突然、空から大きな氷の粒が降ってきた——。実際に経験したことはなくとも、ニュースやSNSで目にしたことがある人は多いだろう。この氷の粒が降る、“あられ”や“ひょう”といった気象現象はそうよくあるものではないが、大きな氷の塊が当たればケガをすることもあり、実は危険なものだ。

【写真】2000年、千葉県に降ったピンポン玉大の“ひょう”

しかし、よく考えてみれば、どのようにして上空で大きな氷の粒が作られ、それが宙に浮いているのか、不思議ではないだろうか。そこで、“あられ”や“ひょう”ができるメカニズムや、降りやすい時期や地域について調査。気象庁 名古屋地方気象台の気象情報官・常盤実さんに、話を伺った。

■原因は、夏によく見かける「積乱雲」だった!

—— まず最初に、“あられ”と“ひょう”の違いから教えてください。

【常盤さん】違いは大きさです。直径約5ミリ未満の氷の粒を“あられ”と呼び、直径約5ミリ以上の氷の塊を“ひょう”と呼びます。

—— “あられ”や“ひょう”のような氷の粒は、上空でどのように作られているのでしょうか?

【常盤さん】“あられ”や“ひょう”は、主に積乱雲の中で作られます。実は積乱雲の内部にはかなり強い上昇気流が生じていて、積乱雲が“高さのあるモコモコした形”をしているのもそれが理由です。

雲を形成しているのは、水の粒。積乱雲の内部では、その水の粒が上昇気流で上へ上へと運ばれ、上空の気温が低い場所で氷の粒になります。上昇気流が及ばないほどの上空まで運ばれた氷の粒は、やがて落ちてきます。そこに小さな氷の粒がくっついて、再び上昇気流によって上へ――。この上昇と落下を繰り返すことで氷の粒はどんどん大きくなり、ある程度の大きさになると、重力に逆らえなくなって地表に降ってくるのです。

—— 積乱雲は夏になるとよく見かける身近な雲ですが、“あられ”や“ひょう”の原因となる雲だったんですね。

【常盤さん】そうですね。積乱雲は“あられ”や“ひょう”以外にもさまざまな気象現象を引き起こします。たとえば、小さな水の粒や氷の粒が上下移動することで雲の中に静電気が発生しますが、それがある程度溜まったときに雷が落ちます。つまり、“あられ”や“ひょう”が降るときは雷が落ちる可能性が高いということです。ほかにも、積乱雲は竜巻を引き起こすこともあり、実は危険をはらんだ雲なんです。

■氷の粒は、ピンポン玉くらいの大きさになることも

—— 氷の粒の大きさは、何によって変わるのでしょうか?

【常盤さん】積乱雲の発達具合や水蒸気の量など、さまざまな要因があります。たとえば、積乱雲が非常に発達していれば上昇気流も強くなるため、氷の粒がなかなか落下せずに大きく成長します。また、水蒸気量が多いということは水や氷の粒のもとがたくさんあるということですので、それも大きく成長する要因となります。

—— 氷の粒は、どれくらいの大きさまで成長しますか?

【常盤さん】過去には、日本でピンポン玉くらいの大きさの“ひょう”が降ったこともあります。また、大きな氷の塊は、落ちてくる際に小さな氷の粒とぶつかり、それがくっついてカクカクとした歪な形になることも。こうした大きな“ひょう”は屋根や車を傷つけたり、人に当たればケガをしたりすることもあるので、注意が必要です。

■“あられ”や“ひょう”が降りやすい季節は?

—— “あられ”や“ひょう”は積乱雲によってできると伺いました。積乱雲は夏のイメージがありますが、“あられ”や“ひょう”が降りやすい時期はあるのでしょうか?

【常盤さん】積乱雲が発達していくつかの気象条件がそろえば降るので、一概にいつとは言えませんが、冬よりも5月や10月といった春や秋が比較的多いようです。この時期、地表付近の空気は暖かいのですが、上空には冬のような冷たい空気がやって来ることもあります。すると大気の状態が不安定になり、積乱雲が発達しやすくなります。もちろん、夏も積乱雲は発生するのですが、気温が高いために氷の粒になりにくいんです。その代わり、夏は急な大雨が降ることがありますよね。

—— では、“あられ”や“ひょう”がよく降る地域はあるのでしょうか?

【常盤さん】これも気象条件さえそろえば、場所は関係なく降る可能性があります。

ちなみに日本海側では、晩秋から冬にかけて“あられ”や“ひょう”が降ることがあります。これは、大陸からの寒気が上空に流れ込む日本海側では、積乱雲が発達しやすくなるから。また、“あられ”や“ひょう”が降るだけでなく、雷が落ちることもあり、北陸地方ではこの晩秋から初冬に鳴る雷のことを「ブリ起こし」と言います。北陸名産の寒ブリのシーズン到来を告げる雷というわけです。

—— 積乱雲は冬でもできるんですね。

【常盤さん】そうですね。ただ、冬の積乱雲は夏に比べるとそれほど発達しません。夏の積乱雲は、高さが10キロを超えることもありますが、冬はせいぜい5キロほどです。

—— 太平洋側でも、冬に“あられ”や“ひょう”が降ることはありますか?

【常盤さん】それはほとんどありません。日本海側に積乱雲を発生させる冬型の気圧配置では、太平洋側は晴れていることが多いのです。たまに関東地方などで雪が降ることがありますが、これは日本の南側を通る低気圧の影響によるもの。実は日本海側で雪が降る仕組みとはまったく違うのです。

—— ありがとうございました!

あられ”や“ひょう”という言葉は馴染み深いが、空から氷の粒が降ってくるというのは、よく考えると不思議な現象だ。いつ降るのか、何が原因なのか、知らなかった人も多いのではないだろうか。また、この“あられ”や“ひょう”を引き起こす積乱雲は、雷や竜巻を引き起こすこともある。珍しい気象現象であると同時に、危険だということも覚えて気をつけてほしい。

取材・文=溝上夕貴



“あられ”や“ひょう”は、どのようにして上空で作られるのだろうか