燃焼に酸素を必要としないロケットエンジンは、宇宙空間だけではなく地球の高高度の飛行にも適しています。にも関わらず、現在まで戦闘機がほとんど存在しないのはなぜなのでしょうか。

味方にとっての「恐怖の彗星」

宇宙に打ち上げる飛行物体には、液体もしくは固体の推進剤(燃料)が使われます。こうした推進剤は、燃料と酸化剤を化学反応させて飛ぶため、空気中の酸素を必要としません。そのため真空の宇宙での航行だけでなく、同じサイズのジェットエンジンと比べ地球の高高度での高速飛行にも適しており、短時間で高高度に達することができます。

そうした特性がありながら、ロケット推進が戦闘機として使われない理由はどこにあるのでしょうか。実は一時期試みられたときがありましたが、メリットよりもデメリットがかなり大きかったことから、開発されることがなくなってしまいました。

数あるロケット飛行機の中で、実戦に投入されたのは、第二次世界大戦中に特攻機として使用された日本の「桜花」をのぞけば、大戦中の1943年に迎撃戦闘機として運用が開始されたMe163「コメート」だけです。これが2023年現在も、唯一の実戦を行ったロケット戦闘機になっています。

確かに同機は、実戦投入当初は圧倒的な上昇力とそれを利用した一撃離脱戦法で戦果を挙げましたが、戦闘機としての装備をつけると、推進剤積載量が少なくなり、上昇までに推進剤を大量に使うため、極端に航続距離が短くなることが問題でした。上昇のために燃料をほぼ使ってしまうので、飛行時間は数分しかなかったとされています。後は得られた高度を利用してなるべく長時間滑空するのみです。

当初、同機の高高度からの一撃離脱戦法に連合国軍の爆撃機隊は手を焼いていたものの、同機が飛行場の周辺でしか防空戦闘ができないことが露見すると、同機の配備された飛行場を避けて通るようになり、じきに目立った戦果は挙げられなくなってしまいました。

さらに「コメート」は、推進剤の燃料としてヒドラジンなどの劇物を搭載しており、これが非常に爆発性と腐食性が高く、少しでも燃料漏れを起こすとパイロットや整備員は命の危険にさらされました。

また離着陸の問題も大きく、離陸時には少ない燃料を節約する必要から車輪を切り離してしまうため、ソリのようになった胴体で滑るように着陸させる必要がありました。しかも、燃料は上空で使い果たす程度しか搭載しなかったため、ただの操作性の悪いグライダーになった状態での着陸です。

当然、事故は多くなり、結果として味方から「恐怖の彗星」という異名で呼ばれてしまいます。もちろん、恐怖を与えられるのは敵ではなく味方です。

戦中・戦後とロケット戦闘機は研究されるが…

ドイツの敗戦間際には、Ba 349「ナッター」というロケット戦闘機も登場しました。同機は戦闘後、エンジンを分離して再利用し、パイロットは脱出するというシステムでしたが、部隊配備されたのは1945年4月だったために実戦参加はなかったとされています。

また、旧日本陸軍でも「コメート」の図面を参考に、局地戦闘機「秋水」の開発が行われましたが、実戦投入されることはありませんでした。

第二次世界大戦後も、アメリカやイギリスソビエト連邦ではロケット戦闘機の研究が続けられました。さすがにヒドラジンで飛ぶことはなくなりましたが、推進剤の内容物が変わってもトラブル時にエンジンが爆発、炎上する危険性などはロケット推進剤の特性として残りました。

さらに航続距離の問題も改善できずにいたため、イギリスではロケットエンジンの推力の高さでいち早く高度を確保し、ジェットエンジンで飛行するという混合動力機を搭載したアブロ 720という機体も1950年代に考え出されますが、実用化には至りませんでした。

結局、ロケットエンジンを搭載した実験機の研究は、1960年代以降になるとジェットエンジンが発達、より高高度かつ高速になってきたこともあり行われなくなります。

ちなみに、初めて音速の壁を超えた飛行機であるベルX-1は、ジェットエンジンではなくロケットエンジン搭載機でした。また、2023年6月29日に商用宇宙飛行を実現した、「スペースシップツー」は、宇宙旅行向けの機体ですが、弾道飛行スペースプレーンという、ある程度の高度で親機から射出するタイプであるため、形状としてはロケット飛行機に近い見た目をしています。

史上初で現状史上で唯一の実戦経験のあるロケット戦闘機Me163「コメート」(画像:アメリカ空軍)。