地上が“雪海(ゆきうみ)”に覆われ、文明が崩壊した惑星を舞台に、人類の未来のために世界の謎に挑もうとする少年少女を描く『大雪海のカイナしのけんじゃ』(10月13日公開)。原作ストーリーを「BLAME!」、「シドニアの騎士」で、世界各国から高い評価を受けている漫画家の弐瓶勉が手掛け、「スター・ウォーズクローン・ウォーズ」など海外作品にも携わり、前述の弐瓶作品も圧倒的なクオリティで映像化してきたポリゴン・ピクチュアズがアニメーションを制作。「LISTENERS リスナーズ」「亜人」を代表作に持つ安藤裕章が監督を務める。

【写真を見る】「独特の世界観にうっとり」…映画人も魅了された“雪海”に沈んだ美しい世界

気鋭のクリエイターとスタジオによって生みだされた本作の世界は、科学や文化が失われただけでなく、“文字”という概念さえも一部の人しか知り得ない終末世界の極地。雪海の世界に適応した生物や謎の巨大兵器、過去の文明の遺物、限りある資源を巡って争う生き残った人類の姿が描かれるなど、まさにポスト・アポカリプスファンタジーと言うべき超大作になっている。そんな本作をいち早く、映画やアニメ作品に精通した著名人たちが鑑賞。作品に寄せられたコメントを紹介しながら、その魅力をひも解いていきたい。

■“大軌道樹”を目指して雪海を旅するカイナたち

世界各地に点在する巨大な樹木“軌道樹”を拠点に小さな国を作り、そこから得られる水源を頼りに生き抜いてきた人類。しかし、その水源も残りわずかとなり、滅亡の危機に瀕していた。軌道樹のてっぺんに張り巡らされている“天膜”に暮らす少年、カイナ(声:細谷佳正)は小国アトランドの王女リリハ(声:高橋李依)と出会い、さらなる水源を求めて雪海の果てにある“大軌道樹”へ向かうことに。しかし、ようやくたどり着いた大軌道樹にあったのは、ビョウザン(声:花江夏樹)率いる独裁国家プラナトだった。“建設者”と呼ばれる巨大兵器を操り、大軌道樹の破壊を目論むビョウザンをカイナたちは食い止めることができるのか?

■「どこまでも広がる雪海に、造形美を感じさせる創造物」美しくも残酷な雪海の世界

本作の特徴としてまず挙げられるのは雪海に覆われた未知の世界観。一面真っ白な美しい銀世界が広がっているが、降り積もった雪は水のようにかき分けて泳ぐことは不可能で落ちれば最後、そのまま地の底まで沈んでいくことになってしまう。

映画ライターの阿部裕華も「本作で描かれる“雪海”は、物語の傍観者にはロマンチックに映る一方、当事者には生活を脅かす存在」とコメント。その映像美に目を奪われつつも、登場人物の境遇を鑑みると素直に美しい光景とは思えないよう。

このような世界で生物が生きていくことは困難で、昆虫などわずかに手に入る栄養源が人々の日々の糧になっている。また、雪海馬という雪海に適応した馬とイルカが合わさったような生物を移動手段にしているほか、浮遊棒という雪海に浮く特殊な物質を浮袋にした船も制作している。一方で、中世ヨーロッパを思わせる街並みのアトランドに対し、プラナトには過去の文明が残っており、自動ドアやエレベーターのように浮上する床といったハイテクノロジーな要素も見て取れる。

こういった誰も見たことがない生物や装置、ガジェットが登場することについては、映画パーソナリティの伊藤さとりが「見たことありそうで新発見となる生物やコスチューム。この発想はいままでなかったと言い切れる新世界」と称し、俳優でフリーライターの宇垣美里も「どこまでも広がる雪海に、造形美を感じさせる創造物、不思議な生き物たちと、 迫力ある3DCGアニメーションで紡がれる独特の世界観にうっとり」と感嘆の声を寄せている。

■「幻想と現実の間を体験させてくれる」ポリゴン・ピクチュアズによるアニメーション

映像美だけでなく、劇場のスクリーンでこそ映える大迫力のアクションも満載。大軌道樹を目指すカイナたちが乗る船の前に、突如として現れる“大海溝”という巨大な雪の壁。この困難をカイナたちは驚くべき方法で攻略し、船を進めるのだが、これらの一連のシーンにおけるスペクタクルは思わずのけぞってしまうほどに圧倒的だ。

さらに、カイナたちの仲間である黒い鎧をまとったアメロテ(声:坂本真綾)とアトランドの親衛隊長、オリノガ(声:小西克幸)らが、プラナトの兵士たち相手に繰り広げるソードアクションのスピードある緩急と躍動感は必見。複数の建設者がいっせいに起動する場面では、その光景に畏怖の念すら覚えてしまうはずだ。

