7月29日8月2日にかけて続いた「北京豪雨」や、9月7日~8日に起こった香港・深センでの冠水など、今年の夏の中国は「水」に翻弄されたといえます。なかでも、8月24日福島第一原発の処理水が海洋放出されたあと、中国による激しい日本バッシングは国内メディアでも大きく取り上げられました。東洋証券上海駐在員事務所の奥山要一郎所長が、当時の在留邦人の行動やその後の中国の反応についてみていきます。

「水」に翻弄された2023年夏の中国

2023年の夏もさまざまなことが起きた中国。今夏を漢字1文字で表すと、ズバリ「水」だ。水と戦い、水に怒り、水に逃げられ……なんとも忙しい日々だった。

7月末~8月に中国北部を襲った「北京豪雨」

7月下旬、スマホ動画で北京市郊外の豪雨・洪水の光景を見て思わず息をのんだ。濁流が街を飲み込み、車や家財が流れていく。房山区では、駐車中のEVバスが何十台も浸水でドボン。紫禁城(故宮)も過去600年で初めて冠水した。

お隣の河北省涿州市も広範囲にわたって浸水した。三国志の「桃園結義(桃園の誓い)」の舞台として知られるこの街では、一部の水位が4メートルに達したという。

河川増水による洪水を防ぐため、堤防の一部が壊されて水が流入したらしい。遊水地として「首都防衛」の役割を果たしたわけだ。近くには国家プロジェクトで開発中の「雄安新区」もある。

9月頭、深セン・香港で大規模な冠水

9月7日から8日にかけては深センや香港で大規模な冠水が報告された。香港では1時間158ミリという1884年以来最大の豪雨となり、ショッピングモール地下鉄駅には汚泥が流れ込んだ。

深センも各地で浸水・冠水が相次いだ。私の知り合いは車を運転中に雨で身動きが取れなくなり、命の危険を感じて急いで脱出。数分後、彼の愛車のテスラは、無情にも屋根まで水没してしまったという。

福島原発の処理水放出で起こった「日本バッシング」は意外にも“数日で立ち消え”

水といえば、福島第一原発ALPS処理水放出も大きな話題になった。8月24日の放出後の数日間は激しい日本バッシング。事実に基づかないデマやフェイクの類のショート動画が多数出回り、あたかも事実のように拡散された。

なんともやるせない気持ちになったが、在留邦人はこういう時は息をひそめてじっと耐えるほかない。

数日後、ネットの話題はいつの間にかバスケW杯での日本チームの活躍ぶり(&中国チームの不甲斐なさ)に移っていた。9月上旬に話を聞いた上海人曰く、「心配する人はいるけど、会社ではもう話題にも上らない」。

8月の中国株は897億元売り越し…「投資マネー」の流出に注視

さて、投資マネーも水と表現される。この夏は、中国・香港間のストックコネクトで「南水」、すなわち海外投資資金の動きが注目された。

7月は470億元を買い越したが、8月は一転、過去最大規模の897億元の売り越し。中国の景気減速、米中対立の不透明感、不動産デフォルト懸念、人民元安の進行などが残念ながら嫌気されている。

中国外交部の華春瑩・次官補兼報道官は、8月30日にX(旧ツイッター)上で「覆水難収(覆水盆に返らず)」と投稿。処理水放出に対する警告を発したとみられる。

しかし、大変おこがましいが、前述の投資マネーという水の流出も同じくらい気にしたほうがいいのではなかろうか。

中国はデジタル経済や新エネなどの新興産業、そして大きな消費市場という潜在力を兼ね備えた魅力ある投資先。それを地道にアピールしながら、マネーの再流入を期待したい。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)