『BLUE PROTOCOL』(以下、『ブループロトコル』)のサービス開始から4か月が経った。

【画像】『BLUE PROTOCOL』の美麗なグラフィック

 近年でも稀に見る話題作として、大きな期待のなかでリリースを迎えた同タイトル。少なくとも現状は、当初の期待に応えているとは言えない結果となっている。

 なぜ『ブループロトコル』は、スタートダッシュに失敗してしまったのか。リリースと数か月の運営から、同タイトルが期待に添えられた点、添えられなかった点を考察する。

■屈指の話題作として期待のなかリリースされたオンラインアクションRPG『ブループロトコル

 『ブループロトコル』は、バンダイナムコスタジオが開発を、バンダイナムコオンラインが発売を手掛けるPC向けアクションRPGだ。プレイヤーは、神秘の光「エングラム」に彩られた惑星・レグナスを舞台に、自身の分身となるオリジナルキャラクターを作成・操作し、星の運命を巡る冒険の旅に出る。

 公式のうたうジャンルは「オンラインアクションRPG」となっているが、実際の体験は、複数のプレイヤーがひとつのフィールドを共有する「MORPG」と呼べるもの。キャラクターには同分野のほかの作品と同様に、戦闘スタイル・役割の異なるクラスが割り当てられる。それぞれの特徴を踏まえつつ、プレイヤー同士でパーティーを編成し、攻略を進めていくことが、『ブループロトコル』の面白さのひとつとなっている。

 『ブループロトコル』は、2019年6月にその存在が明らかとなった。バンダイナムコエンターテインメントの中核を担う2社(バンダイナムコスタジオバンダイナムコオンライン)が贈る完全新作のオンラインゲームという背景もあり、発表当初から大きく話題を集めた経緯がある。その直後には、クローズドαテスト/クローズドβテストを実施。遠くない将来のリリースに向け、順調に歩みを進めているように見えたが、2021年以降、目ぼしい告知がなくなり、フリークからは先行きを不安視する声も出始めた。

 ようやく事態が動き出したのは、2022年11月。運営は公式Twitter(現X)を通じ、開発が継続していること、(投稿時点から見て)翌週には次なる展開をアナウンスできる予定であることなどを伝えた。その後はネットワークテストの実施などを経て、2023年6月のリリースへとようやく辿り着く。発表からサービス開始まで紆余曲折があったものの、フリークたちの熱は冷めていなかったのか、リリース直後には、6日間で累計プレイヤー数が60万人超え、最大同時接続プレイヤー数が20万人超えと、集めてきた注目に恥じない明るいニュースも界隈を賑わした。

 『ブループロトコル』は基本プレイ無料・アイテム課金型で、PCのみに対応している。今冬(2023年12月~2024年2月)には、CS版(PlayStation 5Xbox Series X|S)もリリース予定だ。

■低空飛行の理由は、かかる期待と実際の出来の不均衡に

 屈指の話題作として、多くのフリークに期待されてきた『ブループロトコル』だが、リリース後は、それ以前の盛り上がりに比例しているとは決して言えないような“低空飛行”が続いている。当初の話題性を考えれば、少なくともいまごろはセールスランキングの常連となっていてもおかしくはなかったはず。同タイトルはなぜ、スタートでつまずいてしまったのだろうか。そこには「ユーザーが抱いていた期待と実際の出来の不均衡」があったように思う。

 そもそも『ブループロトコル』は、それぞれ2019年7月、2020年4月に実施されたクローズドαテスト/クローズドβテストの時点から、大きすぎる期待に応えられていたタイトルではなかった。興味の入口となっていたアニメ調の3DCGによるグラフィックこそ、想像どおり、またはそれ以上の美しさを誇っていたが、ゲームの根幹であるはずの戦闘やコミュニケーションにおけるシステム面が魅力に欠けると、参加者から指摘された過去がある。沈黙や不具合による延期といった紆余曲折を経て、2023年3月に実施されたネットワークテストでは、上記で露呈された“問題点”の解消が期待されていた。しかし、ここでも根本的な改善と呼べるような成果はなく、約3か月後のサービス開始を迎えることになる。プレイヤーからしてみれば、“空白の約3年”はクオリティアップのために費やされているはずの時間だったからこそ、失望も大きかったはずだ。

 クローズドαテスト、クローズドβテスト、ネットワークテストと、計3回行われた“お披露目”はすべて、事前の応募に当選した人のみを対象にしていた。つまり、(『ブループロトコル』に期待しながらも)抽選に参加するほどの熱量がなかったり、実施日のスケジュールが合わなかったりしたユーザーは、評判こそ耳にしているものの、まだ自分の目では状況を確かめられずにいた。先に述べたリリース直後の6日間における累計プレイヤー数、同時接続プレイヤー数の多さは、「過去のテストに参加し、体験に満足していた層」「(テストから得たインプレッションに失望しつつも)まだ同タイトルへの期待を捨てされず、サービスインを待っていた層」「どちらにも参加していない層」などによって構成された数字だろう。3度のテストによって、ある程度プレイヤーが淘汰されてしまったことを考えると、『ブループロトコル』がいかに期待されてきたタイトルであったかが分かる。

