今回の相談者・岡田次郎さん(仮名)の実家は、父が亡くなり、母が施設に入居した後、「空き家」になっています。実家を「空き家」のままにしておくことには、どんなデメリットがあるのでしょうか。本稿では、株式会社JKASの「空地空家で困ったときのあなたの街の相談窓口」代表を務める森下政人氏が、「空き家」にかかるコストについて解説します。

実家を「空き家」にしておくことのデメリット

今回の相談者は岡田次郎さん(仮名)。地元の役所で働く54歳の公務員です。父を数年前に亡くしており、認知症を患っている母は現在、高齢者施設に入居しています。

実家は空き家になっていますが、母が自宅に帰りたがる可能性もあるため、そのままにしてあるといいます。

しかし、空き家にしておくことのデメリットについてリサーチしていくと、実家の管理には意外に多くの費用がかかり、管理を怠れば「特定空き家」や「管理不全空き家」に認定される可能性があることがわかりました。

管理には手間がかかり税金の負担も発生するため、実家を何とかしたいと思っています。

親が住まなくなった家を維持するには

空き家を維持していくためには、それ相応の費用がかかります。まず税金面についてみていくと、毎年1月1日現在の所有者に係る固定資産税と都市計画税が発生することになります。

固定資産税・都市計画税とは

土地や家屋をもっている間、毎年かかる税金です。税金を納める人は、毎年1月1日(これを賦課期日といいます)現在、各市区町村に備え付けられている固定資産税課税台帳にその土地、家屋の所有者として登録されている人。計算方法は次の通りです。

固定資産税 土地又は家屋の価格(固定資産税評価額)×税率(1.4%)=税額  

都市計画税: 土地又は家屋の価格(固定資産税評価額)×税率(0.3%)=税額

※土地は200平米までの小規模住宅用地であれば、住宅用の特例辺が受けられ固定資産税6分の1都市計画税が3分の1に減額されます。詳しくは市区町村固定資産税課に確認してみましょう。

空家等対策の推進に関する特別措置法

また、5月12日に衆議院で可決された「空き家対策の推進に関する特別措置法」の改正案にも注目です。

2015年に施工された特別措置法では、空き家が倒壊したり、ゴミ屋敷になったりする恐れがある場合は「特定空き家等」に該当し、住宅用地の特例が受けられなくなるという取り決めがありました。

今回の改正法で新たに採用されたのが、「管理不全空き家」という考え方。「窓ガラスが割れている」「樹木が生い茂っていて中に入れない」「建物の一部が破損・変形している」ような状態の空き家のことで、そのまま放置すれば、いずれ特定空き家になる恐れのあ空き家を指しています。

改正案では、自治体が「管理不全空き家」であると認めた場合、所有者に対し「特定空き家」にならないために改善するよう指導し、それでも改善されない場合は勧告を行うことになっています。「特定空き家」になる前に「管理不全空き家」に指定することで、所有者に適切な対応を促しているのです。

勧告を受けた場合「管理不全空き家」の敷地は、小規模住宅用地の固定資産税などの特例が措置の対象から外されてしまうため、注意が必要です。

空き家の維持管理には年間20万円以上のコストがかかることも

空き家の管理には、庭の剪定や水道光熱費、火災保険のほか、管理のために現地を訪れる際の移動費用などのコストがかかります。そうした維持管理費用はトータルで年間20万円以上になる場合もあり、使わない実家は早めに売却してしまうべきといえます。

実家が空き家になったときの片付けや段取りですが、親が実家に戻る可能性がある場合、片付けをするにしても、親が宿泊するだけの最低限度の荷物を残しておかなければなりません。

一方で、親が戻る予定がなく実家の売却を検討する場合は、そのための作業を適宜、業者に依頼したほうがよいでしょう。必要なものだけは自分で持ち出し、それ以外の荷物や家財道具などはすべては業者に処分してもらったほうが、作業はスムーズに進みます。

また、新聞やサプリメント、インターネット、PC内に入っている有料アプリ、クレジットカードなど、親が契約していた定期購入などの停止も忘れてはいけません。ここで問題となってくるのがパスワードなどの情報。通帳類の在りかや、どんなサービスの契約をしているか等は、親が元気なうちに一覧表を作成しておく必要があるでしょう。

空き家の維持・管理で重要な「ご近所付き合い」

家を維持管理している間は、近隣住民との関係が非常に重要です。

ポストのなかのチラシやゴミ、緊急に水道管が破裂したときの対応など、やはりご近所でないと対応できないことが多々あります。

小さいときに可愛がってもらっていたご近所さんがいればいいですが、「ご近所付き合いはない」という人もいるかもしれません。しかし、空き家の維持管理を行っていく上で、ご近所さんの存在はとても重要ですので、管理のために現地を訪れた際は周りの住民に積極的に挨拶をするようにしましょう。

空き家は維持管理が欠かせません。人が住まなくなると、家は急に老朽化が進みます。

梅雨や夏の時期は、湿気が充満してカビが発生したり、排水口のトラップの封水がなくなって、下水の臭いや虫が排水溝から侵入したりします。天井部にシミがないか、雨漏りがないかなどのチェックも欠かせません。夏場は、1ヵ月も締め切ったままにすると、タンスのなかや畳がカビだらけになることはよくあるため、とくに注意が必要です。

また、伸び放題になった雑草や植木が道路や隣地にまで越境してしまうと、近隣からのクレームの原因になるため、とくに気を付けなければなりません。明らかに空き家ということがわかれば、ゴミを放置される、知らない間に誰かに住まれる、空き巣の被害に遭う……という事態も起こり得ます。

空き家をキレイに維持するためには、一定期間、子供が住むというのが有効な選択肢です。住んでいることで実家をキレイに保てますし、何よりも住居費を浮かせられることは大きなメリットです。

実家が遠方にあり、どうしても毎月ペースでメンテナンスを行えない場合は、空き家管理サービス等の業者を使い、室内の管理を定期的に行ってもらうことも積極的に検討しましょう。

不動産が“負動産”になってしまう前に…

これまでの制度では、空き家状態になっていても「住宅」として固定資産税が減額されるため、放置されるケースが多かったですが、今後は「管理不全空き家」に指定され、改善されない場合は固定資産税、都市計画税の減額の措置を解除されてしまいます。

居住目的のない空き家はこの20年で1.9倍、今後も増加して2030年には470万戸になると分析されています。空き家は時間が経つほど、売れにくく、問題も複雑になります。

実家が空き家になったら長期間そのままにせず、売却・賃貸できる段階で動き出すことが重要です。不動産が“負動産”になり、身動きができなくなってしまう前に、思い切って手放す勇気が求められます。