岡田将生主演の映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」が10月13日に公開される。本作は2016年4月期に日本テレビで放送されたドラマの劇場版。若者層に絶大な支持を誇ったドラマの魅力と、劇場版の見どころを解説する。

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岡田将生松坂桃李柳楽優弥が演じた愛すべきキャラクターたち

「これだからゆとりは」と、2002年から2011年の間に義務教育を受けた人なら一度は言われたことがあるかもしれない。そんな風に世間から“ゆとり世代”と一括りにされた男子3人の恋や友情、仕事にもがき、苦しみながらも懸命に生きる姿を映し出した「ゆとりですかなにか」(日本テレビ系)が映画になって帰ってくる。

本作は、NHK連続テレビ小説あまちゃん」や「木更津キャッツアイ」(TBS系)で知られる宮藤官九郎が脚本を務めた初の社会派ドラマ。2016年4月期に放送されたこのドラマは、男子3人を演じる岡田将生松坂桃李柳楽優弥の好演により若年層から熱烈な支持を集めた。

主人公の坂間正和は、食品会社の営業マン。1987年生まれの正和はいわゆる“ゆとり第一世代”だ。上の世代からは「これだからゆとりは」と揶揄される一方、ゆとりど真ん中の世代である後輩の山岸(仲野太賀)や妹のゆとり(島崎遥香)にはどうしても苛立ってしまう。その板挟みに遭い、振り回されっぱなしの坂間を共感しつつ、笑いながら見れたのは演じる岡田の力に依るところが大きい。「なつぞら」(NHK総合)や「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレフジテレビ系)でも発揮した抜群のコメディセンスとコントばりのリアクション芸で坂間を愛されるキャラクターに仕立てながらも、魅せる場面は魅せる演技でドラマにメリハリを持たせた。

“情けない男”を演じさせたら、右に出る者がいない松坂が本作で演じるのは教師の山路一豊だ。女性経験がないまま20代後半を迎えた彼は、あざとさ全開の教育実習生・悦子(吉岡里帆)に手の上で転がされ、学校では要望の多い保護者たちに強く出れず、レンタルおじさんの厳(吉田鋼太郎)に泣きながら愚痴を吐くヘタレキャラ。イケメン若手俳優の登竜門と呼ばれるスーパー戦隊シリーズ侍戦隊シンケンジャー」(テレビ朝日系)で華々しく俳優デビューを飾りながらも、王道のイケメンだけではなく果敢にも難しい役どころに挑戦し、その度にイメージを覆してきた松坂の演技力はここでも生かされ、ただ弱いだけではなく、教師としての矜持を持った山路を魅力的に演じてくれた。

厳の息子で、チンピラ風の男・道上まりぶを演じたのは柳楽。風俗店の客引き中に坂間や山路と出会うまりぶ、11浪中の受験生で妻子持ち。しかも、劇中ではそのことを隠して坂間の妹であるゆとりと付き合い始めるという、自由奔放で常識はずれの一見、視聴者に受け入れられなさそうなキャラクターだ。しかしながら、30代俳優の中でもきっての実力派として知られる柳楽の名演により、見るからに危険な男なのに、そこはかとなく知性が漂っていて惹かれざるを得ない唯一無二の男が生まれた。まりぶが周囲に投げかける正論にも説得力があり、思わず納得してしまう視聴者も多かったのではないだろうか。

■「これだからゆとりは」に意義を投げかけた脚本の妙

「大悟が電卓を使っていい時代がそのうち来ると思う。それが本当の平等。本当のゆとり教育だと、先生は思います」

これは第6話における山路の言葉で、個人的にこのドラマの魅力が最も現れている台詞だと感じている。大悟とは、山路が担任を持つクラスに転校してきた学習障害(LD)を持つ生徒で、算数がことごとく苦手だった。

母親の要望により、当初は個別授業の対応をとらず、他の生徒と共に大悟の苦手に向き合ってきた山路。しかし、他の生徒の保護者たちからクレームが入り、山路は生徒にどうすべきかを投げかける。そんな中、ある生徒から目が悪い人が眼鏡をかけるのと同じように、大悟は電卓を使えばいいのではという意見が。その意見に同意しつつも、現時点では難しいと判断し、大悟に個別授業を受けさせることにした山路が生徒に語ったのが前述の台詞だ。さらに、山路は「他人の足を引っ張らない。周囲に惑わされずベストを尽くす。個性を尊重する」とゆとり世代の長所を挙げる。

ゆとり世代というレッテルを貼られ、バカにされてきた坂間、山路、まりぶ。しかし、得意なこともあれば苦手なこともあり、人間として未熟な部分を持ち合わせているのは何もゆとり世代に限ったことではない。29歳という人生の過渡期を迎え、恋や友情、仕事に悩み苦しみながら、全力で向き合う中で坂間たちはそのことを学んでいった。他人の間違いを許し、個性を認める社会に。そんなメッセージを、「ゆとりですかなにか」と言わんばかりの個性的で人間味あふれる男子3人のユーモアに富んだ物語で宮藤は届けた。

■映画では男子3人に新時代の波が押し寄せる?

そして、ドラマの最終回から7年。元号は平成から令和に変わり、コロナ禍を経て世間は様変わりした。ダイバーシティ(多様性)を重んじる動きはますます加速し、企業には社員ひとり一人のコンプライアンス意識向上、さらには法律でも義務付けられた働き方改革に追われている。価値観がどんどん変わっていく社会に、デジタルネイティブZ世代は柔軟に対応してるが、そうじゃない上の世代は「ついていけない」というのが本音ではないだろうか。

元同僚の茜(安藤サクラ)と結婚し、実家の酒蔵を継いだ坂間、未だ女性経験ゼロの山路、11浪の末に悲願の大学合格を果たすも、卒業後に中国での事業に失敗してフリーターとなったまりぶにも、そんな新時代の波が押し寄せる。30代半ばを迎えた彼らはもはや若者ではない。立派な大人と呼ばれる年齢になった坂間たちが、今度はどんな悩みに直面し、どのような生き方を選択していくのか。それをぜひ10月13日に公開される映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」で見届けてほしい。

なお、民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」では、映画の公開を記念した特集が組まれており、ドラマ「ゆとりですがなにか」に加えて岡田・松坂・柳楽優弥が出演した過去ドラマも配信されている。そちらもチェックし、万全の状態で鑑賞に臨むとより映画が楽しめるだろう。

■文/苫とり子

映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」メインビジュアル/(C) 2023「ゆとりですがなにか」製作委員会