検察側の罪人』(18)、『燃えよ剣』(20)の原田眞人監督がメガホンを取り、特殊詐欺に携わる犯罪グループに焦点を当てた黒川博行の小説「勁草」を映画化した『BAD LANDS バッド・ランズ』(公開中)。大阪の西成を舞台に、犯罪を生業とする主人公のネリを安藤サクラ、その弟でサイコパスのジョー山田涼介が演じるほか、生瀬勝久に吉原光夫、江口のりこ、天童よしみ、宇崎竜童といった個性派の面々がアクの強いキャラクターをそれぞれ熱演している。

【写真を見る】「どうしたって惚れてしまう」。著名人たちも手放しで絶賛する、安藤サクラの熱演は見逃せない!

本作は、上質なクライムサスペンスが展開される一方で、ある事件を機に思わぬ大金を手にしてしまったネリとジョーの姉弟が、立ちはだかる敵を前に奮闘する様を、関西弁のかけ合いを織り交ぜながらテンポよく描いていく。疾走感や爽快感も味わえる“大阪フィルノワール”として観客を楽しませ、“中毒性”もあると話題の一作だ。そこで本稿では、何度でも観たくなる吸引力を持つ本作の真髄に、作品を鑑賞したタレントやクリエイター、作家から寄せられた熱量の高い感想コメントで迫っていきたい。

■「新世代&新世界“OSAKA”ノワール」の世界観にハマる!

社会派作品でありながら、高いエンタテイメント性も合わせ持つ世界観にハマったという人が続出している本作。バラエティタレントの井上咲楽は「緊張感、高揚感、焦燥感。感情が追い付かないほどの絶え間ない怒涛の展開、一気に見ました」とし、息もつかせぬ展開の連続に2時間23分の上映時間があっという間に過ぎ去ってしまった様子。また、大阪が舞台ということで方言によるセリフ回しや街の独特の空気感に言及する声も。作家・ジャーナリストの佐々木俊尚が「機関銃のように繰り出される大阪弁、カッコ良すぎるダークヒーローたち、1970年代的な重い疾走感」、ゲームクリエイターの小島秀夫も「“大阪”という異世界でしか誕生しえない新世代&新世界“OSAKA”ノワール!この大阪弁なら、世界中で通用するはずだ」と絶賛している。

■「安藤サクラに惚れる。とことん惚れさせてくれる」主人公・ネリの存在感

本作を語るうえで主人公であるネリのキャラクターは外せない。壮絶な過去から逃れ、物語開始時点では詐欺グループのトップからの信頼も得て、大勢の受け子たちに指示を送る現場監督のようなポジションに付いている。それでいて、社会からはみでた者たちへ向ける視線は温かく、何者に屈しない芯の強い女性として描かれているのだ。そんな彼女を体現する、演技派の安藤への絶賛評もあふれている。

漫画家、コラムニストの辛酸なめ子が「社会の底辺でも、心は落ちぶれない、その品格とプライドに女性としてエンパワーメントされました」と語れば、ライターの新谷里映は「安藤サクラに惚れる。とことん惚れさせてくれる映画だ。役と俳優がぴたりと重ならなければ生まれない圧巻の演技、そこに込められた生き抜く強さ。どうしたってネリに、安藤サクラに、惚れてしまうのだ」とコメント。

さらに、漫画家のマキヒロチによる「ネリが何故人生に悲観せずに淡々と生きていけるのか…。彼女の怒りでも諦めでもない表情からずっと目が逸らせなかった」、ラジオパーソナリティの長井優希乃の「私は、ネリのように生きづらさをナイフで切り裂いて、自らの足で『生きる』という真の自由のために全力で走ったことがあっただろうか?生と死を綱渡りで全うする姿は危うく美しく、誰にも自分の人生をジャッジさせない強さがあった」といった言葉もあり、ネリの生き様に勇気づけられ、励まされている人は多い。

■「命を持った登場人物たちの決死の生き様」を山田涼介らが体現!

山田演じるジョーのキャラクターも強烈。無邪気に姉を慕う一方で、刑務所から出所したばかりで野心あふれる目をギラギラさせている。その狂気がいつ、どのような形で暴走するかわからない危険性を帯びており、観る者に不安とスリルを与えている。山田の新境地とも言えるジョーについては、映画ジャーナリストの金原由佳は「山田涼介の放つ真意の見えない微笑みと怖さ知らずの凶暴性。これ以上下がりようもない地獄から天上の楽園への出口を、この2人(ネリとジョー)と探し、絶望し、もだえ、騙し騙される愉楽。這い上がれ!」と語っており、社会の底辺でなりふり構わずあがく姿から目が離せなかったようだ。

