双極性障害(躁うつ病)は気分が高揚する「躁(そう)状態」と気分が落ち込む「うつ状態」が繰り返される心の病気だ。
診断は主に医師の面接や心理テストによって行われるのだが、気分の揺れ幅や変動の波は個々によって大きく異なり、効果的な治療方法が見つかるまでには時間がかかる場合も少なくない。
そこで今回開発されたのが「電気皮膚活動(EDA)」を測定することで、気分の変化を正確にモニターするブレスレット型のウェアラブルデバイスだ。
デバイスはまだ開発の初期段階のものだが、いずれはこうした技術を利用することで双極性障害の客観的な診断を可能にし、個人に合わせたより良い治療を行えるようになると期待されている。
「双極性障害」(躁うつ病)とは、気分が高揚したかと思ったら、今度は激しく落ち込んだりと、気分が極端に揺れ動く心の病気のことだ。
このように気分が極端に揺れ動くために、それまでのように仕事や勉強がこなせなくなったり、うまく人付き合いができなくなったりと、日常生活に支障をきたすようになる。
気分が揺れ動く程度や周期は、人によって大きく異なる。大きく2タイプに分類されており、双極I型障害は、社会生活に支障をきたすほどの激しい躁状態を引き起こす。双極II型障害の場合、会生活における著しい支障はない程度の躁状態にはならないが、重度のうつ状態を引き起こすことがある。
医師がそれを診断するには面接や問診票、心理テストなどを使って確かめるしかない。これは主観的なものだし、とても時間がかかる。
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そこでバルセロナ大学の附属病院(スペイン)とエディンバラ大学(英国)の研究チームは、双極性障害患者の心の状態を客観的で手軽にモニターできるウェアラブルデバイスの開発を進めている。
皮膚の電流から心の状態を測定
心の状態を知るヒントになるのは、私たちの体の生理学的な変化だ。
私たちの皮膚には、「電気皮膚活動(EDA)」という微弱な電気が流れている。これは神経がストレスを受けることなどによって変化しているという。
そこで手首に装着したブレスレット型のウェアラブルデバイスでその変化を測定し、その時その時によって揺れ動く心の状態を知ろうというのが基本的なアイデアだ。
電気活動の変化でうつ状態と躁状態が明らかに
今回の実験では、双極性障害患者38名と健康な人19名に協力してもらい、デバイスを開発するためのデータが収集された。
参加者には市販の身体活動モニタリング・リストバンド(Empatica E4)を48時間装着してもらい、彼らの生理学的データが測定された。
この結果、落ち込んでいる(うつ状態)双極性障害患者の電気皮膚活動は、普段よりも低くなることが明らかになった。
さらに電気活動の変化から、気分が高揚した状態(躁状態)からうつ状態へと移る瞬間や、うつ状態から躁状態へと移る瞬間もわかることが明らかになったという。
双極性障害のより効果的な治療へ向けて
双極性障害を治療するうえで、患者の気分がいつ、どのように変化するのか正確に把握するのは大切なことだ。そもそも躁状態とうつ状態では、処置すべき治療も変わってくる。
これまで双極性障害の診断は、あくまで主観的なものでしかなく、しかも非常に時間がかかった。そのために適切な薬を処方するのが難しく、うまく治療効果が出てくれるのは患者の30~40%程度でしかない。
だが心の状態を正確に把握できるデバイスがあれば、速やかな診断や、患者それぞれに合わせた治療が可能になると、研究チームは説明する。
それだけでなく、危険な行為を行うリスクを客観的に把握し、事故の防止に役立てられるだろうとのこと。
今のところ、デバイスはまだまだ開発の初期段階にあり、今後もさまざまな改良やデータの収集・分析が必要になっていく。それでも、より良い治療へ向けた大きな一歩と言えるだろう。
この研究は2023年10月にバルセロナで開催された脳医学の学会『ECNP Congress』で発表された。
References:Wearable bracelet tracks bipolar mood swings: | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo
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