※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。「アジアリサーチセンター」のレポートを基に、中国を中心に9月のアジア・マーケットを振り返ります。

【ポイント1】中国の大型連休の国内旅行数はコロナ前を上回る

■中国文化観光省は10月6日、「国慶節(建国記念日)」と「中秋節」に伴う8連休(9月29日10月6日)の国内旅行者数が延べ8億2千6百万人に達したと発表しました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響でゼロコロナ政策が行われていた昨年との比較では、前年比で71.3%増と大幅な伸びとなりました。また、2019年同時期に比べても4.1%増となり、国内旅行者数はコロナ前の水準を上回りました。

■国内旅行者数が急増したのは、長期間にわたって移動を制限していたゼロコロナ政策が終わり、リベンジ旅行の需要が顕在化しているためとみられます。

【ポイント2】観光収入は急回復も1人当たりはコロナ前に届かず

■同省によれば、大型連休中の観光収入は、7,534億3千万元(約15兆6千億円)でした。前年比では2.3倍と、収入も大きく伸びました。また、2019年対比では1.5%増となり、コロナ以前の水準を回復しました。

■ただし、コロナ前の2019年との比較では、観光収入の伸びは旅行者数の伸びを下回っていることから、1人当たりの観光収入はコロナ前を回復していないことになります。

■中国では旅行需要は強いものの、不動産市場の低迷や若者の高い失業率などが、いく分旅行消費に影響している可能性があります。

【今後の展開】海外旅行も国際線増便やコト消費ブームで一段と回復へ

大型連休の海外旅行者数も前年から大きく増加しました。国家移民管理局によると、連休期間の出入国者数は1,181万8千人で、このうち出国者数は594万8千人、入国者数は587万人でした。1日当たりの出入国者数は147万7千人と、前年から2.9倍に増えました。

■連休期間の出入国者数を2019年比でみると、85.1%まで回復しました。中国政府は今年に入り、1月に個人旅行を解禁、その後2月、3月と段階的に団体旅行を解禁し、8月には日米欧を含む世界78ヵ国・地域への団体旅行を新たに解禁しました。これに伴い国際線の運航便数も回復していますが、2019年比では6割程度にとどまっており、海外旅行者数の制約となっています。

■今後は団体旅行解禁に伴う国際線の運航便数の増加や査証(ビザ)免除措置の拡大により、中国の海外旅行者数は回復傾向を強めるとみています。不動産市場の低迷や若年層を中心とした雇用の悪化で節約志向がみられる中国経済においても、モノよりも体験を楽しむ「コト消費」としての海外旅行への需要は、相対的に強いとみています。

(2023年10月13日

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『世界の旅行関連企業に追い風 ~中国、自国経済「低迷中」でも海外旅行ニーズは拡大【三井住友DSアセットマネジメントが解説】』を参照)。

(※写真はイメージです/PIXTA)