本記事は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社が10月4日に配信したレポートを転載したものです。

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9月FOMCは高金利の長期化の方針を示唆

9月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利を5.25~5.50%で据え置く決定が下されました。

注目されたFOMC参加者の政策金利見通し(中央値)では、2023年末予想が5.625%と残り1回の利上げが引き続き想定されているほか、2024年末予想が5.125%へ0.5%上方修正され、高水準の金利を長期にわたって維持する方針が示唆されました(図1)。

高金利の長期化観測は米国株の抑制要因に

高金利の長期化観測の浮上に伴って、足元で米10年国債利回りの上昇が顕著となっています。2023年初来、ハイテク株主導の株高が続いてきた米国株式市場では、米10年国債利回りが4%台へ上昇する中、金利上昇懸念が株価の抑制要因となっています(図2)。

高金利が続く環境では、バリュエーションの面で割高感の残る米国株の上値は重くなりやすく、今後の米国株の持続的な上昇には企業収益の回復の行方(業績相場への移行)がカギを握ると考えられます。

米国社債市場が抱える「満期の壁」到来のリスク

また、高金利の長期化は社債にも影響を及ぼす問題と言えます。米国の社債市場では、2024~2026年に合計約2.6兆米ドルが償還期限を迎える予定であり、このうち約2割は低格付けのハイイールド社債です(図3)。

米国企業は債務の借り換えを進める過程で、今後到来する「満期の壁」を乗り越える必要があり、特に信用力の低い企業が金利上昇に伴う返済負担の高まりに耐えられるかが焦点となりそうです。

一方、米国の銀行セクターでは、根強い金融不安や銀行への格下げ圧力の高まりなどを背景に、企業向け貸出態度の厳格化が進みつつあります(図7)。足元では貸出態度とハイイールド社債スプレッド(国債に対する上乗せ金利)の乖離が広がっているものの、今後、貸出態度が一段と厳格化する場合には、ハイイールド社債への逆風が強まるリスクに留意が必要です。

高金利環境では米国地方債に見直しの余地

金利高止まりを背景に、米国株や低格付け社債にとっての不透明な市場環境が今後も続く可能性を踏まえると、投資リスクの分散を図ることが重要と考えられます。

市場では米国景気の軟着陸を見込む見方が広がりつつある一方、足元の金利上昇や原油高、家計の過剰貯蓄取り崩し、今後の政府機関封鎖の可能性などを考慮すると、景気後退(減速)のリスクに備えることもなお必要とみられます。こうした中、安定した利息収入が見込まれる米国地方債への投資を改めて見直す余地がありそうです。

利回りと信用力の高さを兼ね備えた米国地方債

米国地方債の投資魅力は、利回りと信用力の高さを兼ね備えている点にあります。

米国債利回りの上昇を背景に、足元の米国地方債利回りは5%台半ばの水準へ上昇しており、利回り面で米国地方債の投資妙味が増しています(図4)。

信用力の面では、米国地方債の格付けはAa格の銘柄が全体の約60%を占め、約15%は最上位のAaa格となっています(図5)。このことから、米国地方債は信用力の高さを保ちながら、相対的に高い利回りを追求することができる投資対象であると言えそうです。

不透明な経済環境に強い米国地方債の格付け

米国地方債の格付けの特徴として、景気後退などの不透明な経済環境での安定性が高いことが挙げられます。

過去の米国地方債とグローバル社債の格付けの推移を比較すると、景気後退期には社債への格下げ圧力が高まりやすい一方、米国地方債の格付けは相対的な安定が維持されてきました(図8)。

また、足元の米国地方債の格付け動向について見てみても、州・地方政府の安定した財政運営などを背景に、格上げが優勢な傾向が続いています。2023年1-8月の米国地方債の格上げ件数は2,960件と、すでに2022年通年の2,509件を上回っています(図6)。

こうした米国地方債の信用格付けの改善は、高金利が長期化する今後の市場環境においても、米国地方債への見直しを促す要因になると期待されます。

和泉 祐一

フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社

シニア リサーチアナリスト