GODZILLA ゴジラ』(14)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)のギャレス・エドワーズ監督の最新作『ザ・クリエイター/創造者』が10月20日(金)に公開される。人類とAIが対立する近未来を描いた本作は、AIの拠点に潜入した元兵士がある少女と運命的な出会いを果たす物語。VFXを使ったリアルな戦闘アクションや、他者との共存や家族の絆を描いた人間ドラマを盛り込んだエンタテインメント大作に仕上がっている。そんな本作の魅力や注目ポイントを、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズなどVFXを駆使した大ヒット作で知られ、11月3日(金・祝)に最新作『ゴジラ-1.0』の公開を控える山崎貴監督に語ってもらった。

【写真を見る】大友克洋の『AKIRA』を彷彿とさせるような空間に匿われていたAIの少女、アルフィー。彼女の正体とは?

労働力として人間型のAIが社会に投入された21世紀半ば。AIは急速に浸透したが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こすという事件が発生。それを機にアメリカを中心とする西側諸国はAIに宣戦を布告。超巨大兵器「ノマド」を建造し、AIとの共生を続けるニューアジアに攻撃を繰り返していた。元特殊部隊員のジョシュア(ジョン・デヴィッドワシントン)は、人類を滅ぼす力を持つ超兵器を開発したAI設計者“クリエイター=創造者”を暗殺するためニューアジアに潜入。ところがジョシュアが発見した超兵器とは少女型のAI、アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)だった…。

■「普通に撮影してあとから自由にCGを足している。相当斬新なスタイル」

劇中に登場するAIは人間そっくりな質感だが、耳元はメカがむき出しで空洞が見える。この部分はCGで描かれているため、アルフィー渡辺謙が演じるハルンといった主要キャラクターの登場カットはすべてVFXで加工されている。VFXクリエイターでもある山崎監督は「VFXを意識する間もないくらい、ほぼ全カットになんらかの手が加えられているように感じる」と舌を巻く。その撮影方法も一般的なVFXとは異なると指摘する。「通常はどこになにを合成するかを想定してマーカーを付けたりグリーンで覆いますが、この作品は普通に撮影してあとから自由にCGを足しています。“リバースエンジニアリング”というスタイルで、相当斬新ですね」と解説。俳優たちの撮影時の手間は省けるが、VFX作業に負担がかかるこの手法を導入した理由については「ドキュメンタリーを撮るように撮影したかったんだと思います。自由に撮った映像を見て、どうするか考えるという」と推測し、『スター・ウォーズ』を生んだVFXの巨人、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)らしいチャレンジに驚かされたと興奮気味で語った。

本作のおもな舞台は“ニューアジア”と呼ばれる現在のアジア地区。山崎監督は、オリエンタルな風景と古びたメカやロボットを組み合わせた幻想的なビジュアルに驚いたという。「よくある風景のなかに、異質なものがポンと押し込められている。違和感を覚えつつリアルに感じさせるそのアプローチがとてもおもしろいですね。レトロフューチャーのデジタル・アーティスト、シモン・ストーレンハーグの画集を思い出しました」。

タイ、ベトナムカンボジアをはじめとする8か国で撮影された本作。劇中にはアジア各国の言葉や文化が登場するが、なかでもフィーチャーされているのが「日本語」で、都市の景観として渋谷の街も登場。アルフィーの初登場シーンが『AKIRA』を彷彿させることも指摘し、「ギャレスは日本が大好きなんでしょうね。『GODZILLA ゴジラ』で組んだ渡辺謙さんも出ているし、日本への信頼が大きいのでは」と推測。ほかにも『ブレードランナー』(82)や『エリジウム』(13)、『オブリビオン(13)、『チャッピー』(15)などのSF映画や『地獄の黙示録』(79)といった作品の影響を感じたという。

■「AIはあくまで分断する現代社会メタファーではないか」

主人公のジョシュアは核爆発で家族を失い、さらにニューアジアでのミッション中に結ばれた妻マヤ(ジェンマ・チャン)が空爆にさらされるのを目の当たりにし、生きる気力を失っている。アルフィーに対して、感情を持たない機械と蔑んでいたジョシュアだが、彼女が感情を表すことを知り、しだいに態度を変えていく。疑似家族のような関係を築く2人について山崎監督は「昔からあるタイプの物語と、このシチュエーションでしか描けない新しい物語をきれいに融合させたところがすごい」と称え、現代的なテーマも感じたという。「人のアイデンティティはどこにあるのか、というお話です。肉体なのか、感情なのか、それとも記憶の中にあるものなのか。テクノロジーの進化によって、これから人類が直面するかもしれないテーマですね」。

物語はAIを軸に展開していくが、「AIはあくまで分断する現代社会メタファーではないか」と山崎監督は分析する。「AIをひとつの種として描いているので、対立や分断が続くいまの世界を寓話にしたのでしょう」と推察し、それもSFならではの魅力だという。「世界各地で起きている争いをそのまま描くのではなく、AIというフィルターを使って語っています。リアルな問題を浸透しやすいフィクションのステージを使って表現する、もともとSFはそういう寓話としての役割も持っているんです」。