■復権には、MORPGの根源的な楽しさへの追求が必須か

 『ブループロトコル』に存在する(もしくは、存在した)、かかる期待と実際の出来の齟齬。その問題の根幹は、『ブループロトコル』がMORPGに分類されるタイトルであり、かつそこに魅力を抱えながらも、その恩恵を生かしきれなかったシステムの不備にこそあるのではないか。

 『ブループロトコル』には、アドベンチャーボード、武器、各種イマジン(防具、アクセサリーのようなもの)といったRPGらしい育成・強化要素が存在する。これらを達成・作成するためには、おつかい的な作業を繰り返しこなす必要があるが、そこから得られる報酬が手間に見合っているかと言われると、決してバランスがいいとは言い難い。より早く効率的に進めたい人ほど、夢中になって取り組むものの、そのことが結果的に彼らのゲーム体験を単調なものとしている実態がある。1体のモンスターの討伐にかかる時間の長さ、1か所のポイントから収集できるアイテムの少なさなども、この問題をより根深くしている。

 こうした仕様を持つ背景にあるのはおそらく、「コンテンツ寿命を延ばす」という意図だ。『プループロトコル』は、基本プレイ無料・アイテム課金型というマネタイズモデルである特性上、より多くの人に、より長くプレイしてもらわなければならない。そのためにあえてプレイヤーにとって非効率な仕組みをシステムに取り入れ、コア層が早々に目的を達成しないように調整しているのだろう。

 とはいえ、このことはなにも、『ブループロトコル』だけに特別にあてはまる事柄ではない。成功しているMORPGも似たやり方で“延命”に取り組んできた。たとえば、初期の『FINAL FANTASY XIV』(以下、『FF14』)では、登場するキャラクター・ミンフィリアの「砂の家に来て」というお決まりの発言(そのたびにプレイヤーは長い時間と手間をかけて「砂の家」まで移動する必要がある)がユーザーの不満の対象となり、ネットミームのようになった過去もある。

 そのうえで、双方に違いがあるとすれば、それは「コストと報酬のバランスが取れているか」にほかならない。(フレンドとのマルチプレイといった外的要因を除いたゲーム設計の面において)プレイ中に楽しさを感じることよりも、ストレスを感じることのほうが多くなっているために、ユーザーの不評を買ってしまっているのではないだろうか。

 また、MORPGとしての設計を持つわりに、パーティーで行動する意味を見出しにくい点も問題だろう。たとえば、レベル上げひとつをとっても、メンバーの連帯感が強いダンジョンを周回するより、アドベンチャーボードを埋めたり、フィールドでモンスターを狩ったりするほうが効率がよくなってしまっている。もちろんフィールドにおいても、メンバーが倒したモンスターの経験値を関与していなくても自動的に入手できるなど、パーティーを組むメリットは与えられているが、アドベンチャーボードの進行度が違うためにおなじモンスターを標的にすることが少なく、さらにメンバー間にレベル差があることで効率性にも差が生まれる。結果的に、効率的な攻略を目指すとなると、パーティーよりもソロで行動する時間が長くなってしまっているのだ。

 このことは、MORPGにとって致命的であるとも言える。前述のストレスなどから「ひとりで進めるのは気が重い」と感じているユーザーも、特別な事情がないかぎりは仕様上、ソロプレイを余儀なくされてしまうためだ。本来であれば、人との連帯、そこで生まれるコミュニケーションが醍醐味とされる同分野に分類されるタイトルでありながら、あまりにも逆行する仕様をはらんでいるのが、『ブループロトコル』なのだ。

 そもそも『ブループロトコル』に盛り込まれたオンラインゲームとしての要素は、おなじくアニメ調のビジュアルを売りとする競合タイトル『原神』『崩壊:スターレイル』と差別化できるポイントだった。しかし、設計上はMORPGと呼べるタイトルでありながら、その性質が希薄すぎるがゆえ、ライバルの後塵を拝する形となってしまっている。皮肉なのは、実際にプレイすると『原神』『崩壊:スターレイル』と比較しても優位性があるほど、グラフィックに対する作り込みがしっかりしていることだろう。つまり、上記の問題点を除けば、『ブループロトコル』には無二の魅力があることになる。

 一部には国産MORPGの限界説も囁かれているが、同市場には、世界的に大きな成功を収めている『FF14』というモンスタータイトルがある。おそらく『ブループロトコル』制作陣も同作を参考にし、開発・運営へと臨んでいるはずだ。『FF14』もまた、パッチ1.0では“笑えないほどの大コケ”をしたが、背水の陣で制作にあたったであろうパッチ2.0「新生エオルゼア」で汚名を返上し、現在の地位を獲得するに至った。『ブループロトコル』には、そうした逆転劇もぜひ参考にしてほしいところだ。

 情熱と今後のアップデート次第では、まだ飛躍の可能性がある『ブループロトコル』。さまざまな問題点に対し、適切なテコ入れを実施し、寄せられた期待にふさわしい作品へと生まれ変わってほしい。これまでにプレイした経験を持つ多くのフリークが、同タイトルの復権を望んでいるに違いない。

(文=結木千尋)

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