30年ローンで注文住宅を建てた40歳のサラリーマン。現在の収入からすれば月11万円ほどの返済には余裕がありますが、年金生活突入後も返済が続くことを考えると少し不安が残ります。さらに、サラリーマンは50代後半以降に何段階かの収入減に直面する可能性が高く、最悪の場合、住宅ローン返済による生活苦から「老後破産」に陥るリスクも。詳しくみていきましょう。

40歳・会社員、月返済11万円で注文住宅を建てる

昨今は賃貸派が増えているという意見もありますが、総務省の調査(2018年)によれば、日本の持ち家率は6割超。この割合は60代では9割弱に上り、まだまだ持ち家志向が強く根付いていることがわかります。

国土交通省令和4年住宅市場動向調査』によると、注文住宅(一次取得)購入者(世帯主)の年齢は39.5歳で、購入資金総額(土地+住宅建築)は4,713万円。住宅ローン借入金額は3,772万円、返済期間は32.8年というのが平均的な姿です。

それではほぼ平均通りの年齢で夢のマイホームを実現するとき、平均的な会社員にはどれほどの収入があるのでしょうか。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査」をみてみると、40代前半の大卒・男性サラリーマン(正社員)の平均月収は41万8,000円、残業代やボーナスを合わせた年収は693万円ほどで、毎月の手取りは32万円ほど。

元利均等方式で金利0.5%、3,700万円・30年ローンを組んだとすると、毎月の返済額は11万700円。年間の返済額は132万8,400円で年収に対する返済負担率は19%ほどですから、世帯主の収入だけでも十分返済していけそうなプランだといえます。

ただ、しっかりとシミュレーションしておきたいのが、住宅ローンの完済年齢。40歳時点で30年超のローンを組むとなると、返し終わるのは70代。繰り上げ返済を行って早めに返し終えるのがいいのか、それとも手元資金を残しておくことを優先して、スケジュール通りの返済を続けていくのか。どちらが正解ということはありませんが、いずれにしても、サラリーマンが50代以降に経験する収入減を想像すると不安が残ります。

多くのサラリーマンが50代後半以降「大幅な収入減」に見舞われる

会社員であれば、まず覚悟しておかなければならない収入減は、定年前に訪れます。

50代ともなれば、課長や部長などの役職に就いている人も多いでしょうが、定年まで「役付き」でいられるとは限りません。その理由は、役職定年制。この制度を導入している会社の多くは55歳を役職定年の時期に設定しており、その時点で収入は平均3割減となります。

役職定年から数年、今度は多くのサラリーマンが定年退職で大幅な収入減に直面します。ほとんどの企業では希望すれば65歳まで働けるように整備が進んでいますから、定年時にローンを抱えていれば「まだ働きます!」と決断することでしょう。ただし定年を境に収入はまたしても平均3割減少し、55歳時点からみると給与は半分ほどになります。

役職定年と定年年齢を経て、収入はピーク時から半減。ローンを返しながらでは十分な資産形成は行えず、働き続けたとしても、給与が再び増加に転じることは考えづらいでしょう。さらに、契約社員・嘱託社員としての仕事からの引退後の生活を想像すると、不安はいっそう強まるばかりです。

収入が減ったとしても、住宅ローンの返済日は待ってくれませんから、なにも対策を取らずに収入の下降期を迎えれば、いよいよ「老後破産」が現実味を帯びることになります。

片働きの夫婦が年金からローンを返済したら…家計はどうなる?

会社員を完全に引退し、収入が年金だけになったとき住宅ローンが残っていたら、家計はどうなるのでしょうか。

仮に男性・大卒サラリーマンが定年まで平均給与で働き続けたとしたら、65歳から受け取れる厚生年金部分は月10万7,000円。国民年金と合わせて月17万円ほど。妻が専業主婦で満額の国民年金を手にする場合、夫婦で手にする年金は月およそ22万円で、手取りでは18万~19万円ほどになります。

60歳定年で現役引退した会社員が65歳から手にする公的年金は、厚生年金部分およそ10万円に加え、国民年金が満額支給なら合計で月16万5,000円ほどになります。65歳まで働いた場合、5年分多く厚生年金保険料を納めたことで、65歳から受け取れる年金額は厚生年金部分が11万3,000円、国民年金と合わせて17万8,000円ほど。夫婦共働きなら、夫婦で27~28万円ほどというのが平均値です。そこから月11万円を返済に充てたら残りは16万円ほどですが、住居はありますから、そこまで問題はなさそうです。

心配なのは会社員の夫と専業主婦の妻という組み合わせ。妻が受け取れるのは国民年金のみで、これが満額支給だったとしても夫婦で受け取れる年金は約23万円。手取りは20万円を切ることになり、雲行きは一気に怪しくなります。

住宅ローン返済と資産形成を同時並行できるプランが重要

実際、晩婚化の影響によって住宅購入の年齢が後ズレしており、老後も続く住宅ローン返済が引き金となって破産に至るケースは少なくありません。

日本弁護士連合協会消費者問題対策委員会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』をみると、17年調査に比べ、70代の債務者がひと際増えていることがわかります。

【年齢別「破産債務者」の比率】

30代:19.55%→15.89%

40代:26.01%→26.94%

50代:22.78%→21.45%

60代:16.40%→16.37%

70代:7.51%→9.35%

日本弁護士連合協会消費者問題対策委員会による『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』より

※数値左:2017年調査、右:2020年調査

高齢者の破産事件のすべてが「70代でも続くローン返済」に起因する訳ではないでしょうが、該当者が相当数いることは想像に難くありません。念願のマイホーム実現に向けて気分が盛り上がっているときに、冷静になって完済時期の家計を想像できるかどうかが運命を分かつことになりそうです。

サラリーマンの場合、50代後半の「役職定年」、60歳の「定年退職」、65歳の「引退」という段階を踏んで、大幅に収入が減少していきますし、今後、年金や退職金などの老後生活を支えるための収入が大きく跳ね上がることは期待できません。

老後破産という最悪の結末を避けるために、収入に伸びしろがある50代半ばまでの期間に繰り上げ返済を行うなどして残債を減らし、定年退職を迎えた時点では、いざとなればローンを一括で返済してしまえるだけの資金を、生活資金とは別に確保しておくことが理想的なマネープランといえそうです。

(※写真はイメージです/PIXTA)