2023年1~3月にかけてフジテレビ「+Ultra」枠で放送されたテレビアニメ「大雪海のカイナ」。文明が衰退し、地上が“雪海”に沈んだ世界を舞台に、人類の希望のために奔走する少年少女たちの姿が描かれる。原作は『BLAME!(17)、「シドニアの騎士」の弐瓶勉、これらの弐瓶作品の映像化にも携わった今年設立40周年のポリゴン・ピクチュアズがアニメーションを担当、「LISTENERS リスナーズ」「亜人」の安藤裕章が監督を務める。そして現在、テレビシリーズ最終話のその後が描かれる劇場版『大雪海のカイナしのけんじゃ』が公開中。改めて、本作の世界観やストーリー、おもな登場キャラクターを振り返りたい。

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■雪海に沈んだ世界を舞台に水源を求めて争う国と国、平和を願う少年少女の冒険が展開

地表全体を雪海が覆い、世界各地にそびえ立つ「軌道樹」と呼ばれる巨大な樹木に人々は国を作り、そこから得られる水源を頼りに生きていた。軌道樹のてっぺんには「天膜」が惑星全体に張り巡らされ、そこではカイナ(声:細谷佳正)という名の少年が暮している。ある日、雪海にある小国アトランドの王女リリハ(声:高橋李依)が天膜まで登って来る。アトランドは武装国家バルギアの侵略に直面しており、リリハは天膜に住むという「賢者」に助けを求めて来たのだ。賢者には会えなかったものの、カイナがリリハと共に雪海へ降りることに。かくして、アトランドをバルギアから守るための戦い、滅びゆく人類を救うためのカイナたちの冒険が始まる。

■かつての高度な文明を感じさせる過去の遺物たち

本作の特徴としてまず挙げられるのが、一面が真っ白な雪海の世界。この雪海は海水のように浮くことはできず、落ちてしまえば最後、そのまま底へと沈んでしまう。そこで人々は雪海でも浮く「浮遊袋」や「浮遊棒」、雪海馬という雪海に適応した生き物を乗り物として大事に飼育している。このような環境下で生きていける生物は少ないようで、昆虫がおもな栄養源になっており、この昆虫を絞ることで水分も確保している。

文明や科学技術は衰退しているが、それぞれの国で技術は発達しており、アトランドには剣や簡易的な銃のほか、サウナ部屋も設備。一方、バルギアは軍事的に発展した国のようで投石機を搭載した船を何艘も所有し、兵士は頑丈な鎧を身に着けている。定位置に国を構えるのではなく、巨大な移動要塞で周辺の国々に恐怖をもたらしてきた。

一方で、過去の文明の遺物と思われるものも数多く見られる。天膜で暮らす看板じい(声:千葉繁)は様々な看板を集めていて、文字という概念が失われた世界においてそこに書かれている意味を読み取り、カイナにも読み方を教えていた。また、バルギアを率いる提督(声:檜山修之)は「建設者」という巨大なロボット兵器を切り札にしており、抵抗するアトランドに対しても壊滅的なダメージを負わせている。世界はどうして雪海に埋もれてしまったのか?埋もれる前はどのような文明が発達していたのか?そういったことを想像させるところもおもしろさにつながっている。

■それぞれの信念を持って闘うキャラクターたち

●カイナ

ここからは劇中で躍動するおもなキャラクターたちを紹介したい。まずは主人公のカイナから。天膜で年寄りと暮していた少年で、唯一の若者として食糧になる昆虫を狩って生活を支える心優しい性格。リリハと出会ったことで雪海に降り、初めて見る下界の世界に驚いていた。マイペースでおっとりした雰囲気で、どこか頼りなさげな印象だが、リリハがバルギアに捕まってしまった際は迷わず助けに向かうなど、勇気と行動力にもあふれている。彼が身に着けている衣服や装備は雪海の住人には珍しいものみたいで、ロープにつながった小型のアンカーを撃ち出す銃や「樹皮削り」というレーザーを発射する小型の装置を携帯している。この樹皮削りは過去の遺物のようで、鉄をも切断してしまうレーザー光線を発射することができる。