ネリとジョー以外にも、犯罪組織をまとめるネリの上司的存在の高城(生瀬)に、組織の検挙に躍起になっている大阪府警の佐竹刑事(吉原)、西成のアパートに暮らす老人だが、ただ者じゃない雰囲気を漂わす曼荼羅(宇崎)、ジョーが金を稼ごうとする賭場所を仕切る謎の女性、林田(サリngROCK)と個性的なキャラクターが次々と登場する。これらの登場人物たちが織りなす、緊張感と笑いがないまぜになった独特の世界観はきっとクセになるはず。人喰いツイッタラーの人間食べ食べカエルも「変に美化することもなく、綺麗事も吐かず、全員がそれぞれのクソ野郎を全うする。命を持った登場人物たちの決死の生き様がこの映画には詰まっている」というコメントを残している。

■「スピーディーな展開に夢中になりながらも、なにかが心に引っかかる」複雑なテーマ性

直木賞作家、黒川博行による原作小説では、緻密な取材によってあぶりだした社会の暗部がリアリティを込めて描かれており、そのディテールは映画版にも受け継がれている。闇社会を生きる人間ドラマに家族愛、どん底から希望を見出そうとする人間賛歌という一面も持ったストーリーの秀逸さに感銘を受け、力をもらったという感想も数多く見受けられる。

「痺れました!血と汗と土埃の匂いが充満するスクリーン。全シーンが格好良いハードなクライムサスペンス!激推しせざるを得ない!」と熱いコメントを送っているのは映画プレゼンターの赤ペン瀧川。そして、「人間誰しも『いまに見てろ』と歯をくいしばる苦しみを持っている。あの日あのときと決別しようと駆けだすときを待っている。チャンスをつかめ。逆転劇を起こすんだ。夢に向かって走れ」という言葉を綴るエッセイストの松浦弥太郎もまた、作品からエールを受け取った一人。柔道家の阿部詩もネリやジョーらの絆を前に、「血はつながっていなくてもそこに愛は存在するんだと、見ていて心が動かされましたし、自分の人生を生きるということは、こういうことなんだと感じました」と続く。

一方で、フリーアナウンサーの宇賀なつみの「はたして、正義とはなんなのだろうか?本当の悪人など、この世界に存在するのだろうか?私にはまだわからない。ただ、信じたい。どんな人間にも、誰かを愛する心はあるのだと」、モデルの前田エマの「スピーディーな展開に夢中になりながらも、なにかが心に引っかかって、すっきりしない。ひん曲がった、それでいて素直な、“愛”と呼ぶのも納得がいかないような結末を作り上げたのは、この社会なのか」といった意見も。観る者に“犯罪とはなにか”“正義の在り方とは”という社会的なメッセージに加え、枠にとらわれない“家族”や“愛”の形といったテーマも投げかけており、本作における一筋縄ではいかない複雑さも物語っている。

ネリとジョーに待ち受ける結末を希望と見るか、絶望と捉えるか…。エンタメ作品としてのおもしろさは失わず、観終わったあとに、心の中に容易には消化できないしこりを残していく『BAD LANDS バッド・ランズ』。本作ならではの鑑賞後感を何度も噛みしめてほしい。

■著名人たちのコメント全文

●赤ペン瀧川(映画プレゼンター)

「痺れました!血と汗と土埃の匂いが充満するスクリーン。俳優の毛穴からあふれ出す色気とオーラ。その全てを吹き飛ばすような風を起こす疾走感。全シーンが格好良いハードなクライムサスペンス!激推しせざるを得ない!」

●阿部詩(柔道家、パーク24)

「見たこともない、知らない世界をずっと覗き見しているようなワクワク、ドキドキ。この先、主人公の二人はどうなるんだろうと、最後まで予想のつかないストーリーでとても面白かったです。血はつながっていなくてもそこに愛は存在するんだと、見ていて心が動かされましたし、自分の人生を生きるということは、こういうことなんだと感じました」

井上咲楽(バラエティタレント)

「緊張感、高揚感、焦燥感。感情が追い付けないほどの絶え間ない怒涛の展開、一気に見ました。私が過ごしてきた環境では感じえない、圧倒的でダークな世界、その中で渦巻く人情や姉弟の愛をどっぷりと覗き込み、ふと気づけば汗だくになるほど没頭してしまいました。音楽も泥沼さも、一つ一つがなぜか美しい。ぜひ多くの方に見てほしいです」

宇賀なつみ(フリーアナウンサー)

