少子高齢化が進展する日本で、多くの子たちが向き合う「親の介護問題」。共働き世帯が主流となり、結婚しない人も増加したいま、「家族で介護」という対応はむずかしい。親の貯蓄と年金を使って老人ホームへ入所できればいいのだが、インフレ下、なかなか理想通りにはいかないようだ。実情を見ていく。

高齢者の介護…配偶者、子・孫、きょうだいには扶養義務アリ

近年では、高齢者の介護問題が深刻な問題となっている。厚生労働省『社会生活基本調査』(2021年)によると、15歳以上でふだん家族を介護している「介護者」は、全国で653.4万人。男女別にみると、女性が介護者全体の約6割を占めており、年齢別にみると、介護者数のボリュームゾーンは「50代」の183.6万人だ。また、人口に占める介護者の割合は10.9%で、人口比で最も多いのは「60代」で、11.7%にのぼる。

介護問題での最重要事項は「誰が介護するのか」という1点に尽きるといえる。ただし、介護者については法律で明確に定められており、要介護者にとって直系家族となる「祖父母」「父母」「子」「孫」のほか、「配偶者」「兄弟姉妹」はお互いに協力して介護をする「扶養・扶助」の義務があり、放棄することはできない。

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある…民法第877条 第1項

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない…民法第752条

介護は義務だが、実際に手足を使って面倒を見るばかりでなく、必要なら経済的な支援も行わなければならない。もし「どこまでやるべきか」で揉めた場合は、家庭裁判所が判断することになる。

「親の介護」を不安に思う子、「介護の準備」に着手しない親

SOMPOひまわり生命保険が、3~12歳の子どもを持ち、自身の親と離れて暮らす男女400人に行った『介護とお金に関する調査』を見ると、約8割が「自身の親の介護」について「不安あり」と回答している。しかし一方で「親自身が介護準備をしているか」に対しては、6割強が「特に準備をしていない」と回答している。

「親が自身の老後ケアや介護費などを目的に対策を行っているか」に対して、「知らない/聞いたことがない」が8割弱という結果を見れば、親世代と子世代には、問題の共有も情報の共有もできていないことは明らかだ。

親の介護に対して不安があるとした人に理由を聞いたところ、最も多いのが「仕事との両立」で64.3%、「認知症などの精神的な疲労」が50.3%、「経済的に十分な環境の準備」に48.7%だった。

離れて暮らす親が要介護になった場合、子どもとしては、老人ホームへ入居してもらうのがいちばん安心だといえるが、その場合も「先立つもの」がなければ始まらない。

厚生労働省によると、厚生年金受給者の平均年金額は月14万円程度。65歳以上男性に限ると、月17万円、女性では月10万円ほどとなっている。また、高齢者世帯の貯蓄額は中央値で1,500万円程度だとされている。

同じく厚生労働省の資料によると、介護施設の月額費用は、介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームなどの有料老人ホームで月18.9万円、サービス付き高齢者向け住宅で月14.0万円。

もし平均的な厚生年金受給者の80歳の母親が有料老人ホームに入るなら、月9万円ほど不足することになり、不足は貯蓄を取り崩すことになるが、ざっくり計算すると、2,000万円あれば100歳まではとりあえず安心だといえる。

老人ホームの「請求額トラブル」あるある

だが老人ホームでは、しばしば支払額についてトラブルになることがあるので、注意が必要だ。

多くは、事前に受け取ったパンフレット等に記載された金額と、実際の支払額の齟齬によるものだが、場合によっては10万円近い差額になることもある。

有料老人ホームでは主に、毎月の「介護サービス費」「生活費」が発生する。

「介護サービス費」は、介護度によって費用はある程度決まってくるため、大きな問題にはならない。だが、居住費や光熱費、食費などが該当する「生活費」のほうは、施設によっては「レクリエーション費用」等の別途上乗せなどがあることから、かなりの差が生じるケースもある。

そのため、親を入居させている子どもたちから「なぜこれほど高額になったのか?」と責められるなど、トラブルに発展しやすい。だが、その点については、むしろ子どもたちのほうが、何が費用内で何が対象外(上乗せ)なのか、明確に把握しておくことが大切だ。

想定外の追加費用で、子世代がトラブルのタネを抱える場合も

また、インフレも介護施設の運営に影響する。2022年には、約23%の介護施設が値上げしたという報告もあるなど、あとからやむを得ない価格変更が生じるケースも見受けられる。

実際、もしそのような事態が発生すると、入居前のシミュレーションに狂いが生じ、家族に想定外の費用負担が発生することもあるだろう。親自身の預貯金等で吸収できればいいが、もし子世帯に費用負担がかかれば、家庭内やきょうだい関係に亀裂が生じることもある。

――自分の親なのだから、君の貯金を使うべきだろう?

――うちは子どもの教育費で大変なの。お姉ちゃんは独身なんだから身軽でしょう?

――なんで支払いを渋るんだ! きょうだい全員での持ち回りだと決めただろう!?

実際に、このようなやりとりが、家庭内やきょうだい間で繰り広げられ、関係悪化も懸念される。

親の介護不安として「経済的なこと」が上位だったと上述したが、現役の子世代でも、子育てやローン返済で生活ギリギリという人も多い。とてもではないが、親の老後資金の追加負担までは背負いきれないのだ。

最近では、入居待ちの問題はさておき、介護施設のバリエーション自体は増えている。経済的にそこまで大きな負担のない施設もあることから、親世代としては、せめて子世代に経済的な不安をかけることがないよう、元気なうちから施設を選択することが大切だ。

(※画像はイメージです/PIXTA)