●リリハ

カイナと共に物語を牽引するリリハは、アトランドの王女で国王ハレソラ(声:堀内賢雄)の愛娘。物語の冒頭、バルギアの危機から母国を救うため、自ら兵を率いて賢者を探そうとする勇敢で責任感が強い人物。一方で、天膜に生息するオオキドウジュムシに襲われたり、バルギアの捕虜になってしまったりするなど自らピンチを呼び込むことも。とはいえ、後者は追い詰められたカイナを庇うためであり、バルギアの総督に剣を向けられた際も物怖じすることなく、力に屈しない芯の強さを見せていた。バルギア内部の状況を知ったあとは、より多くの水源があれば争いがなくなると信じ、カイナたちと共に「大軌道樹」を目指そうとする。

●ヤオナ

リリハの弟であるヤオナ(声:村瀬歩)。捕まったリリハを助けるため、カイナと共にバルギアの船団に潜入する。ヤオナが城から姿を消すことはしょっちゅうみたいで、家臣から報告を受けた国王も特に気にしてはいなかった。アトランドがバルギアからの攻撃を受けた際、負傷した兵士を気遣って安全なところまで連れて行くなど、姉と同じく民への思いやりが深い。

●オリノガ

アトランドの親衛隊長を務めるオリノガ(声:小西克幸)。国への忠誠心が強く、国王からの信頼も厚い優秀な兵士。バルギアとの戦闘にあたっては、別働隊を率いて移動要塞への潜入を試みた。バルギア最強の戦士、アメロテ(声:坂本真綾)とは何度も剣を交え、劇場版では互いに尊敬し合う関係になっている。

●アメロテ

アメロテはバルギアの兵士たちを率いる士官。攻撃的な言動の多い部下たちが、彼女の指示に素直に従っていることからも指揮官としての能力はかなり高いと思われる。その出自はかつてバルギアに攻め滅ぼされた国の人間で、提督の持つ破壊力を目の当たりにして臣下となったつらい過去を抱えている。遺物である黒い鎧を身に纏い、素早い剣技と軽い身のこなしでオリノガを圧倒した。

●提督

ハンダーギルはバルギアの最高指導者で周囲からは「提督」と呼ばれている。残忍な性格で水源を奪うために他国を滅ぼし、そこに暮らす人々も取り込みながらバルギアを強大にしてきた。外見は堅牢な要塞のバルギアだが、その内部では住人たちは食糧や飲み水にも困っている状況で、リリハたちから張りぼてと言われている。特殊なヘルメットを装着することで建設者を操作し、自軍の兵士が乗った船をアトランドへ投げつけるなど、どんな犠牲も顧みない。

■大軌道樹を目指す新たな冒険に、独裁国家プラナトを支配するビョウザンの野望とは?

アトランドとバルギアの戦いは、カイナやリリハ、オリノガたちの活躍で終結。アメロテらバルギア兵はアトランドに投降し、リリハたちもそれを快く受け入れる。そして、バルギアの造船技術で大きな船を作り、世界の果てにある大軌道樹を目指そうとする。

劇場版では大軌道樹へ向かうカイナたちの新たな冒険が描かれる。その旅路には、巨大な雪海の壁「大海溝」が立ちふさがり、目的地には独裁国家プラナトが。プラナトの指導者ビョウザン(声:花江夏樹)は複数の建設者を自在に操り、大軌道樹を破壊しようとしていた。人類の未来を守るため、カイナたちはビョウザンの野望をくい止めることができるのか!?映像もアクションもスケールアップした『大雪海のカイナしのけんじゃ』はぜひ劇場のスクリーンで!

文/平尾嘉浩

雪海によって地上が沈んだ世界が舞台の「大雪海のカイナ」を振り返り!/[c]弐瓶勉/東亜重工開拓局