大学卒業後、名の知れた大企業に就職し、部長の座に登り詰めた“勝ち組サラリーマン”。ピーク時の年収は1,300万円に迫り、「老後の不安」とは無縁にみえます。しかしいくら現役時代の収入が高いからといっても、老後の生活を楽観視しすぎていると、いざ老後生活に突入したときに「マズい」と慌てることになってしまうかもしれません。勝ち組サラリーマンの老後について、みていきましょう。

「ねんきん定期便」をみたことがない“勝ち組サラリーマン”

多くの人が、老後に漠然とした不安を抱いています。そのなかでも、とくに気がかりなのは「お金のこと」ではないでしょうか。過半数の年金生活者が、収入は年金のみというのが現状ですから、早めの対策が必要かもしれません。

将来受け取れる年金額をイメージする上で役立つのが「ねんきん定期便」。毎年の誕生月に手元に届くもので、50歳未満の場合はそれまでの加入実績に基づいた年金額が、50歳以上の場合は60歳まで現行の保険制度に加入すれば手にできるであろう年金額が記されています。

ここに記された額を目安にすれば、それなりの精度で年金生活突入後のシミュレーションができるはずです。ただこの「ねんきん定期便」、たとえば、大企業で部長の座に登り詰めた「勝ち組サラリーマン」のように、現在生活に余裕のある人ほど、しっかりと目を通したことがないというケースが多いようです。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』で従業員1,000人以上の大企業の大卒・男性部長(平均年齢52.8歳)の平均給与(所定内給与)をみてみると、月収75万6,600円、推定年収は1,269万8,000円に上ります。同年代の全サラリーマン(大卒・男性・正社員)の平均年収は推定837万円ほどですから、明らかに高給取りであることがわかります。昨今の食品や光熱費の値上がりに苦しむ人も多いようですが、年収1,200万円超の世帯には無関係かもしれません。

この部長のようなエリートサラリーマンの生涯賃金は、単純計算で3億円強*1。原則65歳から手にする老齢厚生年金を算出する際の標準報酬月額は全32等級中で最高の32等級と、どこからどうみても勝ち組です。将来受け取れる年金額に無頓着になり、「ねんきん定期便」を見落とすのも頷けます。

*1:厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』の平均値より算出。従業員1,000人以上企業勤務する大卒・正社員、44歳で係長、48歳で課長、52歳で部長に昇進し、役職定年はないものとする

しかし、60歳で定年退職して65歳から年金を受け取り始めるとしたら、サラリーマンの頂点に到達した人であっても受け取れる年金額は老齢基礎年金も含めて月20万円ほど*2。妻が専業主婦だった場合、2人合わせて月26万円程度になる見込みです。とはいえ厚生年金受給者の平均年金額は月14万円*3ですから、平均と比べれば月あたり6万円、1年では72万円も多く、老後の心配は少ないのかもしれません。

*2:厚生年金の受給額は加入期間が2003年3月までは①「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」、加入期間2003年4月以降は②「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」で計算できるが、便宜上②のみで計算。また老齢基礎年金は満額支給とする

*3:厚生労働省令和3年厚生年金保険・国民年金事業の概況』より

現役時代の年収がいくらでも50代から「質素な暮らし」へのシフトを

50代後半まで月収75万円超だった勝ち組サラリーマン。老後の年金生活についても「まぁ、なんとかなるだろう」という程度にしか捉えておらず、「ねんきん定期便」に一度も目を通したことがなかったとしたら、ピーク時の給与の3分の1にも満たない年金額に大きなショックを受けてしまうかもしれません。

この勝ち組部長に限らず、年金生活に入った後の収入がサラリーマン時代の3分の1程度になるというのは、ごく一般的です。しかし現役時代に高収入だった人ほど、老後の暮らしについて楽観視する傾向が強く、収入減に対応できないケースが多いのが事実です。

総務省の『家計調査』によれば、世帯年収1,200万円台の世帯の消費支出は月42万円ほど。年金生活が始まっても、同等の生活水準を保とうとすれば、毎月10~20万円の単位で貯蓄を取り崩していくことになります。受け取れる年金額を知ってから、「マズいことになった」と慌てて生活水準を落とすのは困難ですから、生活に余裕のある現役時代、50代のうちから徐々に質素な暮らしへとシフトしていく必要がありそうです。

そうした対応を怠れば、現役引退とともに家計は急激に苦しくなり、最悪の場合「老後破産」に至ることも。そんな事態に陥らないためにも、サラリーマン時代の収入の多寡にかかわらず、年に一度は「ねんきん定期便」に目を通し、老後の収入をシミュレーションしておくことが重要なのです。

(※写真はイメージです/PIXTA)