未成年の子供への贈与は、税務上多くの注意点があります。場合によっては、よかれと思って子供のために貯めていた資産に、高額な贈与税が発生するケースも……。本記事では、未成年の子供に贈与する際のポイントについて、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より、同氏が解説します。

未成年者への贈与契約が成立する条件

Q

未成年者に対する贈与及びそれらを連年で贈与した場合のエビデンスについて教えてください。

先述の各種契約書においても注意書きを付しましたが、重要論点のため、ここで再掲します。原則としては先述の通りですが、下記は租税実務により沿った詳細検証をしています。

未成年の子供への贈与、贈与契約書を作成するべきか?

【解説】

下記の裁決をはじめに確認します。(相続財産の範囲/贈与事実の存否)贈与税の申告及び納付の事実は、贈与事実を認定する上での一つの証拠ではあるが、贈与事実の存否はあくまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきであるとした事例(平19-06-26裁決)(F0-3-218)において国税不服審判所判断では、

「(2)法令解釈

イ 親権者が未成年の子に対して贈与する場合の贈与契約の成立について贈与契約は諾成契約であるため、贈与者と受贈者において贈与する意思と受贈する意思の合致が必要となる(民法第549条《贈与》)が、親権者から未成年の子に対して贈与する場合には、利益相反行為に該当しないことから(※下線筆者)(注1)親権者が受諾すれば契約は成立し、未成年の子が贈与の事実を知っていたかどうかにかかわらず、贈与契約は成立すると解される。」

「(イ)贈与契約書の作成について

請求人は、本件株式の贈与について贈与契約書を作成していない点について、本件被相続人は請求人が本件株式の贈与に係る申告をして納税をすることで、その贈与事実を証明することが十分であると考えて、あえて、贈与契約書を作成しなかったものと思われるが、かかる贈与の実態は、親子の関係では、社会通念上、むしろ一般的ではないかとも考えられる旨主張する〔前記3の(1)のイの(ハ)〕。

しかしながら、本件は、親権者と未成年の子との間の契約で、親権者自身が贈与者と受贈者の立場を兼ねていることから、対外的には贈与契約の成立が非常に分かりづらいものとなることは容易に認識できることであり、かえって、このような場合には、将来、贈与契約の成立について疑義が生じないよう契約書を作成するのがむしろ自然ではないかと考えられるほか、(※下線筆者)

平成11年及び平成12年の本件会社の株式の贈与について贈与契約書を作成している〔前記1の(4)のハの(ロ)のBの(B)及びCの(B)〕ことと整合しない点を併せ考えると、上記請求人の主張は直ちに採用することはできない。」

とあるように作成「しないほうがむしろ不自然」、と述べています。実務ではこれを勘案し当然作成を行います※1

子供が贈与の事実を知っていなくても、贈与契約は成立するか?

親権者が未成年の子に対して贈与する場合の贈与契約の成立について贈与契約は諾成契約であるため、贈与者と受贈者において贈与する意思と受贈する意思の合致が必要となります(民法549《贈与》)が、親権者から未成年の子に対して贈与する場合には、利益相反行為に該当しないことから親権者が受諾すれば契約は成立し、未成年の子が贈与の事実を知っていたかどうかにかかわらず、贈与契約は成立すると解されます。

未成年への贈与契約書作成の例

贈与契約書

贈与者〇〇〇〇(以下、「甲」という)は、受贈者〇〇〇〇(以下、「乙」という)に、金銭〇万円を無償で与える意思を表示し、乙の法定代理人(〇〇〇〇(父)、〇〇〇〇(母))はこれを受諾した。また、甲は平成〇年〇月〇日までに当該金額を乙の下記口座に振り込むものとする。

〇〇銀行〇〇支店 普通口座 〇〇〇〇〇〇〇

口座名義人 〇〇〇〇

平成〇年〇月〇日

甲 住所 〇〇

  名前 〇〇 印

乙 住所 〇〇

  名前 〇〇 印

乙の法定代理人(父)

  住所 〇〇

  名前 〇〇 印

乙の法定代理人(母)

住所 〇〇

名前 〇〇 印

親族間での争い・税務調査を回避するための注意点

なお、後々の争い(親族間、税務調査)を回避するよう下記を徹底します。

・贈与者の住所、氏名は贈与者が自署する

・法定代理人(父、母)の住所、氏名は父母各人が自署する

・日付は贈与者が自分で書く

→公証役場で確定日付の印を押してもらうとベスト

→確定日付については下記(出典:日本公証人連合会ホームページ)を参照。

Q 

公証人が付する「確定日付」とは、どのようなものですか。

A 

確定日付とは、文字通り、変更のできない確定した日付のことであり、その日にその証書(文書)が存在していたことを証明するものです。公証役場で付与される確定日付とは、公証人が私書証書に日付のある印章(確定日付印)を押捺した場合のその日付をいいます。

