舞台「Grave Keepers」が11月9日(木)~11月19日(日)に東京・Mixalive TOKYO 6F Theater Mixaにて上演される。脚本・演出を劇団「東京夜光」の川名幸宏が手掛けるオリジナルダークファンタジーで、特殊な能力を用い、墓を守ることを生業とする“Grave Keepers”の兄弟を石川凌雅、松島勇之介、櫻井圭登、新谷聖司が演じる。今作に出演する石川に、原作のないオリジナル舞台である本作の見どころ、また近年ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズをはじめ人気作への出演が続く中で、自身の現在地をどうとらえているかを尋ねた。俳優としての自分は「千里の道にこれから向かうところ」と謙虚に語る彼が目指すのは、「観た人の一生に残るような表現」だという。

【撮りおろし11枚】レモンをかじろうとする、おちゃめな石川凌雅

■舞台で“楽しむ”ことを意識するようになった

──石川さんは2022年の「ミュージカル『刀剣乱舞』~江水散花雪~」以降、人気作品への出演が続いています。俳優という職業や、お芝居・演技に対する気持ちは、この仕事を始めた当初と今で変化していますか?

全然違いますね。初めてお芝居をやらせていただいたのは2019年だったと思うのですが、そのときは役作りなんて考えたこともなくて、ただセリフを読むだけでした。当時はダンス&ボーカルグループに所属していたので、自分が役者をやるなんて思ってもいなくて正直、記憶も曖昧で。自分の中ではミュージカル『刀剣乱舞』が、役者人生の初めだという感覚です。ただそのときも、想像していたものより何倍もしんどくて、役者を続けていくのは無理だろうなと思っていました。1年も続かないだろうなと。でもその後、いろいろな作品やキャストの皆さんとの出会いに恵まれて、今はすごく純粋に表現を楽しんでいます。

──演じることや俳優という仕事の、どういうところに楽しさを感じていますか?

出会いですね。作品ごとに、出会って別れて……を繰り返すじゃないですか。その中で自分の中で新しい価値観が生まれたり、新しい自分に気付けたりして、すごく学びになります。それって他ではなかなか経験できないことだと思うし、こういう経験をできるのが素敵で、幸せで、楽しいなと思っています。

──これまでの出演作や演じた役の中で、特にご自身に大きな影響を与えたものを挙げるなら?

本当にどれも素晴らしい作品で、たくさん刺激を受けたので甲乙つけがたいですが……今年1月から2月に公演があった「ロミオジュリエット」の期間中に「すごく楽しいな」と思う瞬間があって。そこからさらにお芝居が楽しくなっていったので、1つ挙げるなら「ロミオジュリエット」かな。

──「すごく楽しいと思った瞬間があった」とのことですが、何があったのでしょうか?

共演者の中に京典和玖という仲の良い役者がいて、日常的にふざけていたんです。で、その日常のおふざけがお芝居の中でも不意に出た瞬間があって、思わず舞台上で素笑いしちゃったんです。たぶん良くないことなんですけど。でもその素笑いがそのシーンにすごく合っていて、そこから考えなくてもセリフがつらつら出てきて。無敵になれた感覚でした。それが僕の中ですごく大きくて。そこからまずは“楽しむ”ことを意識するようになりました。だから「ロミオジュリエット」という作品にも和玖にも、すごく感謝しています。

■俳優としての現在地は「まだ玄関」

──では俳優としてのご自身の現在地としては、どう捉えていますか?

千里の道を踏み出して……いや、まだ玄関かもしれない。

──千里の道にこれから向かう?

はい。準備が整ったところ。今年の頭に「ロミオジュリエット」を経てやっと準備が整った段階ですかね。

──現時点で、すでに人気作品にたくさん出られていますし、舞台「炎炎ノ消防隊」などでは主演も務めていらっしゃるのに?

皆さんが期待してくださっているのはすごくありがたいのですが、自分の中では「人気作に出ている」とかって思ったことが本当になくて。いただいたお仕事一つ一つに向き合うという意味では、「人気だから」とかそういうことは全く関係ない。“役者として”と考えたときに、自分はまだまだ入り口に立ったばかりだなと思っています。

■共演者と兄弟役を演じることにワクワク

──そんな道中にある、11月上演の「Grave Keepers」についても聞かせてください。現在はプロットを読んだ段階だそうですが(※取材は9月上旬に実施)、印象はいかがですか?

これまで携わったことのない作風だったり、役柄だったりもそうですが、何よりも登場人物がみんな兄弟であるところが面白いなと思っています。ぜひ劇場に来て一緒にこの物語を体感してほしいです。

──キャストの皆さんと兄弟役を演じることについてはどのような心境ですか?

