独ラインメタル社が開発した新型の軍用4駆「カラカル」。元米軍将校で空挺部隊経験者が実車を見てきました。実物はまさに「痒いところに手が届く」作りだったのだとか。「イイね!」と感じたポイントはどこなのでしょうか?

「ヘヴィー」な企業が造った「ライト」な兵器って?

ラインメタル社と言えば、ドイツを代表する「ヘヴィー」な会社として知られています。

「ヘヴィー」とは、アメリカ軍において機甲部隊全般を意味する言葉で、ゆえに戦車を始めとしたさまざまな装甲車両、各種砲を開発・生産する同社は、“重厚長大”な企業=ヘヴィーとして海外では認知されています。最近では次世代戦車「KF-51」を開発し、注目を集めました。

筆者(飯柴智亮:元アメリカ陸軍将校)はかつて、アメリカ陸軍の第82空挺師団に所属し、アフガニスタン戦争にも従軍したことがあります。空挺部隊は輸送機ヘリコプターなどで空輸されることが前提となっているため、大重量の装甲車両を保有しません。そのため、こういった歩兵部隊は、前出の「ヘヴィー」とは真逆の「ライト」と呼ばれます。

つまり、ライトな部隊に属していた筆者にとって、ヘヴィーなイメージの強いラインメタルなる会社は最も縁遠い存在だと思っていたのですが、昨年(2022年)、同社から新型の空挺車両「カラカル」が発表され、驚きを禁じえませんでした。なぜなら、ヘヴィーなラインメタルが、空挺部隊向けというライトな車両をリリースしたことがあまりにも不釣り合いに感じたからです。

このラインメタルの動き、やくざ映画のセリフを借りるなら「他人のシマに踏み込んできた」ようなものだ、と筆者は感じました。

そのような捉え方をしていたラインメタルの新商品「カラカル」の完成品が、2023年9月にロンドンで開催された防衛装備見本市「DSEIロンドン」で展示されたと聞いたので、さっそくブースを訪れ、実写を見てきました。

これこそ「ハンヴィー」の後継に相応しいクルマ!

ラインメタルのブースに足を踏み入れると、そこにはグリーンとブラックのツートーンで塗装された「カラカル」が展示されていました。メルセデス・ベンツ「Gクラス」をベースとした車体ながら、最初の印象は実直で質実剛健なクルマだというものでした。

展示車は、温暖地域における偵察仕様のようでした。防弾パネルは最小限で、軽快さを重視した構成です。注目したのは、装甲板の取り付け方。カラカルの装甲は完全なモジュラー式となっており、カーテン・レールのような形で車体の左右と後方に、任務に応じて付け足す仕組みになっています。これだと、もし被弾などして装甲パネルが損傷しても、その箇所だけ交換すればOKです。

この造りを見て、筆者は「これこそハンヴィーの後継車両に必要だったものだ!」と感じました。

「ハンヴィー」は1980年代からアメリカ全軍で使用された高機動4輪支援車両であり、筆者も訓練、実戦問わずだいぶ世話になったクルマです。「カラカル」を見た時、脳内で対比させたのは、アメリカ軍で過去実施された「ハンヴィー」の後継トライアル、「JLTV」計画でした。

筆者が現役だった2000年代初め、「ハンヴィー」の性能は限界に来ていました。同車は非装甲のため、イラクアフガニスタンにおける非対称戦、いわゆる対テロ戦争でパトロール任務に投入され、多くの被害を出してしまったのです。そこで、無理やり防弾パネルを後付けするといった改良が行われたものの、今度は重量増によりサスペンションやエンジンに不具合が発生する始末。車内についても、次々に追加される最新機材(衛星通信システムだの、爆発物妨害装置だの…)により、どんどんと窮屈になっていきました。

座席に関しても、2000年代から一般化した個人用ボディアーマーの着用を前提とした設計でないため、とても動きづらかったのを覚えています。だからこそ、アメリカ陸軍は「ハンヴィー」に替わる後継車両を早急に開発する必要に迫られたのです。こうして生まれたのが「JLTV」でした。

「空挺車両」の名は伊達じゃなかった!

