し、すい臓から血糖を下げる『インスリン』と呼ばれるホルモンが大量に分泌されます。インスリンが大量に分泌されると、急激に血糖値が下降する『反応性低血糖』を招きます。低血糖になると自律神経が乱れ、強い空腹感から過食につながります。

睡眠時間が短いと、長く活動した分だけ、エネルギーを確保しようと、『グレリン』と呼ばれる食欲を促進させるホルモンの分泌が増えます。一方、食欲を抑える『レプチン』というホルモンの分泌が低下するため、過食につながりやすくなります。

食事の栄養バランスが悪いと、本来必要な栄養素が不足し、足りない栄養素を補うために、つい食べ過ぎてしまうことがあります。

このほか、女性の場合、生理前になると女性ホルモンの一つである『プロゲステロン』の分泌が急激に増えます。このホルモンは妊娠を成立、継続させるホルモンで、食欲を促進させるとともに、味覚や嗜好(しこう)を変化させることがあります。その結果、偏食気味になってしまう傾向にあり、過食につながりやすくなります。

過食を防ぐためには、満腹になるまで食べないように心掛けるとともに、『ストレスをためない』『睡眠をしっかり取る』『糖質過多にならないよう、食事のバランスなどに注意する』『生理前は、なるべく満腹感の得られるカロリーの少ない食べ物を選ぶ』などの工夫が必要です。

また、低血糖にならないよう、食事と食事の間隔を空けずに朝食、昼食、夕食をできるだけ規則正しく摂取することや、脳の満腹中枢を刺激するよう、ゆっくりよくかんで食べることも大事です」

Q.秋に食べ過ぎを防ぐ上でお勧めの食べ物はありますか。

石田さん「食欲を抑え、満腹感が得られる食材を紹介します。ポイントは、水分や食物繊維、タンパク質を多く含み、糖質の少ない物を選んで食べることです。

食物繊維は、腸内環境を整えてくれるだけでなく、血糖の上昇を抑える効果や血液中のコレステロールを低下させる効果などもある優秀な栄養素です。カロリーも低く、満腹感も得られやすいため、ダイエットにうってつけです。そこで、お勧めの食材は、海藻類やキノコ、青菜、芋、アボカド、玄米です。

中でも、ワカメは水分を含むと膨張し満腹感を得られやすいほか、低糖質でぬるぬるとした成分の『アルギン酸カリウム』『フコイダン』という優れた食物繊維を大量に含んでいます。ただし、食べ過ぎるとヨウ素の過剰摂取で、甲状腺の機能が高進したり、低下したりするなどの症状が出るため注意してください。

加工品の場合、こんにゃくところてん、納豆、豆腐、おからナッツなどがお勧めです。タンパク質は消化に時間がかかり、胃腸にたまっている時間が長いため満腹感が得られやすいです。また、体の筋肉や皮膚、髪、骨などの構成成分や各種酵素、消化液の材料として必要なもので、現代人の多くが不足しがちです。日頃から、しっかり取り入れましょう。

ダイエット時は、先述の食物繊維を多く含む食材に加え、鶏のささ身や鶏の胸肉のほか、納豆や豆腐といった大豆製品、ゆで卵、赤身の肉、レバー、魚などがお勧めです。

満腹感を得るためには、先述のようにゆっくりよくかんで食べ、脳の満腹中枢を刺激することのほか、野菜から食べ始める『ベジタブルファースト』なども有効です。ぜひ取り入れてください」

体重増加の原因となる食べ物は?

Q.秋に旬を迎える食べ物のうち、体重増加の原因となる食べ物について、教えてください。

石田さん「『食欲の秋』と言われるほど、秋は食欲をそそる食材が多く、中でも果物がおいしい季節です。果物には砂糖の1.15~1.73倍の甘みを感じるといわれる『果糖(フルクトース)』が含まれています。そのため、果物は『血糖値が急上昇しやすいため、太る』とよくイメージされますが、正しくは、『果物は食べ過ぎれば太る』です。

果物は確かに甘い糖質を含みますが、血糖値の上昇が緩やかな『低GI食品』です。また、糖質以外に食物繊維やビタミンC、カリウム、ポリフェノール、食物酵素、ミネラルなどの栄養素を含みます。『適量』を心掛けていれば、美容と健康に有効な食材です。

ただし、果物を食べ過ぎると、糖質の過剰摂取により、中性脂肪の増大や肥満を招く恐れがあります。食べるタイミングは朝がお勧めです。

ダイエット中に果物を食べたい場合、一緒に摂取する白米などの炭水化物は控えめにすることがポイントです。中でも、ぶどうは100グラム当たり69キロカロリー、糖質は16.0グラムと多く、ダイエット中の食べ過ぎには注意しましょう。

秋は、おいしい野菜も多く収穫されます。秋野菜は夏野菜に比べて水分が少ないため、味が濃く甘みが強いのが特徴です。中でも代表的な芋やカボチャは糖質が多く、野菜の中でもカロリーが高い部類に入ります。秋野菜はとてもおいしく栄養価が高いですが、糖質の多い物は食べ過ぎに注意しましょう。

このほか、秋に旬を迎えるサンマやサケなどの魚は脂がのっており、通年で出回っているものと比べるとカロリーが高くなるため、食べ過ぎには注意しましょう。

一方、イワシなどの青魚に含まれる『EPA(エイコサペンタエン酸)』と『DHA(ドコサヘキサエン酸)』は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪を減らす働きがあるオメガ3系の『不飽和脂肪酸』に該当します。

EPAは、血液をサラサラにする効果があり、血栓や動脈硬化のリスクを下げることが期待できるほか、脳卒中や心筋梗塞などの予防にも効果的だとされています。DHAは脳の灰白質や網膜、神経中に存在しており、柔らかい細胞膜や複雑な神経細胞を形成するのに必要な栄養素です。さらに、EPAやDHAは、体の炎症やアレルギーを抑える働きもあります。旬の青魚はぜひ食卓に取り入れてほしいものです。

秋は運動の季節でもあり、食後に散歩やジョギングをすることで血糖値の上昇を抑える効果があります。血糖値をコントロールしながら、楽しい秋を過ごしましょう」

オトナンサー編集部

秋に食欲が増す理由は?