文書は、その作成日付が重要な意味を持つことが少なくありません。したがって、金銭消費貸借契約等の法律行為に関する文書や覚書等の特定の事実を証明する文書等が作成者等のいろいろな思惑から、その文書の作成の日付を実際の作成日より遡らせたりして、紛争になることがあります。確定日付は、このような紛争の発生をあらかじめ防止する効果があります。

Q

公証人による確定日付付与の効力は、どのようなものですか。

A

確定日付の付与は、文書に公証人の確定日付印を押捺することにより、その文書の押捺の日付を確定し、その文書がその確定日付を押捺した日に存在することを証明するものです。文書の成立や内容の真実性についてはなんら公証するものではありません。

この点、文書の内容である法律行為等記載された事項を公証する「公正証書」や、文書等の署名押印などが真実になされたことを公証する「認証」とは異なります。

両親が「共同で」自署押印をすべき理由

これらは義務ではありませんが、上記の通り、後々の争いを保全するために、自署すべき部分は自署しておいたほうがいいでしょう。法定代理人は両親「共に」自署押印します。しかし、絶対に、というわけでもありません。贈与の当事者間では意思の合致が認められるからです。

民法818条(親権者)

親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。

民法825条(父母の一方が共同の名義でした行為の効力)

父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

と、あるとおり、民法818では「共同して」、民法825条では「共同の名義で」とあります。このため両親共に自署押印した方がよりよい、ということになります。

なお、非常に実務的観点からすると、離婚はしていないが、「様々な理由により」片方の自署、押印しかとれない場合も想定されます。しかし、そういう状況が深刻であればあるほど、将来、何かしらのトラブルに発展する可能性が高まります。したがって困難ではあるが、夫婦間の問題が深刻であればあるほど、法定代理人の欄は両親共に、自署押印すべきです※2

連年贈与(定期贈与)する場合の注意点

昭和58年9月国税庁事務連絡「生命保険料負担者の判定について」は下記のとおりです。

①被相続人の死亡又は生命保険契約の満期により保険金等を取得した場合若しくは保険事故は発生していないが保険料の負担者が死亡した場合において、当該生命保険又は当該生命保険に関する権利の課税に当たっては、それぞれの保険料の負担者からそれらを相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなして、相続税又は贈与税を課税することとしている。

(注)生命保険金を受け取った者が保険料を負担している場合には、所得税(一時所得又は雑所得)が課税される。

生命保険契約の締結に当たっては、生計を維持している父親等が契約者となり被保険者は父親等、受取人は子供等として、その保険料の支払いは父親等が負担しているというのが通例である。このような場合には、保険料の支払について、父親等と子供達との間に贈与関係は生じないとして、相続税法の規定に基づき、保険事故発生時を課税時期としてとらえ、保険金を受け取った子供等に対して相続税又は贈与税を課税することとしている。

③ところが、最近、保険料支払能力のない子供等を契約者及び受取人として生命保険契約を父親等が締結し、その支払保険料については、父親等が子供等に現金を贈与し、その現金を保険料の支払いに充てるという事例が見受けられるようになった。

④この場合の支払保険料の負担者の判定については、過去の保険料の支払資金は父親等から贈与を受けた現金を充てていた旨、子供等(納税者)から主張があった場合は、事実関係を検討の上、例えば、(a)毎年の贈与契約書、(b)過去の贈与税の申告書、(c)所得税確定申告等における生命保険料控除の状況、(d)その他贈与の事実が認定できるものなどから贈与事実の心証が得られたものは、これを認めることとする。

贈与税を課税されないためのポイント、4つ

贈与認定されないための実務上の留意点です。国税庁の事務連絡④(d)にもあるように、保険料を払うための現金贈与は次の4つの点に注意することが必要です。

1. 毎年贈与契約書を作成する

贈与契約書は毎年作成します。保険料を支払う能力のない子供などへの贈与については、年齢制限はありません。受贈者が幼児や幼い子供など意思能力がない場合、法定代理人(又は後見人)をたてます。通常は親です。したがって受贈者欄は「法定代理人〇〇(親)受贈者■■(子)」となります。印鑑は別々のものを用意します。確定日付をとっておくべきです。

2. 贈与税の申告書を保管しておく

贈与税の申告書は保管しておきます。他の項目に比較して重要性は低いです。これは基礎控除を超えた場合するものであり、必ずしも必須ではありません。また贈与税の申告自体が贈与の立証にはならないことは、名義財産関係の裁判例では度々判示されています。

3. 親の確定申告では生命保険料控除を受けない

親の所得税確定申告において、生命保険料控除を受けないことです。子供が契約料を支払っているため子供の確定申告で控除することになります。子供に所得がなければ実質的に切り捨てになります。

4. 幼児に贈与する場合は、子供名義の口座を用意する

贈与をするのが幼児であるときは、贈与をする親が子供名義の銀行口座を作り、銀行口座の管理は区別して行うことが望ましいです。信託プランニングの1手法である、名義預金回避信託を利用することも考慮対象となります。毎年保険料の支払いに充てる現金を振り込み、保険料は銀行口座から引き落とすようにします。