とはいえ、JLTVは当時問題になっていたIED(テロリストが多用する即席爆破装置)への生残性を最優先するあまり、サイズも重量も「ハンヴィー」とは比べ物にならないほど大きくなくなってしまいました。「ハンヴィー」は装甲の有無により大きく異なるものの、重量は2.2~4.6tです。

それに対して、JLTVに採用されたオシュコシュ社の「L-ATV」は6.4t(装甲は固定式で外せない)もありました。これはアメリカ国防総省が出したRFI(いわゆる仕様要求書)通りに造っただけで、メーカーに罪はないのですが、実物を見たら筆者も思わず「やりたいことは理解できるけど、ここまでデカくなっちゃったか…」と、ため息をついたほどです。

国防総省はのちに「JLTVはハンヴィーの後継というわけではない」とも言いましたが、言い訳としてはちょっと苦しい部分があるでしょう。

ちなみにアメリカ軍には、こうした例が少なくありません。たとえば1990年代に行われた特殊部隊向け拳銃の開発、SOCOMピストル計画では、過大な要求を並べたRFIを提示した結果、バカでかい拳銃ができあがってしまい、「珍銃」として歴史にその名を残しています。筆者としては古巣の悪口を言いたくありませんが、ホント進歩がないのは呆れます。

話を「カラカル」に戻しましょう。前述のとおり同車の装甲はモジュラー式であり、任務に応じたセットアップが可能です。エンジンとサスペンションは増加装甲や、RWS(リモート武器システム)、対戦車ミサイルのような重装備の追加にも対応可能で、車内も拡張性が考慮された造りになっています。

最大重量は4.9t、空輸時は最大4.4tで、サイズは「ハンヴィー」とほぼ同じ。これなら問題なくC-17輸送機からパラシュートでヘヴィー・ドロップ(重量投下)できるし、CH-47輸送ヘリコプターならスリング・ロード(吊り下げ輸送)も行えます。

アメリカ陸軍で言えば、空挺(Airborne)の第82空挺師団と、空中強襲(Air Assault)の第101空挺師団、両方の部隊とも運用可能で、「空挺車両」という謳い文句は伊達ではないと言えるでしょう。

軍用高機動車両の世界標準になるかも

ラインメタルのブースで同社社員から、こうした説明を聞いているだけで空挺部隊OBとしては嬉しくなりました。筆者が「ハンヴィー」で不満に思っていた点がすべて改善されていたからです。

ただ、ここで筆者が気になったのは、対IEDについてはどう考えているのかという点です。

そこで、ラインメタル社員に「底部がV字(防爆構造、JLTVは採用)になっていないが、IEDには対応できるのか?」と聞くと、その回答は「IEDのサイズ次第ですね。底部にも防弾/防爆パネルは敷いてありますが、対戦車地雷(もしくは同程度のIED)には耐えられません」というものでした。

とはいえ、これは当然とも言えます。対戦車地雷は重量60t近い戦車を吹き飛ばすほどの威力があります。そうなると、車重5t程度の支援車両など、空高く吹き飛んでしまうでしょう。対戦車地雷を踏んでしまったら運が悪かったと諦めるしかありません。要は、防御力と使い勝手のバランスが重要なのです。

2023年9月現在、「カラカル」はドイツ軍オランダ軍が採用を決めています。これを受け、今年からラインメタル社は同車の量産体制に入っており、すでに独蘭両軍には配備が開始されているそう。ラインメタル社員によれば、国名は明かせないものの、今後は欧州内外の軍への販売が予定されているとのことでした。

ロンドンで「カラカル」を実際に見た結果、筆者は2020~2040年代における軍用高機動車両のディファクト・スタンダード、すなわち「事実上の世界標準」になる可能性があると感じました。なぜなら、他に競争相手となる有力な車両が存在しないからです。

そこで、防衛力の急拡大を目指している自衛隊も採用を検討してみてもよいのではないでしょうか。変化の著しい現代戦の環境に、幅広く対応できる「カラカル」には、その価値があると筆者は考えています。

ロンドンで開催された「DSEI2023」で展示されたラインメタル製「カラカル」。ベースはメルセデス・ベンツ「Gクラス」(飯柴智亮撮影)。