そんな本作のアクション見せ場が人類とAIの戦闘シーン。ノマドや戦闘ヘリ、巨大装甲車で容赦なく攻める人類と、銃や爆弾など小型の武器を使ったゲリラ戦で応戦するAIの戦いにも現代の戦争が反映されている。「片方は攻撃の手が及ばない安全な場所からゲームをするように攻撃し、もう片方は最前線で命懸けの戦いを強いられる。すごくバランスの悪い戦いは、ドローンを使ったアメリカの戦争を皮肉っているように思えました」とイギリス人であるギャレス監督らしい表現に感心したという。

主人公のジョシュアを演じているのがジョン・デヴィッドワシントンだ。オスカー俳優デンゼル・ワシントンを父に持つ彼は、2020年にクリストファー・ノーラン監督の超大作TENET テネット』の主演に抜擢されて注目を浴び、デヴィッド・O・ラッセル監督の『アムステルダム』(22)ではクリスチャン・ベール、マーゴット・ロビーと共にメインキャストを務めた実力派だ。山崎監督はジョン・デヴィッドワシントンのナチュラルな演技を絶賛する。「悩みを抱えた役ですが、時々挿入される回想シーンのナチュラルな笑顔が苦悩する姿をすごく活かしていましたね」と言い、ワシントンの佇まいが作品を盛り上げたという。「わかりやすい“スターっぽさ”がなく、品格があるので映画に真実味を与えるんです。渡辺謙さんも同様で、ノーランが彼らを好きなのはよくわかります。妻マヤを演じたジェンマ・チャンも、本当に存在するような“らしさ”がよかったです」。

本作でもう一人注目したいのが、アルフィーを演じた子役マデリン・ユナ・ヴォイルズだ。ドイツ系の血を引く父と東南アジア系の血を引く母の間に生まれた彼女は、演技初挑戦とは思えない存在感でワシントンと渡り合った。「表情で語るタイプではないと思っていたら、すごく豊かな表現を見せてくれて。終盤には『レオン』を思わせる見せ場もあって、心を持っていかれました」と称えた。

■「“ギャレゴジ”に見たかったことを結構やられてしまった」

本作は映画用に作られたオリジナル・ストーリー。脚本は『ローグ・ワン』のクリスワイツとギャレスが共同で執筆した。多くの監督作で脚本も手掛けてきた山崎監督は、オリジナル脚本の執筆を「荒野を歩く作業」と例える。「道標がないなかで書いていくのですごく大変です。原作があれば、迷った時には原作に戻ることができますが、オリジナルは常にこれでいいのだろうか?ってなる」と振り返る。

ローグ・ワン』を観た時にその語り口に唸ったという山崎監督は、「ジェームズ・キャメロンに通じるものをギャレスに感じる」という。「キャメロンもVFX出身だけどストーリーテラーとしてすごく優秀ですから。どちらも話の転がし方がすごくうまいし、多芸な人だと思います」と言い、今作についてはちょうどよい規模感をねらったと感じたそう。「自主映画のような作品からキャリアを始めて、階段を上ることなくいきなり頂上(笑)。『ゴジラ』『スター・ウォーズ』と2本の超大作のあとなので、大きすぎず小さすぎないバランスを探したんでしょう。それでもVFXはILMだし造形はWETAワークショップと一流プロダクションが参加したので、ビジュアルは完全に超大作ですよ」。

ギャレスが怪獣王ゴジラに挑んだ『GODZILLA ゴジラ』は、日本を含め世界中の怪獣ファンから高い評価を獲得した。それから約10年経った今年、山崎監督の『ゴジラ-1.0』が公開を迎える。山崎監督が“ギャレゴジ”と呼ぶギャレスが生みだしたゴジラは、“山崎ゴジラ”に少なからず影響を与えたようだ。「(ギャレスが)CGというテクノロジーを使って、ゴジラらしいゴジラハリウッドで作ったことはすごくショックでした。見たかったことを結構やられてしまった、という感じです」と当時を振り返り、そのことで『ゴジラ-1.0』では日本らしい独自性を出そうとより強く思ったという。つまり、ギャレゴジがなかったら、山崎ゴジラは少し違う形になったということだ。「ゴジラの動きひとつ取っても動物的で、感情も露わにしています。あそこまでは考えていませんでしたが、僕が目指していた方向性に近かったのでギャレスの存在は大きいですね」。

最後に『ザ・クリエイター/創造者』で最も印象に残ったことはなにかを聞くと、「新しい時代の家族の物語だということ」と山崎監督は即答した。「現代的な要素が複雑に絡み合いながら戦争の悲劇が描かれていますが、少し引いて考えると、ひたすら家族の物語だとわかります。さりげないセリフひとつひとつが伏線になっていて、回収されていくごとに効いてきてラストの感動につながっていく。すごく好きなタイプの映画です」。

取材・文/神武団四郎

撮影中のギャレス・エドワーズ監督とアルフィー役マデリン・ユナ・ヴォイルズ。一見、普通の映画の撮影風景に見えるが…/[c]2023 20th Century Studios