アニメーションを担当したポリゴン・ピクチュアズに言及する声も。「ポリゴン・ピクチュアズのセルルックなデジタルアニメーションは、幻想と現実の間を体験させてくれる。スクリーンで雪海を目の当たりにした時、自身を物語の内側に置くか、外側に置くか。どちらも選べてしまう映像の余白に敬意を表したい」と阿部が説明しており、スクリーンでの鑑賞ならではの感動が伝わってくるよう。同スタジオは設立40周年を迎えており、持ち味である3DCGアニメーションの強みが本作でも遺憾なく発揮されている。

■「曇のない瞳だからこそ、たどり着ける真実がある」カイナの物語を牽引する純粋さ

物語の主人公であるカイナは、天膜のうえで年老いたおじいさんおばあさんを支えながら暮らしてきた純朴な少年。リリハと出会ったことで、人類の命運を握る旅に出ることになるのだが、マイペースでどこかおっとりした気性をしている。しかし、ピンチの際には驚くほどの行動力を見せ、身を挺して誰かを守ろうともする。争いを嫌い、常に平和的な解決方法を模索している。

そんなカイナのキャラクターについて、アニメ評論家の藤津亮太は「ごく普通の少年カイナ。権力や金儲けから遠い、彼の曇のない瞳だからこそ、たどり着ける真実がある」と分析。俗世的なものと縁がなかった彼の純粋さが物語を牽引するエネルギーになっていると言える。

カイナと様々な苦難を共にするリリハもまた、王女として民の安寧を第一に考え、無謀と思われながらも、大軌道樹にたどり着けると信じて進み続ける芯のあるキャラクター。「滅びの予感が充満するなかで、 それでも未来を信じ、逞しく挑み続ける少年少女が眩しい」と宇垣も語っている。

■明日への希望を失わない姿が「脳裏に焼きついて消えない」

絶望的な世界の中で、明日への希望を失わないカイナたちの姿が胸を打つ本作。出自も価値観も異なる人たちが、時に対立しながらも、一つの目的のために結束する様は困難な時代を生きる私たちにも力強いエールを贈っている。

そんな作品の持つメッセージ性については、伊藤が「どこまでも身近に迫る私たちの物語だった。未知の冒険がたどり着くラストはいまも脳裏に焼きついて消えない」、藤津も「時代が動く時、普通の少年が大きな働きをはたす瞬間がある。小さな村から旅を始めたカイナが、ついに大きな世界を動かすのだ」と力説。気候変動や水不足で滅亡の危機に瀕する、どこか現代社会にも通じるような世界線や、特別な能力を持たない等身大の少年を主人公に置いたことで、誰もが共感でき、自分事としていつまでも心に残る作品として映ったようだ。

はたして、大軌道樹に人類を救う希望はあるのか?世界はどうして雪海に沈んでしまったのか?滅びゆく世界の謎に迫るカイナ、リリハたちの冒険を見守りながら、『大雪海のカイナしのけんじゃ』の圧倒的な映像美をスクリーンで堪能してほしい!

■著名人たちのコメント全文

●阿部裕華(映画ライター)

「本作で描かれる“雪海”は、物語の傍観者にはロマンチックに映る一方、当事者には生活を脅かす存在だ。ポリゴン・ピクチュアズのセルルックなデジタルアニメーションは、幻想と現実の間を体験させてくれる。スクリーンで雪海を目の当たりにした時、自身を物語の内側に置くか、外側に置くか。どちらも選べてしまう映像の余白に敬意を表したい」

●伊藤さとり(映画パーソナリティ)

「見たことありそうで新発見となる生物やコスチューム。この発想は今までなかったと言い切れる新世界。なのにどこまでも身近に迫る私たちの物語だった。未知の冒険がたどり着くラストは今も脳裏に焼きついて消えない」

宇垣美里(俳優、フリーライター)

「どこまでも広がる雪海に、 造形美を感じさせる創造物、 不思議な生き物たちと、 迫力ある3DCGアニメーションで紡がれる独特の世界観にうっとり。 滅びの予感が充満するなかで、 それでも未来を信じ、逞しく挑み続ける少年少女が眩しい」

●藤津亮太(アニメ評論家)

「ごく普通の少年カイナ。権力や金儲けから遠い、彼の曇のない瞳だからこそ、たどり着ける真実がある。時代が動く時、普通の少年が大きな働きを果たす瞬間がある。小さな村から旅を始めたカイナが、ついに大きな世界を動かすのだ」

構成・文/サンクレイオ翼

ポスト・アポカリプスファンタジー超大作『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』の魅力を著名人のコメントと共にひも解く/[c]弐瓶勉/東亜重工開拓局