「見てはいけないものを、見てしまった。犯罪者を少し離れた場所から眺めているような、不思議な感覚に陥っていた。苦しいのに先が気になって、苛立たしいのに惹かれている。はたして、正義とはなん何なのだろうか?本当の悪人など、この世界に存在するのだろうか?私にはまだわからない。ただ、信じたい。どんな人間にも、誰かを愛する心はあるのだと」

●金原由佳(映画ジャーナリスト)

山田涼介の放つ真意の見えない微笑みと怖さ知らずの凶暴性。安藤サクラポーカーフェイスで隠す、壮絶な痛みと、逃げ道への希求。これ以上下がりようもない地獄から天上の楽園への出口を、この2人と探し、絶望し、もだえ、騙し騙される愉楽。這い上がれ!」

小島秀夫(ゲームクリエイター)

「“コレコレ詐欺”ではない。正真正銘の大傑作だ!こんな映画が日本から現れるのをずっと待っていた!”大阪“という異世界でしか誕生しえない新世代&新世界“OSAKA”ノワール!この大阪弁なら、世界中で通用するはずだ。黒川博行ファンとしても、むちゃ嬉しいわ」

佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)

機関銃のように繰りだされる大阪弁、カッコ良すぎるダークヒーローたち、1970年代的な重い疾走感。なにもかもが最高」

●辛酸なめ子(漫画家、コラムニスト)

「COOLで仕事ができて、語学に堪能で料理も上手で、勇敢で優しい…闇社会にいながら憧れ要素が満載のネリ。常に確固たる足取りで歩いています。どんな場面でも自分の能力を最大限に生かせるのは、自信があってゆらがない軸を持っているからでしょうか。社会の底辺でも、心は落ちぶれない、その品格とプライドに女性としてエンパワーメントされました。弟ジョーがそんなネリに憧れるのは当然です。ネリを見つめるジョーけなげな眼差しに萌えながらも、かわいい弟をスルーするネリの不動の心にも圧倒されました」

●新谷里映(ライター)

安藤サクラに惚れる。とことん惚れさせてくれる映画だ。彼女が演じるネリは、特殊詐欺を生業とする犯罪組織で生きる女性。生きにくい世界のなかで生き抜こうとするネリの姿に、観る者それぞれが自分にとっての生きにくさ、生きにくい環境を重ねる。そしてネリに未来を託したくなる。役と俳優がぴたりと重ならなければ生まれない圧巻の演技、そこに込められた生き抜く強さ。どうしたってネリに、安藤サクラに、惚れてしまうのだ」

●人間食べ食べカエル(人喰いツイッタラー)

「変に美化することもなく、綺麗事も吐かず、全員がそれぞれのクソ野郎を全うする。そこがこの映画で最も気に入ったところ。善や悪で分けず、立場や目指す先の違いでぶつかり合い、命を削る。書き割りではない、命を持った登場人物たちの決死の生き様がこの映画には詰まっている。豪華役者陣の新たな一面もたくさん見られます。個人的なMVPは天童よしみさん。あんな姿を見たらもう、ナメれません」

●長井優希乃(ラジオパーソナリティ)

「人は他人の人生を『恵まれている』、『恵まれていない』とジャッジする。この姉弟の生き様に触れてゆくうちに、当初自分にそのような傲慢な気持ちが芽生えていたことを恥じた。私は、ネリのように生きづらさをナイフで切り裂いて、自らの足で『生きる』という真の自由のために全力で走ったことがあっただろうか?生と死を綱渡りで全うする姿は危うく美しく、誰にも自分の人生をジャッジさせない強さがあった」

●前田エマ(モデル)

「スピーディーな展開に夢中になりながらも、なにかが心に引っかかって、すっきりしない。このモヤモヤを映画を観た後も引きずっている。ひん曲がった、それでいて素直な、“愛”と呼ぶのも納得がいかないような結末を作り上げたのは、この社会なのか。それぞれがそれぞれの形で“愛”を真っ当しているのだったら、この怒りはどこにぶつけたらよいのだろうか」

●マキヒロチ(漫画家)

「ネリが何故人生に悲観せずに淡々と生きていけるのか…彼女の怒りでも諦めでもない表情からずっと目が逸らせなかった。バッド・ランズだとしても、血のつながりを超えた愛と彼女の走り去る姿に希望を見た」

●松浦弥太郎(エッセイスト)

「人間誰しも『いまに見てろ』と歯をくいしばる苦しみを持っている。あの日あのときと決別しようと駆け出すときを待っている。チャンスをつかめ。逆転劇を起こすんだ。夢に向かって走れ。僕にそう思わせた主人公ネリの美しい瞳が忘れられない」

構成・文/サンクレイオ翼

上質なクライムサスペンスながらエンタメ作品としても楽しい『BAD LANDS バッド・ランズ』/[c]2023『BAD LANDS』製作委員会