長い間、おつかれさまでした! と、会社員としてのフィナーレを飾る定年。そのときに手にする退職金は、まさに長年頑張ってきたあなたへのご褒美です。しかし定年退職金を手にした笑顔が一転、青ざめるケースも珍しくないとか。みていきましょう。

退職金にも大きな格差…高給取りの大卒サラリーマンが手にする退職金額

企業が退職者に対して金銭等を支給する退職金。制度の導入は法的に定められているわけではないので、退職しても「退職金がもらえない!」というケースも。ただ「退職金がない」ことがネガティブな印象を与えるため、退職金制度を導入している企業のほうが圧倒的多数です。また一般的に定年退職時に支給するイメージがありますが、支給条件や金額などはまちまち。自己都合の退職や死亡による退職も対象になるケースもあります。

多くの場合、退職金額は基本給に在籍年数による係数を乗じて算出します。そのため、ちまたでいわれる「給与格差」は、そのまま「退職金格差」となるといっていいでしょう。

たとえば大企業中小企業。日本を代表する企業から構成される経団連による『2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査』によると、大卒・勤続38年の標準退職金は総合職で2,440.1万円。支給月数は40.0ヵ月分です。一方、東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』によると、定年時のモデル退職金は大卒で1,091.8万円。支給月数は22.8ヵ月分。企業規模の差で、倍以上の退職金格差が生じています。

また学歴による差。前出の経団連の調査によると、高卒の場合、同じ総合職でも定年退職金は2,120.9万円で支給月数は46.4ヵ月分。大卒と比べて48ヵ月ほど長く働き、また支給月数も長くありますが、大卒と高卒の間に大きな給与差がついているのでしょう、平均値で300万円もの差が生じています。

さらに業界によっても、退職金の格差は大きいと考えられます。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、最も平均賃金が高いのが「電気・ガス・熱供給・水道業」で月40.2万円。一方で最も平均賃金が低いのが「宿泊業、飲食サービス業」で月25.7万円。ともに企業規模1,000人以上、大卒サラリーマンで退職金額は40.0ヵ月分としましょう。「電気・ガス・熱供給・水道業」であれば、50代後半の平均月収から退職金は2,800万円ほどになる計算。一方「宿泊業、飲食サービス業」の場合は、1,464万円になる計算。同じ大企業であっても、定年退職金は倍近い差が生じていると考えられます。

定年退職金にも税金がかかります!当たり前のことが抜け落ち真っ青の「勝ち組」だったが…

あくまでも平均値による単純計算ですが、大企業勤務の大卒サラリーマンで、さらに高給の業種であれば、平均でも3,000万円近い定年退職金を手にしていると考えられます。お金だけでは語れないとはいうものの、明らかに「勝ち組」のサラリーマンです。

そんな多額の退職金を手にする勝ち組サラリーマンでも、気をつけたいのが税金です。老後の資金を賄う、住宅ローンを払う、世界を旅する……退職金で色々な計画を立てている人も多いでしょう。しかし、特に定年時の退職金の場合、これまでの功労に対してもらえるもの、という意識が強いからでしょうか、退職金を受け取るタイミングになってから「えっ、定年時の退職金にも税金ってかかるの⁉」「まずい、いろいろと予定を立てていたのに……」と言葉を失うケースは、勝ち組であっても意外に多いといいます。

退職金にかかる税金は「所得税」「住民税」「復興特別所得税」の3つ。所得税累進課税所得税率は以下の通りです。

「1,000円~194万9,000円」5%(控除額:0円)

「195万円~329万9,000円」10%(控除額:9万7,500円)

330万円~694万9,000円」20%(控除額:42万7,500円)

「695万円~899万9,000円」23%(控除額:63万6,000円)

「900万円~1,799万9,000円」33%(控除額:153万6,000円)

「1,800万円~3,999万9,000円」40%(控除額:279万6,000円)

「4,000万円~ 」45%(控除額:479万6,000円)

出所:国税庁『退職金と税』

退職所得にこの税率を乗じて所得税が算出されます。退職金の税金の計算では「退職所得 =(退職金∸退職所得控除額)×1/2」と優遇されています。退職所得控除額は、「勤続20年以下の場合、40万円×勤続年数(最低80万円)」「20年超の場合、800万円+ 70万円 ×(勤続年数∸20年)」(出所:国税庁『退職金と税』)。つまり勤続年数20年までなら800万円まで、30年なら1,500万円までは退職金に税金はかかりません。

住民税の税率は税率は一律10%。復興特別所得税所得税の2.1%の税金がかかります。

では定年退職金3,000万円を手にする、勤続年数38年の勝ち組サラリーマンは、一体、いくら税金を払うのでしょうか。一時金として一括で受け取る場合で考えてみます。

まず所得税。退職所得控除額は「800万円+70万円×(38年∸20年)」は2,060万円。退職所得は「(3,000万円∸2,060万円)×1/2」で470万円。よって所得税は「470×20%-42万7,500円」で「51万2,500円」(①)です。

そして住民税は「470万円×10%」で「47万円」(②)。復興特別所得税は「51万2,500円×2.1%」で「1万0,762円」(③)。つまり①+②+③の「99万3,262円」の税金がかかるということになります。

ちなみに一般的に勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出するので、退職金は確定申告不要。ただし確定申告すれば、医療費控除や寄付金控除などの所得控除や税額控除を受けられる可能性もあります。事前に申告したほうが有利かどうか、試算をしてみるといいでしょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)