リアルとオンラインで同時に台湾エンタメを楽しめる、初の台湾映像フェスティバルTAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」。10月13日(金)から28日(土)までユナイテッド・シネマ アクアシティお台場ところざわサクラタウンにて行われる上映企画では、「心に刺さる1本が台湾にはある」のキャッチコピーのもと、台湾映画・ドラマにおいて人気の「ホラー」「BL」「ロマンス」、さらに「新鋭監督の長編映画デビュー作」の4つのジャンルから人気映画・ドラマ12作を一挙上映する。

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輪廻転生をモチーフにした摩訶不思議な死後の世界を舞台に、一途でピュアなラブストーリーが展開する『赤い糸 輪廻のひみつ』が、12月22日(金)の日本公開に先駆けて本企画にて上映され、さらに監督を務めたギデンズ・コーが来日し、トークショーを実施する。小説家としての顔を持つ台湾気鋭の映像作家、ギデンズ・コーとは何者か?本稿では、映画ライターのよしひろまさみちがその魅力を解説する。

■台湾映画界での異色!小説家出身のギデンズ・コー

ギデンズ・コー(柯景騰)、またの名を九把刀(Nine Knives)。いまや映画監督、脚本家として台湾を代表する作家となった彼だが、もともとはネット小説を数多く発表していた小説家だ。「九把刀」というこのペンネームは、彼が高校時代に書いた楽曲のタイトル。高校のクラスメイトが、彼が書いたメモを見つけ、それがあだ名になり、大学卒業の後にペンネームとして使うことを決めたのだそう。ユニーク…というか、変わっている。

とにもかくにも、台湾の映画作家として、彼のキャリアもちょっと個性が強い。というのも、いま活躍する台湾の映画作家のほとんどは、大学などで映画について座学したか、もしくは映画やテレビなどの撮影現場のスタッフ出身という、いわゆる“映画ムラ”からキャリアを始めている。例えば、監督作『海角七号 君想う、国境の南』(08)や、製作総指揮・脚本を務めた『KANO 1931海の向こうの甲子園』(14)などがあるウェイ・ダーションは、『カップルズ』(96)など90年代エドワード・ヤン監督の現場スタッフを務めていた。そのエドワード・ヤンも数多くの映画人を輩出する名門・南カリフォルニア大学に進学したが中退。アメリカから帰国後ユー・ウェイジェン監督のもとで『一九〇五年的冬天(原題)』(82)の脚本と製作助手を務めていた。また、ギデンズ・コーと同世代の監督といえば、『花蓮の夏』(06)を監督したレスト・チェンだが、彼も短編映画やミュージックビデオの監督出身。ギデンズ・コーのような「小説家出身」監督が稀ということがわかっていただけるだろう。

そもそも小説家として物語を紡ぐことからキャリアを始めているからか、彼の映画はどれも、ストーリーテリングがずば抜けている。そこで、日本で公開された2作品から、彼の作風の魅力を説いてみたい。

■日本版リメイクも人気を博した単独長編初監督作『あの頃、君を追いかけた』

まず、単独長編初監督作にして金馬奨の最優秀新人監督賞候補になった『あの頃、君を追いかけた』(11)。日本でも山田裕貴齋藤飛鳥共演の同名タイトルでリメイクされ、2010年代の青春群像劇の傑作としても、ギテンズ・コーの代表作としても名を残す。高校のクラスメイトの10年にも及ぶ群像劇というだけでも(それが監督本人の体験談がベースだったとしても)、初長編の監督作としては難易度が高い。なのに、登場するキャラクター誰も取りこぼさず、全員を主人公として描くことに成功。学園コメディに“あるある”な中学校生活の何気ない日常を描いたと思ったら、卒業後の彼らに降りかかる様々な大人の階段はもちろん、1999年に台湾で起きた921大地震など社会的な事象を物語のなかに自然に取りこみ、ドラマに厚みを持たせることにも大成功。いつまでもバカなことばかり考えて自分の気持ちを素直に表せない主人公の男子を演じたクー・チェンドンは第48回台湾金馬奨最優秀新人俳優賞を受賞した。

■ジャンルをクロスオーバーさせた『怪怪怪怪物!』

そして『怪怪怪怪物!』(17)はさらにぶっ飛びだった。なんせホラー青春学園コメディ。冒頭からしてグロッグロの血みどろで始まるものの、よくある学園ドラマへと唐突にチェンジ。そこからいっきにモンスターホラーパニックへと転じる。そもそも高校生たちがゾンビらしきモンスターに遭遇したことをきっかけに、モンスターとの友情が芽生え…というのも、ちゃんちゃらおかしい設定。書いていても「なんのこっちゃ!」と言いたくなるが、本当にこの展開だから驚く。いち作品の中でジャンルをクロスオーバーさせること自体、商業映画としてはかなりリスクがあるし、下手すれば物語が破綻する。だが、この作品でも彼らしいストーリーテリングの妙で難なく荒波を乗りこなしている感があるのだ。

このようにギデンズ・コーの作品のタッチは、作品ごとに異なるものの、共通しているのは物語の構築・構成・展開のうまさにある。小説を読み進めるかのごとく自然と、それでいて驚きの仕掛けが満載。しかも奇をてらったシーンが数多く盛り込まれているのに、登場人物たちは一般的な若者で、彼らの日常自体は我々となにも変わらない。オリジナル作品のため馴染みがある物語ではないはずなのに、目線はあくまで観客と同じなので、感情移入が非常にしやすく、作品の中のどこかに自分を見出すことができる。ストーリーテラーとしての腕を磨いた上で、物語を過不足なく映像に落とし込むすべを身に着けたギデンズ・コーだからこそ実現する、洗練された作風。これが彼の特色だろう。

■常連俳優が集結した『赤い糸 輪廻のひみつ』はギデンズ・コーの現時点の集大成

そんな彼の監督最新作が、「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」の目玉の一つでもある『赤い糸 輪廻のひみつ』。これまた、「落雷で死んだ主人公が、カタツムリとしてか、もしくは人間に転生するために月老(ユエラオ)と呼ばれる縁結びの神様の見習いになって徳を積んでいくかの二択を迫られる」という、とんでも設定で始まる。

ギデンズ・コー組の常連、『あの頃、君を追いかけた』のクー・チェンドンが主人公を演じ、『私の少女時代-Our Times-』(15)のビビアン・ソン、『僕と幽霊が家族になった件』(23)のワン・ジンら人気俳優陣が出演する。2021年7月に韓国富川で開催された、富川国際ファンタスティック映画祭のオープニングでプレミア、9月の台北映画祭のオープニングを飾り、11月には台湾全土、アジア各国で公開(一部地域ではDisney+のストリーミング配信)。同年度の金馬奨で12部門にノミネート、第24回台北映画祭では最優秀監督賞を受賞した。日本では「Iラブ台湾イベント2022」で『月老 ~また会う日まで~』のタイトルで上映されたのみで、今回の上映はまさにファン待望と言えるだろう。

数々の人気ネット小説の生みの親として、そして映画業界のヒットメイカーとして、いまの台湾を代表する作家の一人になったギデンズ・コー。新作でも、洗練されたハチャメチャ度に期待したい。

文/よしひろまさみち

「TAIWAN MOVIE WEEK」ではギテンズ・コー監督最新作『赤い糸 輪廻のひみつ』を上映!/[c]2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.