本州最後の戦車部隊のひとつである第10戦車大隊にはシャチホコの部隊マークが描かれています。ただ、上級司令部のある駐屯地にはさらに多種多様なシャチホコが。しかも部隊として正式な向きも決まっているそうです。

戦車だけじゃなかった! 司令部所在地はシャチホコの聖地

滋賀県の今津駐屯地に所属する第10戦車大隊は、2024年3月に長年運用してきた74式戦車の運用を終えます。これまで数多くの部隊が74式戦車を運用してきましたが、同大隊の戦車だと一目でわかるように設けられた特徴、それが戦車の砲塔側面に描かれた黄色のシャチホコです。

「OD(オリーブドラブ)」と呼ばれる濃い緑色の塗装が一般的な陸上自衛隊の各種装備において、それとは真逆ともいえる派手な部隊マークは、戦車の区別がつかない一般人でも、おのずと目に入ってくる、わかりやすい「識別点」だと言えるでしょう。

実はこの派手なマークは、第10戦車大隊固有のものではなく、その上位部隊である第10師団の部隊章、すなわちシンボルマークなのです。

陸上自衛隊は全国を5つのブロックに分けており、その中で東海・北陸・近畿・中国・四国地区を受け持っているのが中部方面隊です。この中部方面隊の中において東側となる東海・北陸エリアを担当しているのが第10師団で、駐屯地は愛知県石川県三重県滋賀県にまたがって点在。まさに日本の真ん中を守っている重要な師団になります。

そんな性格の部隊が、なぜシャチホコシンボルマークにしているのか。それは、中枢である師団司令部が所在する場所に大きく関係しています。師団司令部は愛知県名古屋市の守山駐屯地にありますが、名古屋市の代表的存在である名古屋城は金のシャチホコで有名です。ここから、師団のシンボルマークになっています。

バラエティありすぎ! 守山駐屯地のシャチホコたち

シャチホコは「体は魚、頭は虎という架空の海獣」であり、火災などが起きた場合にはその口から水を出して消火してくれるという伝承から建物の守り神として扱われるようになりました。中でも金色をした「金鯱」は守り神として最上級の存在とされています。

その守り神をシンボルマークに選んだのは、地元の名古屋城の金のシャチホコが有名だったこともあるでしょうが、第10師団が自分たちの部隊だけでなく、この地域の守り神になりたいという意味も込められていたのかもしれません。

なお、金のシャチホコは漢字で書くと「金鯱」。読み方としては「きんしゃち」や「きんこ」となります。ゆえに、第10師団は「金鯱(きんこ)師団」という通称まで付けられています。

このように金鯱マークは、部隊の正式シンボルとなっているため、守山駐屯地のいたるところでシャチホコの姿を見ることができます。

まず、駐屯地の正門の上には立派な石造りのシャチホコ像が対で鎮座しており、ここを訪れるすべての人々を出迎えています。師団の中枢ともいえる司令部庁舎でも、正面入り口の上には城の天守閣の屋根部分を再現したオブジェがあり、そこには名古屋城と同じように金色のシャチホコが置かれています。また、内部のエレベーターフロアの床には、シンボルマークが入った巨大なフロアマットも敷かれていました。

右向き&左向き 師団の正式な向きはドッチ?

立体物として駐屯地の中で最も立派に作られているのは、敷地奥にある厚生センターの入口にあるシャチホコでしょう。センターの正面入口は2階部分まで吹き抜け構造になっていますが、その上部には対のシャチホコが置かれています。ここのシャチホコ像は、目や歯の部分が白く塗られており、ディテール的には駐屯地内で一番リアルな物に仕上がっています。また、その下の床部分にもタイルで対のシャチホコが描かれています。

像以外にも、部隊章としてのシャチホコは駐屯地内のいたるところにあります。隊員食堂、野整備場、史料館、第35普通科連隊本部では建物の入口などに掲示されています。

ちなみにシャチホコといえば2つがお互いを見つめあうペアの形が一般的ですが、部隊章のシャチホコは右側を向いたものだけが使われています。なぜ、この構図かというと、この向きであれば左側の真っすぐになった腹部分が数字の「1」、丸めた背中の部分が数字の「0」をそれぞれ表す形になり、シャチホコの体形で師団のナンバーである数字の「10」を模った形を描けるからです。

今週末の10月15日(日)には守山駐屯地において「第10師団創立61周年記念行事・守山駐屯地創設64周年記念行事」が開催されます。自由に出入りすることのできない駐屯地の中に一般人が気軽に訪れることができるチャンス。もし機会があれば、守山駐屯地を実際に訪れて、中にいくつシャチホコがあるか、数え見比べて回ってみると面白いかもしれません。

第10戦車大隊の74式戦車に描かれたシャチホコのマーク。本家と違って金色ではなく黄色でかたどられている(布留川 司撮影)。