僕、一人っ子なんですよ。兄弟がどういうものなのかを知らないので、皆さんと兄弟になれることにワクワクしますし、本当の兄弟と言えるくらい関係性を深めていかないと……ちょっと、いつもとは違う役作りのアプローチも必要になってくるのかなと不安もありつつ。でも楽しみです。

──石川さんが演じるアラン・グレイブ役は三男。上にお兄ちゃんもいれば、下に弟もいて。

そうなんですよ。お兄ちゃんだけ、弟だけだったら、まだ役作りも想像しやすいんですけど、上も下もいるとなると、相手によって接し分けなきゃいけないのかな?とか、勝手に悩んだりしています。

──一人っ子の石川さんにとっては、“兄弟と接する”ことが未知ですもんね。

未知です。あとは、自分がどちらかというと末っ子タイプで、友達も年上の方ばかりなので、そういう意味でも年下とどう接するんだろう、弟って何だろう?というところからスタートしています。

■松島勇之介、櫻井圭登、新谷聖司の印象は?

──そんな石川さんと兄弟役を演じるのは松島勇之介さん、櫻井圭登さん、新谷聖司さん。お三方の印象も教えてください。まずは長男・ジョージ・グレイブ役の松島さんから。松島さんとはミュージカル『刀剣乱舞』で共演されていますね。

はい、勇之介とは去年ずっと一緒でした。年齢は勇之介のほうが年下なんですが、お兄ちゃんのように頼もしくて。取材をしていただくたびに「年下お兄ちゃん」と言っていました。

──そんな松島さんが実際にお兄ちゃん役になると。

そうなんです! だからやりやすいと思います。勇之介は本当にステージ上で頼りになるんですよ。機転も利くし、ガッツもあって。均衡していたものをぶち壊して前に進む突破力のようなものがある役者だなと思っています。あとは稽古場で行き詰まったときにアイデアを出してくれたり、場を和ませてくれたり。すごく素敵な役者さんです。

──続いて一人目の弟、オリバー・グレイブ役の櫻井圭登さん。櫻井さんとは初共演?

初めてです。ずっとお会いしたかったのですが、なかなかきっかけがなくて、初めてお会いしたのがこの作品の発表のとき。「実はずっと会いたかったです」と言ってくれて、すごくうれしかったです。どちらかというと圭登くんはかわいらしい弟みたいなイメージがあります。でもステージ上では、すごく説得力のあるお芝居をされている印象があるので、お芝居では引っ張ってくれるのかなと勝手に想像しています。

──では、かわいがりつつ、お芝居の面ではちょっと引っ張ってもらいつつ?

圭登くんをかわいがるなんて、めちゃめちゃおこがましいんですけど……そういう感じになるのかなと思います。

──五男のトミー・グレイブ役は新谷聖司さん。

まだちゃんとお話はしていないのですが、ビジュアル撮影のときにお会いしました。そのときに告知動画も撮影したんですが、カンペを用意してもらっているのに、彼は自分の言葉で丁寧に話していらっしゃって。僕はとっても緊張しいなので、カンペを読んでも失敗して5〜6テイク撮り直したんですが、彼は一発で進めていたので、頼もしさを感じました。接点はまだそれくらいですが、そういうところに人柄とかって出るじゃないですか。だから自分の不甲斐なさに反省しつつ、彼に対してのリスペクトを感じています。

■観た人の一生に残るような表現をしたい

──石川さんが演じるアラン・グレイブは、いただいた資料によると「やんちゃで正義感あふれる熱血感。ムードメーカー」とのことですが、現時点で、どのように演じたいかのイメージはありますか?

観る人の期待をいい意味で裏切りたいですね。物語の展開もきっとそういうものになるでしょうし、今まで演じたことのないような作風なので、見せたことのない表現にも挑戦していきたい。歌ったり踊ったりもあるので、この作品でしか見られない身体表現もあわせてお届けできたらと思っています。

──ありがとうございます。ちなみに、冒頭でご自身の現在地を「千里の道へと踏み出す玄関」と表現されていましたが、これから踏み出すその千里の道にゴールはありますか?

先輩方もおっしゃっているので、ゴールはないと思うんですが、ここを通過したいなと思うポイントはいっぱいあります。

──例えば?

観た人の一生に残るような表現をしたい。自分が昔聴いていた音楽とか、観た映画やアニメで「いつまでも覚えてるな」「いつまでも好きだな」っていうものがいくつもあるので、僕が出演した作品も誰かにとってのそういうものになれたらいいなと思っています。ただどういう表現が誰にどう刺さるかはまったくわからない。だからこそ気が抜けないというか。一つ一つ真摯に向き合っていくしかない。「こういうものを残したい」と目指すんじゃなくて、そうやって自分が表現したものが、誰かの心に残るものになったらいいなと思って、やっていくしかないなと思っています。

■取材・文/小林千絵

撮影/梁瀬玉実

スタイリスト/MASAYA (PLY)

ヘアメイク/三輪千夏

石川凌雅/撮影=梁瀬玉実