重要なのは通帳間での移動です。現金での受け渡しは後で疎明困難となるため、原則として行いません。保険料負担者は、口座引き落しの名義人と推定されます。個人間で、生命保険契約の名義を変更したとしても、保険事故が起きるまで、または満期が到来するか、解約するまでは、贈与税は課税されません。

親が支払った「子供名義の生命保険」に高額な贈与税が発生

相続税の課税財産-保険金】

毎年保険料相当額の贈与を受けその保険料の支払いに充てていた場合における受取保険金は、相続により取得したものとはみなされないとした事例(全部取消し)(昭59.2.27裁決)〔裁決事例集第27集231頁〕

【裁決要旨】

未成年者である請求人が受け取った保険金については、

1)その保険契約を被相続人が親権者として代行し、保険料の支払いに当たっては、その都度被相続人が自己の預金を引き出して、これを請求人名義の預金口座に入金させ、その預金から保険料を払い込んだものであること

2)保険料は、被相続人の所得税確定申告において生命保険料控除をしていないこと

3)請求人は、贈与のあった年分において贈与税の申告書を提出し納税していること

から請求人は贈与により取得した預金をもって保険料の払込みをしたものと認められるので当該保険金を相続財産とした更正処分は取消しを免れない。

定期贈与について

国税庁タックスアンサー№4402において、「毎年、基礎控除額以下の贈与を受けた場合」

Q 

親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか。

A

定期金給付契約に基づくものではなく、毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。

ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約(約束)をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。

なお、その贈与者からの贈与について相続時精算課税を選択している場合には、贈与税がかかるか否かにかかわらず申告が必要です。(相法21の5、24、措法70の2の4、相基通24-1

と、あります。毎年の贈与額が同じであっても、贈与は個別に成立します。タックスアンサーに記載があるとおり、「毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合」などという当初贈与契約書は作成することはないため、毎年同日付、毎年同額での贈与について全く問題ありません。

なお、連年贈与も当然ながら制度としてありません(注3)。

連年贈与した場合の贈与税の計算方法(注3)

昭和33年から50年にわたり、同一人物から3年以内の贈与は累積して贈与税を計算するという措置がありました。具体的には次の計算方式によります。

①最後に贈与を受けた年の贈与財産だけで贈与税額を計算する。

②その贈与者から贈与された各年の財産の価額から、それぞれ一定額(昭和33年から38年までは10万円、昭和39年以降は20万円)を控除した金額の合計額をもとに、贈与税額を計算する。そして、そこから既に課税された贈与税額の合計額を控除する。

③①と②の合計額を3年目の贈与の年に申告する。

この制度はもう存在しません。したがって、毎年同月日に同金額を贈与して問題ありません。

(参照)

昭和49年相続税法第21条の6(3年以内に同一人から贈与を受けた場合の贈与税額)

その年において贈与に因り同一の贈与者から10万円を超える価額の財産(その取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限る。以下本条において同じ。)を取得した者がその前年又前々年において当該受贈者から贈与に因り各年10万円をこえる価額の財産を取得したことがある場合においては、その者に係る贈与税は、前条の規定にかかわらず、その年において贈与に因り取得したすべての財産の価額の合計額につき前2条の規定により算出した金額と第1号に掲げる金額から第2号に掲げる金額を控除した金額(当該贈与者が2人以上ある場合には、これらの者につきそれぞれ第1号に掲げる金額から第2号に掲げる金額を控除した金額を控除した金額の合計額)との合計額により、課する。

その年以前3年以内の各年において当該贈与者から贈与に因り取得した財産の価額のうちそれぞれ10万円をこえる部分の合計額を前条に規定する課税価格とみなし、同条の規定を適用して算出した金額

イ及びロに掲げる金額の合計額(当該合計額が第1号に掲げる金額をこえる場合には、当該金額)

イ その年の前年又は前々年において当該贈与者から贈与に因り取得した財産の価額が当該各年において贈与に因り取得したすべての財産の価額の合計額のうちに占める割合をそれぞれ当該各年の贈与税の税額(利子税額、過少申告加算税額、無申告加算税額、重加算税額及び延滞加算税額に相当する税額を除く。)に乗じて算出した金額の合計額

ロ その年において当該贈与者から贈与に因り取得した財産の価額が同年において贈与に因り取得したすべての財産の価額の合計額のうちに占める割合を当該合計額につき前2条の規定を適用して算出した金額に乗じて算出した金額

******************参考******************

※1:民法549条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

※2:贈与契約の事例ですが、「贈与契約に顕名なしも、代理行為は有効(週刊T&Amaster2022年10月3日号・No. 948)審判所、贈与手続は請求人に包括委任と判断し原処分を全部取消し」についても併せてご参照ください。

伊藤 俊一

税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)